市川哲史の「すべての音楽はリスナーのもの」第20回

BABYMETALが“元洋楽少年”を熱狂させる理由【海外篇】 市川哲史が海外ファンの反応を分析

 半年ぶりのベビメタ単独日本公演@幕張メッセ(6月21日)は「凱旋帰国」を待ちわびた25000人で埋め尽くされ、慣れぬサークルモッシュが「ボコボコにされて血だらけの輩」や「泣き叫ぶ婦女子」を生むほど、デキあがりきっていた。当日告知された9月の全国Zeppツアー+横浜アリーナ2daysも、きっと極限まで盛り上がりそうだ。

 いつの間にかベビメタは、AKB48以降ずーっと蔓延している<会いに行けるアイドル>とは真逆の、<そうそうお手軽に逢えると思うなよアイドル>として特化してたようだ。

 となればアミューズは、ベビメタを今後どうするつもりなのか。

 これを機に活動拠点を日本に戻して、頂のてっぺんを目指すもよし。これまで以上に海外中心に廻りつつ、日本初のグローバル・ニッチな音楽ビジネスを確立するもよし。もしくは、せっかくだからもう全世界規模で「BABY METALがニュー・ヘヴィメタルを背負って立ぁぁぁぁっつ!」でもあり、かもしれない。

 でも正直な話、どうでもいい。誰にどう担がれようが、ベビメタ神輿は動じないだけの説得力をすっかり備えちゃったからだ。

 客席一体のシンガロングありで既にライヴ定番曲の「Road of Resistance」を最初に聴いたとき、実はがっかりした。なんか「本気で<メタルレジスタンス>を起こそうとしてんのか!?」的な、熱いマニフェスト・ソングに聴こえたからだ。どれだけアンサンブルや楽曲が恰好よくても、詞のモチーフやメロが「なんちゃって♡」と言い訳のように突き抜けてただけに、洒落では済みそうにない熱さが哀しかったのである。

 ところがよく聴いてみると、ベビメタ最速の疾走感といい高らかな唄い上げが似合うサビといい単純明快な構成といい、実に見事なアニソンなのだ。いまからでも遅くはない、どうですかおたくさまの新作アニメの主題歌に。

 思うにベビメタって、アイドルとメタルとV系とアニソンと漫画とバンドサウンドとロリといった、日本人固有の歴代<愛すべきサブカルチャーたち>の合流点なのかもしれない。だから私のような非ナショナリズム者でも、海外で地元民を手玉に取って翻弄する彼女たちについつい喝采してしま……いや、嘘はよくない。

 その徹底したストイシズムが却って可憐さを際立たせるBABYMETALのステージを観て、誰が平静でいられよう。父性本能がとまらない。キラキラしてるのもカワイイのも美味しいものも、パパじゃなくておじさんが全部ぜーんぶ買ってあげるから、これからも頑張るんだよ?

 おいおい。

 お里が知れましたとさ。

■市川哲史(音楽評論家)
1961年岡山生まれ。大学在学中より現在まで「ロッキング・オン」「ロッキング・オンJAPAN」「音楽と人」「オリコンスタイル」「日経エンタテインメント」などの雑誌を主戦場に文筆活動を展開。最新刊は『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』(シンコーミュージック刊)

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