宗像明将が『ベストかまってちゃん』を分析

神聖かまってちゃんベスト盤から見える音楽面の変化 デビュー5年の大胆な試みの軌跡とは?

 

 これほど人騒がせなバンドがよく5年もワーナーミュージック・ジャパンとの契約を継続できていると思う。しかし、“人騒がせなバンド”と思うこと自体が、音楽以外の情報を念頭に置いて、神聖かまってちゃんというバンドを色眼鏡で見ている証拠だ。

 神聖かまってちゃんのベスト盤『ベストかまってちゃん』についての本稿では、あえてそうした情報を省いて、音楽面についてのみ言及してみたい。

 2008年から活動を開始した神聖かまってちゃん。「ベストかまってちゃん」には、2010年のインディーズ盤「友だちを殺してまで。」や「夕方のピアノ」の楽曲、そして2010年のメジャ・デビュー作「つまんね」と同時にインディーズで発売された「みんな死ね」の楽曲も収録されている。

 過去5年間の神聖かまってちゃんの音源を聴き返すと、聴く者の情動を激しく揺さぶり刺激する歌詞とは対照的に、メロディーは常に人懐っこいことも実感する。そして、サウンド面では2012年の『楽しいね』以降、大きな変化が続いており、実はこの3年ほどがサウンドが一番変動している真っ最中なのだ。『ベストかまってちゃん』は、そうした変化を確認できるベスト盤だ。

 楽曲は時系列で収録されている。1曲目は、『友だちを殺してまで。』収録曲にして代表曲「ロックンロールは鳴り止まないっ」だ。ロックンロールとの出会いを歌ったこの楽曲の<最近の曲なんかもうクソみたいな曲だらけさ! なんて事を君は言う、いつの時代でも>という歌詞には、年甲斐もなく胸を揺さぶられたものだ。同時に、この楽曲の持つ“青臭さ”に対して、年配の音楽評論家たちが冷笑的であることには少なからぬ反感を持ったものだ。「若い世代がロックンロールに出会うのが近年であることは当たり前なのに、その衝撃を歌ってはいけないのか、ロックンロールまで先行者利益なのか」と。若いとも老いているとも言えない中途半端な世代である私が、そんな「青臭い」怒りを抱くことになったのも、この楽曲の持つ普遍性ゆえだろう。monoのつたないキーボードで幕を開ける「ロックンロールは鳴り止まないっ」のみずみずしさは今聴いても変わらない。

 『つまんね』収録の「美ちなる方へ」も、胸に突き刺さる楽曲だ。柔和で美しいメロディーに、多重録音によるコーラスと、<出かけるようになりました>という歌詞が乗る。まさに「未知なる方へ」歩みだそうとする姿勢が繊細な言葉で歌われた楽曲だ。この楽曲のヴィデオ・クリップがYouTubeで公開されたとき、繰り返し見続けたことを思い出す。撮影はの子の父親である。

 『つまんね』収録の「いかれたNeet」のファンキーさ、『みんな死ね』収録の「怒鳴るゆめ」のブルース風味、2012年の『楽しいね』収録の「友達なんていらない死ね」のピアノのラテン風味などは、久しぶりに聴き返すと新鮮だ。

 また、2011年の『8月32日へ』収録の「23才の夏休み」は、真夏の倦怠感や鬱屈が見事に表現された名曲である。

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