柴 那典がサザンオールスターズ新曲を分析
2020年東京五輪にサザン登場!? 現役最強バンドが新曲『東京VICTORY』に込めたメッセージとは
サザンオールスターズが9月10日に55枚目のシングル『東京VICTORY』をリリースし、 オリコンのデイリーチャートで連日1位を独走中だ。
すでに三井住友銀行CMソング、そしてTBS系列「2014 アジア大会&世界バレー」テーマ曲としてオンエアされているこの曲。ジャケットには躍動的なスポーツ選手の姿が描かれている。「♪Wow…」という歌い出しで始まる力強いメロディ、高揚感に満ちた曲調で、アンセムとしての大きなスケール感を持った一曲だ。
タイトルから想像した人も多いかもしれないが、桑田佳祐自身、2020年に開催される東京オリンピックがこの曲を作ったきっかけだったことを明かしている。歌詞にも『みんな頑張って それ行け Get the chance!!』と歌われている。曲のタイプはいわゆる応援歌なのだが、実は、単に元気をもらえる、背中を押されるというだけでない、深い味わいを持った楽曲に仕上がっているのである。今回は、そのあたりのことを読み解いていきたい。
まず大前提としてあるのは、現在のサザンオールスターズは、もはやJ-POPの枠組みを超える大きな存在感を持つ国民的グループとなっているということ。活動休止期間を経て35周年を迎えた昨年にリリースされた前作シングル『ピースとハイライト』は、初週20万枚を売り上げチャート1位を獲得。80・90・00・10年代という4年代にまたがってシングル1位という前人未到の記録も実現した。もちろんキャリアのある大御所ミュージシャンは他にもいるが、時代を超えて大衆音楽のトップの座を走り続けるのは彼らだけ。いわば「現在進行形の伝説」となっているのである。
そして、グループのスタンスも少しずつ変化してきている。活動休止直前の2008年にリリースされたシングルの表題曲「I AM YOUR SINGER」は、タイトルの通り、ファンや支えてくれた人への感謝を通して、エンターテイナーに徹してきた桑田佳祐自身の信条を歌い上げた一曲だった。対して「ピースとハイライト」は、昨今の不安定な社会情勢、特に東アジアを巡る状況を歌詞に織り込んだ一曲。一方シングルのカップリングに収録された「蛍」は映画『永遠の0』主題歌として書き下ろされ、同作の公開を経てシングルのロングヒットにも寄与した壮大なバラード。共に「平和への願い」をテーマにした楽曲だ。
もともと桑田佳祐はソロを中心に社会性を持つ楽曲を発表してきたミュージシャンでもある。が、病からの復活や震災を経た今は、そのことの持つ意味も増している。いまやサザンオールスターズはさらに大きな射程範囲を持ったメッセージ性を放つグループとなっているのである。
では、それを踏まえて、この「東京VICTORY」に桑田佳祐はどんな思いを込めたのか? オフィシャルに発表されたコメントには、こうある。
「この「東京VICTORY」は、象徴的に「東京」という言葉を使っていますが「日本」や「ふるさと」を思って作った曲です。そのきっかけは2020年に開催される東京オリンピックでした。私たちが36年以上も音楽を作り続けてきた千駄ヶ谷ビクタースタジオのすぐ近くにある国立競技場が建て替えられることの寂しさや無常感。そして華やかなイベントの影に隠れがちな、世の中が抱えているさまざまな問題。そういったことに目を向けると、どうしても気持ちも沈みがちになります。ですが、せっかく世界がひとつになる国際的なイベントが、わが国で開かれることが決まったのですから、そこに向けて、歌詞にもあるように“みんな頑張って”前を向いて行こうよ! というのがこの曲のテーマです。「いろいろ大変なこともあるだろうけど、みんなで未来へ向けて走り出そう!」と、曲を聴いてそんな 気持ちになっていただけたら幸いです。」
つまり、この曲は応援歌ではありながら、単なるお祭りソングではない。失われてしまう風景へのセンチメンタリズムや先行きの不透明な時代への不安を抱えつつ、それでもポジティブな思いを人々の心に宿す気概のこもった一曲となっているわけだ。