Sing Like Talkingが30年貫いた独自の姿勢 ジャンルに縛られないサウンドを改めて聴く

SING LIKE TALKING「Rise」from LIVE DVD「Amusement Pocket 25/50」

 1枚ずつじっくりと聴いていくと、その理由がわかってきます。そこにあるのは、とにかく広がりのある音楽世界。この中でもっとも初期の音源である「Steps Of Love」はボビー・コールドウェルあたりのAORを思い出しますし、UKのアシッド・ジャズ・ムーヴメントに影響されたようなひんやりしたサウンドの「Missin' You」、アース・ウィンド&ファイヤーのようなファンキーなリズムやソリッドなホーン・セクションが炸裂する「Rise」など、初期には比較的70年代から80年代前半の音楽に影響を受けたサウンドが多いような気がします。実際、現在に至るまで、アダルト・コンテンポラリーやシティ・ポップス、メロウ・グルーヴといった表現をしたくなる楽曲が核になっているのは確かでしょう。

 しかし、彼らのテイストはそれだけではありません。明らかにビートルズの影響が垣間見られるサイケデリック風味の「素晴らしい夢の中で」、和製ゴスペルの名曲といってもいい深遠な世界観を持った「Spirit Of Love」、ヘヴィなディストーションを効かせたギターが唸るロック・チューン「The Law Of Contradiction」、ベン・フォールズにも通じる壮大なピアノ・ロック「月への階段」、フォーク・ロック風のアレンジが懐かしさを感じさせる「Human」などなど。引き出しの多さは、先輩格である山下達郎や桑田佳祐にも匹敵します。

SING LIKE TALKING「Spirit Of Love」from LIVE DVD「Amusement Pocket 25/50」

 さらに、今回のために書き下ろされた新曲だけとってみても、グルーヴィーかつメロディアスなポップ・ロック「Ordinary」、ギターの音色とコーラスワークにブリティッシュの薫りを感じるミディアム・ナンバー「Travelers」、80年代のファンクやブラック・コンテンポラリーを思わせるクールな「幾千万のSouvenir」と、まだまだサウンド面に関しては幅を広げ続けています。もちろん、あまりに大風呂敷を広げすぎると逆に散漫になってしまうという危険性もあるのですが、佐藤竹善という稀代のボーカリストがフロントに立つことによって、これらをすべて受け入れ、そしてどんなジャンルにアプローチしても彼ららしさを出しているわけです。

 もしも彼らが、「R&B」とか「ブリティッシュ・ロック」といったお決まりのサウンドに徹していたとしたら、違う形でブレイクしていたかもしれませんし、ある特定のジャンルのなかではカリスマ的な存在になっていたかもしれません。もしくは、サウンド指向は薄味にしてわかりやすいJ-POPを目指していたなら、誰もがカラオケで歌えるようなヒット曲を飛ばしていたのかもしれません。ただ、そういう周りの環境に流されず、独自の姿勢で四半世紀以上も続けていたことによって、今の彼らを確立したことを思えば、結果的にグループとしては成功だったのかなと思うわけです。

 きっとこれからも僕らは、「Sing Like Talkingってどんなアーティスト?」と聞かれて困ることでしょう。でも、そうやって困っているうちは、彼らが彼ららしい音楽を作り続けているんだと思えば、困るのも悪くないんじゃないかなと思うわけです。

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。

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