柴 那典「フェス文化論」第10回(インタビュー後編)

「挑戦の結果を5年以内に出したい」鹿野 淳が語る、ロックフェスの現状と未来

「音楽は死なないのに、音楽マーケットは死ぬのではないか」

ーー「ロックというマーケットを再構築したい」と仰っていましたが、今の日本の音楽シーン全体においてロックというものがマイノリティであるという実感はありますか。

鹿野:それはすごくあります。今の時代は、ロックをやっている人自身が「ロック」という言葉への嫌悪感を持っている時代だったりもする。これはものすごく逆風だということだとも思います。そういう時代に、あえてロックということにこだわって、そこに音楽を好きになることの本質があると主張することが、果たして通用するのかしないのか、正直なところ自分にはわかりません。ただ、これが一つの戦い方となると思います。果たしてロックがもう一度マーケットを勝ち得るのか。それはこの先5年が勝負だと思います。

――5年が勝負、というのは?

鹿野:このフェスティバルが今後もロックにこだわることによって、逆にロックアーティスト自身がそれを「ダサい」と感じて出なくなったり、自分たちがロックだと感じる人たちをブッキングできなくなっていけば集客も失敗するでしょうし、続けられなくなる。そうなるとこのフェスは負けることになると思います。しかし、自分としてはこの戦い方で勝ちたいと思っている。そういう挑戦の結果を5年以内に出したいと思ってやっているのが現状です。

――そういうところにも他の大きな音楽フェスとの違いがある。

鹿野:逆に言うとロックフェスにこだわっているので、このフェスではロックのエッセンスが明確に入っている人以外を今はお呼びしていません。でも、そうでなくても大成功している音楽フェスは沢山あります。歌謡曲、アイドル、ポップ、ロック、クラブというようなものが一緒になっていくシーンと、そういうフェスマーケットもある。さらに、今年から『FUJI ROCK FESTIVAL』は今までとラインナップの方向性を大きく変えてきた。この先はより敷居の低いフェスになっていくと思います。フェスシーンの一つの新しい流れがそれによって生まれるようになる可能性もあります。

ーーたとえば『SUMMER SONIC』は、始まった当初の「都市型の洋楽ロックを中心としたフェス」という打ち出し方から大きく変わりましたよね。新しい都市型レジャーとして、フェスというものに行ったことのない人も引き寄せるものになっている。アイドルからK-POPまで多様な音楽ファンが訪れるものになっています。

鹿野:SUMMER SONICは都市型のフェスとして最高水準のクオリティを、人を選ばない形で表現できている。フェス初心者の人も一日楽しめるものになっている。それは素晴らしいものだということを前提とした上で、ただ僕としては、フェスはメディア性を持つべきものだと考えている。多岐に渡る音楽をプレゼンテーションするフェスティバルが、どうメディア性を持ち得るのかは、自分にはよくわからないんですね。

ーーここ数年で人気が拡大したフェスには『METROCK(TOKYO METROPOLITAN ROCK FESTIVAL)』もあります。METROCKはテレビ朝日が運営に参加していて、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)司会の弘中綾香アナウンサーがオープニングMCも務めている。『Mステ』との連動性がフェスのブランドの一つになっているし、一つの健全なショーケースメディアとなっていると思います。

鹿野:それは僕もすごく感じていますね。METROCKは素晴らしいフェスだと思います。そこには『Mステ』が日本の音楽メディアとして圧倒的な力で最大公約数を持っている、ということが前提にある。『Mステ』が作る現場、それが間違った方向性に行かなければ、それは素晴らしいフェスになると思うし、素晴らしいメディアになると思います。ただ、そういう強力なメディアとしての地盤を背景に持った上でいろいろな音楽を呼んでいるフェスは他にはない。そういう意味では、フェス論としてのメディア性にどういう変化が起こっていくのか、ネガティブな意味ではなく興味があります。それによって、今自分がやりたいことも見えてくるとも思います。

ーーまた、アイドルフェスの『TIF(TOKYO IDOL FESTIVAL)』は今年で6年目を迎えました。立ち上げに携わったプロデューサーの門澤清太さんにお話を伺ったことがあるのですが、作り方としてはフジロックを参考にしたそうです。「かつてのアイドルブームはテレビメディア的なものであったがゆえに長続きしなかった。フェスという現場を作って多様性がそこに生まれると、ブームが終わらず文化として定着する」と仰っていました。『TIF』はフジテレビが手掛けるフェスですが、そういう意味では、テレビメディアがフェス文化を学んだ成果としての面もTIFにあると思います。僕自身は、フェスのメディア性として、単なるショーケースだけでなく、文化を作っていく意識があるフェスが継続した成功を収める印象があります。

鹿野:『TIF』は、フェスティバルというものが手段と内容を選ばないというところから生まれたオルナタティブなフェスだと思います。そういうところから、いい意味でのポップなコアというものを新しく生んだ。そういう役割を果たしたと思います。そういったフェスが今後も巨大フェスとして最前線に居続けられるのかどうか、そこにも興味がありますね。

ーーフェスの市場が拡大している一方で、出演者にもお客さんにとってもフェスの数が増えて飽和しているというイメージもある。そうなっている以上「刺激的でない」と思われたものは動員が減っていくかもしれない。サバイバルの状況になっていくと思います。その中で、VIVA LA ROCKはロックフェスとしてのあり方が音楽シーンの礎になるという確信を持ってこれからも続けていかれるということですね。

鹿野:そうですね。まさに、この先5年が勝負だと思います。

(取材・文=柴 那典)

 

■イベント情報
『VIVA LA ROCK 2015』
公演日:2015 年 5 月 3 日(日)・4(月・祝)・5 日(火・祝)
会場名:さいたまスーパーアリーナ 開場 9:00 / 開演 11:00 / 終演 21:00 予定
チケット代:1日券 ¥10,000(税込・WELCOMEDRINK1杯付)
2日券(5月3日&4日・5月4日&5日) 各¥18,000 (税込・WELCOME DRINK1 杯付)
3日券 ¥24,000(税込・WELCOMEDRINK1杯付)
年齢制限:小学生以上チケット必要(小学生未満は保護者同伴のもと、入場無料になる)

3日通し券販売中
・イープラス
紙チケット販売ページ ※先着順の発売。

スマチケ販売ページ ※クレジットカード限定、先着順の発売。

・ローチケ
チケット販売ページ

・ぴあ
3日通し券販売ページ
2日券(5月3日&4日)販売ページ
2日券(5月4日&5日)販売ページ
1日券販売ページ

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