『Tomorrow Comes』リリース記念特別対談

suzumoku×平野愛智が語る、震災4年目の表現「自分の曲が、聴いた人の変化のきっかけになれば」

 

「4日目に同じ場所で撮影したときには、初日と全然違うものが出てきた」(平野)

――今回、撮影を進めていくなかで、平野さんから見たsuzumokuさんの変化というのはありましたか?

平野:歌のシーンは南浜町のススキの生えているところで初日から撮っていたのですが、実際にMVに使われているのは4日目の素材です。初日は何も注文をしないで一発撮りしましたが、suzumokuさんのカメラとの距離感や、メッセージを伝えるうえでの力が少し弱いなという印象を受けたんです。ただ、2日目、3日目とやっていくなかで、緊張がとけ、自分が抱えていた気持ちと現場での体験がちゃんと消化できてきたのか、曲のエネルギーが歌に乗ってきた。4日目に同じ場所で撮影したときには、初日と全然違うものが出てきたんです。メッセージを伝えるには、このくらいの表情の強さや目力がないとやっぱりダメだなと思いましたね。

suzumoku:最初は、全然レンズを見てなかったと思う。どこを見たらいいか分からなかったんです。カメラのレンズを見ればいいのに、なんだかしっくりこなくて。でも、いろんな人と会って経験を重ねていくうちに分かってきた。たとえば、ここでちょっとだけ撮ろうかというときに、いま寄ってきた場所に、視線をがっと向けてみたり。どこ見たらいいのか、視線がだんだん定まっていったというのはありますね。

平野:これは聞けてよかったですね(笑)

suzumoku:民子さんのところに行った後に、近くの堤防に寄ったんですけど、そこで民子さんの作業場が見えたから、オレの声が聞こえるんじゃないかなと思って、ずっと作業場に向かって歌ってたんです。「明日が来るぜ」という曲を、その時々でどこに向けて飛ばすべきなのかというのがようやく分かってきたのかなと。

平野:その日の午前中も撮りながら「もう少し表情に出ればいいな」とは思っていました。suzumokuさんは、地元の人達の手伝いも恐縮してやっているように見えたんですよ。向こうの人たちって話してみればすごく良い人たちなんですけど、無口でぐいぐいやる人が多くて(笑)。でも、午後に民子さんのところに行った後、堤防の辺りからsuzumokuさんが良い顔になってきた。変化したポイントはそこらへんかもしれないですね。民子さんに震災の話を直接聞いてから、いろいろ消化できたのかなと思います。

suzumoku:震災の具体的な被害を語ってもらったのは、民子さんのところが最初だった気がします。それまでも色々な人と出会って話を聞いていたけど、あの日に民子さんの話を聞いて、「みんな大変だったんだ」とこれまでの話がつながった。

――撮影を通して、改めてこの曲に対して生まれた思いはありますか?

suzumoku:みんな、なるべく他人に迷惑を掛けずに生きたいけど、それは不可能だと思うんです。明日はどうなるかはわからない、また自然災害が突然来るかもしれない。それは誰にも恨めない。だったら、やるべきことをやる。どうなるかわからない明日のために、なるべく今日という日をベターに進めていく。そういう意味で、ちゃんと明日になる、明るい日になるという思いを込めました。どれだけ数字的には景気がよくなっても、人の心がバラバラだったら、景気が良いとかハッピーとは思えない。いま、世の中がそういうことを考える時期に来てるんじゃないかなと思います。

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