矢野利裕のジャニーズ批評

ジャニーズWEST、デビューアルバムに冠された「GO WEST」が示唆する壮大な物語とは?

 このように考えをめぐらせると、本作『go WEST よーいドン!』は、日系アメリカ人のジャニー喜多川が戦後、カリフォルニアからさらに西へ進んで東京へ、その東京からさらに西へ進んで関西へ、という、壮大な「GO WEST」の物語のように見えてくる。だとすれば、「ズンドコパラダイス」の出だしが、同じくヴィレッジ・ピープルのオマージュのようなサウンドだったことの意味も深いものに思える。グループ名に「ジャニーズ」と入るのは初代ジャニーズ以来のことだが、ジャニーズWEST、実はジャニー喜多川の精神が脈々と息づく存在なのではないか!?

 大谷能生・速水健朗との共著『ジャニ研!』(原書房)は、戦後日本のポピュラー音楽とアメリカの関係を明らかにしようと試みたものだが、その役割はそれなりに果たせたと思っている。日本のポピュラー音楽のことを考えるためにはアメリカとの関係は無視できないので、ジャニーズの歩みをたどることは、戦後日本のポピュラー音楽全体について考える契機になる。先日、輪島裕介『踊る昭和歌謡』(NHK新書)という好著が出版された。この本では、日本のポピュラー音楽とアメリカを経由したラテン音楽の関係について詳細に論じられている。本作収録の「ちゃうねんっ!!」は、2000年代後半に流行したジプシー・ブラス的なサウンドを意欲的に取り入れ、「チャチャチャ」と歌わせることによって歌謡曲化したもの(!?)だが、これは輪島が提示した日本ポピュラー音楽史の延長で考えると、たいへん興味深いものである。というか、こんな不思議な音楽は聴いたことがない! なんかすごいぞ、ジャニーズWEST。日本のポピュラー音楽の歴史を不思議なかたちで抱え込んでいるジャニーズWESTのことが気になり始めている。

■矢野利裕(やの・としひろ)
批評、ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。

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