新作『テクニカルブレイクス・ダウナー』インタビュー

5年ぶりに復活! ジェッジジョンソン藤戸が語る、これからの音楽「当たり前が変わった中でどうするか」

 

「次にジェッジが何をやるかも考えないといけない」

ーーやっぱり音楽が好きだ、って改めて感じられた期間だったんじゃないんですか?

藤戸:そうですね。音楽に対する愛情が強くなった時期でした。ただ、手術後、いろんなことが変わって。作曲の方法も変わって、難しかったです。

ーーどんなふうに変わったんですか?

藤戸:今までPCベースで作曲していたんですけど、それで曲が作れない時期もあったんです。音が聴こえないので譜面だけで作らなきゃいけなくなって。

ーーそれって、想像で作るっていうことですよね?

藤戸:そうですね。今まではPCの中で曲を完結させていた人間が、初めて譜面を書いたんです。時間はかかりましたけど、作曲の幅は広がりましたね。実際に聴こえるようになって、スコアを見てみると、よく頑張ったなって思いました。まあ、やり過ぎだとも思いましたけど……今回、いろんなことをやり過ぎましたね(笑)。でも、ネガティヴな反応がないのが逆に怖いです。SNSってみんな勝手だから、ネガティヴな反応も出るはずですし、批判も受け入れる覚悟はあったんですけど、今んとこ全くないんですよ。びっくりしていますね。非常にマニアックな方々がマニアックな評価をしてくれるのも、面白いなあって。それも5年前ならなかったかもしれないですね。ユーザーから何かを発信することもなかったと思うし、それを作った本人が目にすることもなかったと思うんです。

ーーやり過ぎっていうところで言うと、18曲も収録されていますよね。

藤戸:これも、今の手法とは真逆のことをやっちゃったんですよね。今ってミニアルバムを小刻みに出すアーティストが多いと思うんです。よく門田(Poet-type.M)と話すんですけど、あいつは真っ先に今の流れと真逆のことをやって、立ち向かおうとしたと思うんです。フェスうんぬんではなく、独演会でクラスターを率いて、どんな音楽を形成できるか声をあげたっていう。楽曲もやり込んでいますし。そんな中で僕も、より作品として出していく手段の方が差別化できるし、こういう人たちがちょっと増えてきたと思い始めていたので。曲多めで自分の世界を見せようと。出来た曲は全て入れた感じです。

ーー元々ジェッジは二部作も多かったですし、作品毎に物語性があるから、曲数が多くなるのは必然だと思いますよ。

藤戸:自分の音楽を表現する場合に、曲が多くないとダメかなって。ジェッジってずっとエレクトロロックって言われてきましたけど、実際はアレンジの一環だと思っているんです。基本はポップミュージックだし。それって短い作品では、かなり理解しがたいと思うんです。もっと言ったら、エレクトロロックってなんだろう、ってなるんじゃないかな。四つ打ちでブチ上げEDMみたいなものもエレクトロロックだし、人力でシンセが乗っかるものもエレクトロロックだし、いろんな形があると思うんです。それを5、6曲で表現するのは難しいし。馬鹿にされていたエレクトロロックを表現するには、この曲数が妥当だと思いました。

ーーエレクトロロックも、この5年間で完全に市民権を得ましたよね。

藤戸:純粋に嬉しいですよね。僕がマッキントッシュを買って音楽をはじめた当初は、ライヴハウスなんか出してくれませんでしたし、ドラムがいないから打ち込みを使っているんだろうってユーザーに思われていたし。その中にも気に入って下さる方はいましたけど。僕自身もやり易い時代になったので楽しいですね。

ーー当初から、こういう時代が来ると思っていました?

藤戸:必ず来るとは思っていました。

ーーだから、馬鹿にされても続けてきた?

藤戸:そうですね。大事なことは、多少辛くても続けることなので。もっと言うと、この先はDTMがなくなるだろうな。アプリだけで完結する時代が来ると思いますし、次にジェッジが何をやるかも考えないといけないかな。今、DTMで曲を作っている人の九割は、恐らく音符を読めないと思いますよ。元々はクラシックで楽曲を共有するために作ったものですけど、PCがあればいらないですし。

ーーそんな時代に藤戸さんは、譜面を書けるようになったと。

藤戸:現代文やりながら古文を覚えた感じですね。

ーー古文を覚えることで、現代文も書きやすくなったんじゃないんですか?

藤戸:そうですね。よりオタクになったのかもしれません。

ーーそして、PC一台だけでステージが完結する今も、バンドを続けているっていう。

藤戸:一人で完結しがちな、内向的に見られたPCミュージックをライヴハウスで表現する、その目的がジェッジだったので。ライヴハウスで育ったDTMですから。

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