ニューアルバム『Kanata』インタビュー

Mellowhead深沼元昭が語る、音楽家としての信条とサヴァイヴ術「『周りが見えない力』も大事」

 

「新しい古いを気にしているところから本当に新しいものは生まれて来ないんじゃないか」

――ボーナスディスクでは、それぞれが歌った曲をご自身で歌ったバージョンも収録されています。

深沼:そこは僕が歌っても成立してないでしょ?っていうのをむしろ見てほしいというか(笑)。作曲家が歌ったとしても、なかなかさまにならない。これだけ難しいんだよっていう。

――一方、アルバムでは1曲目に「逆光のせい」が、そしてラストの13曲目に「逆光のせい(reprise)」として堀込泰行さんが同じ曲を歌うバージョンが収録されています。これは他3曲のフィーチャリング曲とは違う意味合いがあるのではないでしょうか。

深沼:そうですね。これは最初から二つのバージョンを作って最初と最後に置こうと思ったんです。この曲の歌詞は、ひたすら前向きなわけではなくて、どちらかというと憂いや迷いも出てるんです。でも、最後に泰行くんが歌うと、全く違う響きになる。魔法のような声だと思うんですよね。アレンジも変えて、彼が歌うことでより明るく響くような演出にした。一枚のアルバムの中でそういうことに挑戦したかったんです。

――Melloheadの作品にはご自身のそういった感覚が反映されているわけですね。音楽を巡る状況は様々に変わっているわけですが、深沼さんとしては今の音楽シーンをどう見ていますか?

深沼:そうだなあ、今はあまり見えてないんですよね。むしろ20代の頃のほうがシーン全体を見据えてたと思います。そこから自分の立ち位置をどうしようか考えていた。でも、やっぱり20年も見てきてるから、いろんな人がいろんな場所で活躍しているし、ずっと続けて実力を証明している人もいるし、消えていく人もいる。いろんなことがあるから、とにかく自分のことを考えようという感じなんです。

――20代の頃、30代の頃、そして今とマインドはどう変わってきた感じでしょう?

深沼:さっきも言ったように、20代前半の頃はどうせすぐに食えなくなるから、パッと気分よく辞めようと思ってたんです。潔く引退しようと考えていた。でも、やっぱり20代後半になって、いろんなことがやりたくなった。原体験が宅録だったのもあって、クリエイターとしての発想が出てきた。で、30代直前ぐらいで深田恭子さんの曲を書いて、運よくヒットしたこともあってたくさんの仕事が来て、収入も上がっていった。そうなった時に、いわゆるレコーディング・スタジオに負けないくらいの環境を自宅に整えようと思ったんですね。Pro Tools一式も含めて、何百万っていう世界だったんですけど。

――数百万の車を買うよりも数百万のスタジオセットを買って、自分への投資をした、と。

深沼:いや、投資というより、もうとにかく欲しいから買ったっていうのも大きいんですけれど。実際、その時に車も買ったし(笑)。

――ははは、そうなんですね。

深沼:まあ、そこで自分の出発点に戻ったんですよね。MTRを使ってた10代の頃と同じように、サウンドメイキングの主導権を取り戻した感覚があったんです。その頃に仕事が一気に増えて。当時はわからないことだらけだったんですけど、とにかく「できる」って言って、その後に必死で勉強したり。たくさんの人たちに助けてもらいました。30代は、ひたすらそういう勉強の期間だったと思いますね。自分ができるって言ったことを本当にやれるようになるまで頑張る、という。

――とはいえ、いわゆるエンジニアやサウンドプロデューサー専業にはならなかった。

深沼:ならなかったですね。Mellowheadも個人のスタジオで作っていたんですけど、結局、そういうことをやりつつも、ライブがやりたくなった。軽い気持ちで、ライヴハウスに出たいなと思ってGHEEEを始めたんですよ。で、近藤(智洋/元PEALOUT)さんに声をかけた。そこでバンドとしての、ライブをやっていく楽しさも改めて知って。GHEEEはみんな90年代から活躍してきたメンバーだし、Hisayoちゃんも今はa flood of circleでもすごいベーシストになってきていて。そういうメンバーの中で4分の1でいられる楽しさがあるんですよね。で、その頃に佐野さんのコヨーテバンドに呼ばれて、レコーディングとツアーをやった。で、その後に浅井さんと知り合って、レコーディングの音を任せてもらいツアーにも参加した。そういう中で、ライブの楽しさみたいなものを、30代の終わりから40代にかけて改めて知るようになっていった感じです。

――一方で、深沼さんはchayや戸渡陽大、The Cold Tommyのような若い世代のシンガーソングライターやバンドのプロデュースも手掛けています。そういう、年下の世代の感覚はどう捉えていますか?

深沼:そこはあんまり考えたことないんです。よくよく考えたら自分の子供くらいの歳なのに、そういう自覚もあんまりない。いつもと同じようにやってるんですよ。「これ、どう?」って言うと「ああ、いいですね」とか「ここはこっちのほうがいいです」みたいな、そういうコミュニケーションなんです。

――フラットに同じミュージシャンとして接している。

深沼:そう、同じミュージシャン同士なんですよね。そういう共通言語で接しているから、世代の違いを感じないんだと思います。あとは、世代的なものを含めて、新しい古いを気にしているところから本当に新しいものは生まれて来ないんじゃないか、とも思っています。

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