「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第14回 『Vampillia主催 いいにおいのするいきのいいやつらTOKYO』
BiSHはBiSの最初期と最末期が混在しているグループだーー初ライブ現場を体当たり評論
BiSHのステージが終わると、再び西村ひよこちゃんのDJに。「Fly」では天井の梁からぶら下がっていて、そのままFlyするのでは……と心配になるほどの暴れぶりだった。
Vampilliaは、そこから一転して静謐な演奏から始まり、次第にハードな演奏へと展開していった。彼らの音楽を表現するとき、プログレ、音響派、メタルなどさまざまな形容が頭に浮かぶが、どれもが陳腐だ。実のところ、クラシックからの影響が形式化/形骸化していない、極めてフリーフォームなポピュラー音楽であるように感じた。
そうしたフリーフォームな姿勢は、音楽性だけではなく、前述したようなミッキーマウス男の脈絡のない登場や真部脩一による清春のモノマネなど、ステージ上の一筋縄ではいかない光景にも共通している。ヴォーカルのモンゴロイドは、途中でフロアの脚立にのぼって歌い、ミラーボールに触れんばかりになった。
Vampilliaは、音楽的にはポップスからアヴァン・ミュージックまで短時間で横断してしまう極めてハイコンテクストなバンドだ。その一方で、ステージでのパフォーマンスは、ゴスなイメージに統一してしまうことも簡単であるはずなのに、あえてローコンテクストな要素も取り入れており、それはユーモアにも直結している。音楽面でもパフォーマンスの面でも、様式美にとどまることのできない人間たちの性(さが)が滲みだしているところが、Vampilliaというバンドの魅力の中核だろう。
DJゆうたむこと元AV女優の並木優が登場すると、フロアはそれまでとは別の意味で熱い雰囲気に。B'zの「ultra soul」、trfの「survival dAnce ~no no cry more~」、スキャットマン・ジョンの「スキャットマン」などを次々につないでいくDJは、大ネタ使いにしてスキルのあるものだった。
トリはNATURE DANGER GANG。演奏が始まって1分未満でメンバーがフロアにダイヴした。フロアでのモッシュもすぐに激しくなっていく。ライヴハウスを一瞬で見世物小屋に変えてしまうのがNATURE DANGER GANGだ。ステージのフロントに猥雑な10人ほどが横一列にズラリと並ぶ姿は、「スカムパークのクラフトワーク」といった雰囲気でもあった。
NATURE DANGER GANGは、ステージの破天荒さばかりが語られがちなグループだが、低音がきいたフロアでドラムンベース、ジューク/フットワークなどを独自に消化したトラック群をほぼノンストップで聴いていると、真面目なダンスミュージックのグループだとよくわかる。福山タクのサックスはもちろんのこと、バーカウンターで突然叩かれたシマダボーイのパーカッションも冴え渡っていた。うっかり音が止まってもメンバーはフロアにダイヴする。音楽面の真面目さとパフォーマンスとしての突拍子のなさが混在するステージ。そして代表曲「オレたち!」のイントロが流れると、その瞬間からファンの大合唱が始まった。「オレたちは ひょうきんさ ふざけてる いつでも」と。
この日の出演者を見ると、BiSHとNATURE DANGER GANGはさして縁がないように思えたが、いや、元BiSのメンバーの現場でアンコールが途切れると、隙あらば元研究員が歌い出すアンセムがNATURE DANGER GANGの「オレたち!」なのだ。NATURE DANGER GANGとの共演でBiSHのデビュー・ライヴが行われたのもある種の必然だ。両者の縁をつないだのが、様式美から逸脱するVampilliaだというのもすべてを物語っている。これも必然だろう。そんな彼らがフロアを巻き込んで狂騒を生み出し続けたのが「いいにおいのするいきのいいやつらTOKYO」というイベントだった。
■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter