「うた」へと向かう若手ロックバンドたち――音楽シーンのJ-POP回帰を考察

「キャッチーで覚えやすい」が意味することの変遷と回帰

 J-POPの誕生以来、日本のポップミュージックは「覚えやすい」「印象に残る」という要素を最重要課題として発展してきた。それを達成するための手段はいくつもあるが、ここ数年は特に「メロディ」ではなく「ギミック」にフォーカスした手法が大きく進化してきたという肌感覚が個人的にはある。「何曲分の情報量が詰め込まれているのかわからない」といった表現でおなじみの奇抜な展開を繰り返すアイドルソングや極限までBPMを上げたロックサウンドなど、「そこまでやるのか!」という驚きが中毒性に転化する形で評判を獲得するケースが明らかに増えた。「情報が溢れる世の中で認知されるには強い刺激が必要」ということなのかもしれないが、「刺激競争」の先に待っているのは「感覚の麻痺と崩壊」のような気がしてならない。

 ただ、やはり一つの潮流が極端に進んでいくと必ず反作用が起こる。たとえば赤い公園の津野米咲は、ポップに振り切ったアルバム『猛烈リトミック』における重要曲“NOW ON AIR”について「レジーのブログ」におけるインタビューでこんなことを言っている。

「素晴らしいJ-POPは、編曲を問わないと考えています。いつ、どこで、誰が、どんな編成で演奏しても良い曲でなくてはなりません。強力なメロディーと歌詞無くしては成り立たないものだと思います」

 こういう感覚で音楽を作っている若いバンドが存在することに僕はとても勇気づけられた。日々の生活に寄り添うポップミュージックにとって最も重要なのは、時代がどんなに移ろっても「うた」そのもの、つまり「メロディとそこに乗る言葉、それを歌う声の組み合わせ」ではないか?そして、「J-POPをルーツとする日本のポップス」というものが生まれるのであれば、それは単にインパクトがあるという意味で印象が強い音楽ではなく、「うた」にこだわった音楽というDNAの伝承であるべきだと強く感じる。これは決して「鎖国」「ガラパゴス化」といった後ろ向きな話ではなく、メロディを起点に発展してきた日本のポップミュージックの正当進化と呼べるものである。

 ここで話は冒頭に戻る。2010年代の日本のロックの主戦場はライブやロックフェスだと言われながらも、実はこれまで以上にテレビとの結びつきが強くなっている。不特定多数の視線にさらされる場での勝負を挑むために、ロックバンドは改めて「うた」を武器として手に取るのではないだろうか。この見立てには僕の願望も多く含んでいるが、実際にそういった動きが少しずつではあるが見えてきているように思える。

再び「うた」を聴かせるロックバンド

「J-POP的なよさ=キャッチーで覚えやすいうたとロックバンドの再接近」というフレームで考えたときに真っ先に思い浮かぶのが、ここ最近一気に知名度を増した感のあるShiggy Jr.である。作品ごとにギターロックやダンスミュージックなど様々なテイストを選び取りながら、その根底にあるのはあくまでもメロディ。楽曲制作を一手に引き受ける原田茂幸も「歌が一番大事、他は楽曲を支えるものにならないとダメ」と公言している。「ポップで楽しい」ことを第一義とするバンドのスタンスやボーカルの池田智子のキャラクターも含めて、マスメディアとの相性も間違いなく良いだろう。先日J:COM テレビで放送された「MUSIC GOLD RUSH」においても、サバンナの高橋茂雄や9nineの西脇彩華と息のあったやり取りを見せていた。

 今年7月にメジャーデビューを果たしたボールズも、「うた」を主体にしたロックバンドとしてこれからの飛躍が期待される。「大阪のスピッツ」というキャッチコピーがつけられていたこともあるが、個人的にはボーカルの山本剛義の歌声から想起されるのは繊細さや儚さよりも力強さ。エレカシの宮本浩次、もっと言えばオアシスのリアム・ギャラガーにも通ずるような堂々としたボーカルスタイルは最近の日本のロックバンドにおいてありそうでなかった存在感を放っている。海外のインディーシーンの空気をまといながらも耳なじみの良いメロディゆえに敷居の高さ、小難しさを一切感じさせない彼らの楽曲は、様々な音楽好きの結節点となる可能性を秘めている。

 ボールズとも共演経験のあるAwesome City Clubもこの流れに加えたい。ソウルミュージックを下敷きにしたアーバンなサウンドを鳴らしながらもメロディはどこまでも人懐っこく、「間口の広さ」と「洗練さ」を絶妙なバランスで両立している。現状ではフィジカルリリースをせずにフリーで音源を公開しているが、今後どういった活動方式をとるのかも含めてとても興味深いバンドである。

 ここで名前を挙げたバンドの音楽から自分が感じるのは、「刺激競争」に明け暮れるミュージシャンの上空を軽々と飛び越えてもっと開かれたフィールドへ届いていくのではないかというスケールの大きさである。スタイルは違えど「普遍的なメロディ・うた」に強みを持つ彼らの音楽がリーチできる範囲は、バンドシーンという限定された空間よりもはるかに広いのではないだろうか。

「世代を超えて愛される音楽は生まれづらい」ということが言われて久しい。嗜好の細分化、タコツボ化はさらに進行していくだろう。しかし、そんな諦念から一歩進んで、幅広い層へ浸透する光景が想像できる音楽を鳴らしている若いバンドが続々と登場している。日本のロックバンド、まだまだ変わらず面白い。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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