indigo la End/ゲスの極み乙女。川谷絵音インタビュー
indigo/ゲス乙女のキーマン川谷絵音登場「バンドシーンを通過して、唯一の存在になりたい」
「大学に入ってバンドを始めてから自分の人生がスタートした」
――ゲスが打ち出している言葉の方向性は、散文的な批評性やユーモアではないかと思います。一方indigoの場合はもっとロマンチックな心象風景であったりしますよね。この2つの方向性がご自身の中で共存していることをどう捉えていますか?
川谷:最初は特に歌詞を書き分けている意識はなかったですね。ゲスは「ゲスの極み乙女。」というバンド名に引っ張られてそういう歌詞を書いていた、というのが結論です(笑)。indigoの場合は、ストレートなものより情景描写のような歌詞が好き、という元々の僕の性格や好みが出ています。それで方向性が分かれた、ということだと思いますね。
――『あの街レコード』にあるどこかノスタルジックな風景描写は非常に魅力的ですが、あれはご自身の中に常にある風景ですか。
川谷:原点回帰という意味も含めて、出身地の長崎を思い浮かべながら書きました。でも高校までを過ごした長崎での生活は何もなかったというか。大学に入ってバンドを始めてから自分の人生がスタートしたようなものなので、あまりにも何もなかった自分への後悔もあって、10代までの風景が思い浮かぶのかもしれませんね。
――なるほど。10代の頃も音楽は自分の身近にありましたか。
川谷:聴いてはいましたけど、オリコンに出てくるようなJ-POPしか聴いていませんでしたね。小学校の頃は、モーニング娘。やTM Revolutionとか。そこから大学で軽音部に入って、いろいろな音楽を知って音楽欲求のようなものが出てきたんです。例えば大学の時に聴いたのは、ゆらゆら帝国ですね。で、坂本(慎太郎)さんが聴いている音楽を聴いたりして、そこからはノイズ系や暗いものばかり聴いていました。日本人のまったく知られていないノイズ系の人とか、ですね。
――ノイズは、ギターの音への興味から?
川谷:はい。坂本さんのギターがすごく好きで、そこからギターの音のかっこよさに惹かれて。ザ・ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトのギターも好きでした。で、ある時、ジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)の「別にギターじゃなくてもいい」という発言に感銘を受けてしまって、段々ギターから離れていってノイズ系を聴くようになったんです。
「ゲスの極み乙女。は、バンドシーンから抜け出す時期だと考えた」
――当時、ダンスミュージックへの興味は?
川谷:ダンスミュージックはあまり興味がなかったです。アンダーワールドも別に好きじゃなかったし、テクノなんて大嫌いでしたし。ノイズとか聴いてるくせに、テクノに「人間味がない」とか言ってて(笑)。今ではテクノも聴きますが、基本は人力の方が好きですね。
――ではゲスでやっているような音楽性の追求は、ゲスを始めてからですか。
川谷:エレクトロとかは好きで聴いてましたけど、基本的には自分がやりたいことだけをやっているような感覚です。例えば、ファンクに影響を受けたバンドの黒いノリはすごく好きなんですけど、「どファンク」というような泥臭いものは嫌いなんですよね。だからゲスはメロウな部分、リスニングミュージック的な要素も持たせて泥臭くならないように気をつけました。
――今度のゲスのアルバムでは、確かにメロウな要素が増えていますね。 一方で、ライブの盛り上がりを見ると、リスナーはテンポの早い曲を求めている面もありそうです。そのあたりのバランスはどう考えましたか。
川谷:前作が売れたこともあって、テンポが早いほうが受けるだろうな、ということは考えました。でも、indigoとは対照的にゲスはバンドシーンにもう入っているので、逆に言えば、必要なのは(バンドシーンから)抜け出す作業かな、と。早いテンポで売れるのはバンドシーンだけで、J-POPには全然関係ない。ここでより多くの人に聴いてもらうためには、テンポは落としたほうがいいんです。ここに居続けるとずっとバンドシーンの中のバンドにしかならないので「抜け出すなら今だ!」と考えて全体的にテンポを落としました。バンドシーンを変えたくて前作を作りましたけど、今考えてみるとそれも間違い。変える必要もないし、変わらないものは変えられないから、興味のないものには手を出さなければいいんです。
――バンドシーンの中で支持を広げつつも、現状に危機感があると。
川谷:そうですね。CDが売れなくなっていることはしかたがないけれど、売れなくなっているからこそウェイトが大きくなっているライブで、画一的になってしまったら、これで大丈夫なのか? と。でもそれを変えることはできないことがわかったので、ゲスは抜け出す方向にいこうと思っています。