作詞家zopp「ヒット曲のテクニカル分析」第2回(前編)

SMAP、NEWS、Sexy Zoneの歌詞に隠れる“引喩”とは? 表現を豊かにするテクニック

「耳なじみがあっても最近の人の発言を使うのは難しい」

ーーファッションなどもそうですが、おおよそ20年周期で歌詞のあり方も変わっているのかもしれません。

zopp:細かく紐解いていくと面白そうですね。あと、引喩には物語が用いられるのと同様に、名言を引用しているケースも多いんです。たとえばブルース・リーの名言「Don't think Feel(考えるな、感じろ)」って、色々なものに使われていますよね。僕はNEWSの「Fighting Man」でこのフレーズを引喩しました。個人的に好きな名言は、ガイウス・ユリウス・カエサルの「賽は投げられた」で、昨日まで仲間だった人達と戦わなければならないときに、「やってられっか!」とか「皆殺しだ!」ではなく、この言葉を使ってルビコン川を渡って行く。なんて素晴らしい時代だったんでしょうね。ちなみに僕はこのフレーズを、山下智久くんの「月と太陽のラプソディ」と、ももいろクローバーZの「上球物語」に使っています。作詞をする際にこの手法が使いにくいという人は、逆に自分の小さな経験を、御伽話や名言に例えたらどうなるかを考えると幅は広がるので、やってみることをオススメします。

ーー実体験をそのまま歌詞にするのって気恥ずかしい部分もあるでしょうし、そうしたカモフラージュは有効でしょうね。

zopp:よく生徒から「実体験を元に歌詞に書かれているんですか?」と訊かれるんですが、実際は“なんちゃって実体験”なんですよ。体験している人の気持ちになったり、聴く人の気持ちになって書いているだけで。15歳のアイドルには15歳向けの、もしくはその子たちのファンが経験しそうな言葉に置き換えているんです。作詞家を目指すひとのなかには、「自分って作詞家になれますかね」という40代や50代の方もいるのですが、物語の根幹は変わらないので、言葉の使い方や言い回し、アイテムをちゃんと今のものにアップデートすれば書けるはずなんです。恋愛や友情は普遍的で変わらないものですから。

ーー時代を表す言葉というのは得てして強いフレーズなので、歌詞に使った時に頭に残りやすいというのもあるのでしょうか?

zopp:はい。逆に造語がブレイクするのは稀ですが、当たると大きい。ドラマの『家政婦のミタ』は、引喩を使っていながらも造語のようなタイトルで目を引いたすごい例です。あと、引喩に使うべき名言って、耳なじみがあっても最近の人の発言を使うのは難しいと思います。たとえば、水泳の北島康介さんが言った「チョー気持ちいい」を歌詞に使っても気恥ずかしいじゃないですか。僕が知る限りは、ご健在にも関わらずよく使われているのってアントニオ猪木さんくらいかも。ほとんどが昔の物を焼き増してるんですよね。大体同じ事を言ってるんですども現代風になっているとか。

――まったくゼロからの造語って、いまはほとんどないのかもしれませんね。

zopp:相当難しいと思います。昔は辞書になければオッケーという感じでしたが、いまはもうハンドルネームや個人ブログの名前なんかでもガンガン造語ができているので、作った言葉でもネットで調べると誰かが先にやっている場合が多い。あとは、外国語の響きで同じような言葉があったりしますし。存在する言葉同士を組み合わせた造語もありますけどね。たとえば、Hey! Say! JUMPの新曲「我 I Need You」は、外国語で「好きです」を表した「我愛你」と「I Need You」を組みあわせた造語ですね。僕が書いたものだと、NEWSの「恋のABO」がそれにあたるのですが、血液型のA型・B型・O型・AB型を、アルファベットの「ABC」とかけました。

――組み合わせ方によっては既視感のある造語になるわけですね。

zopp:これも一つの作り方ですね。ただ、流行語大賞などを見ていると、長く残る言葉って、何かの引喩じゃなく、他の何にも置き換えれない造語なんだと思います。だからこそ見つけたときのリターンが大きいわけなのですが、そこまでハイリスクなものをはじめからやる必要はないので、作詞を勉強しているひとはまず引喩から取り組んで欲しいです。

(取材・文=中村拓海)

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