「クラブと風営法」問題の現状と課題とは 音楽ライター磯部涼が弁護士に訊く

 ただし、勘違いしないでおきたいのは、近年の風営法改正論議において、クラブ業界は擁護の対象と考えられているわけではなく、むしろ、反省と成長を求められているということだ。

「ダンス議連による風営法改正に向けての中間提言がイレギュラーなのは、風営法を所管する警察庁だけでなく、同法が規制するクラブ事業者にもメッセージを送っているところです。要するに、“法改正が成されて、規制緩和になっても地域に迷惑をかけないよう、ちゃんと業界内で態勢を整えなさいよ”とも言っているわけです」

 例えば、アメリカ村の一斉摘発のトリガーは、一部のクラブによる騒音に対する地域住民からの苦情だった。クラブが重要な文化であるのは自明だが、やはり、行き過ぎると公序良俗に反する可能性を持っているし、それを自分たちでコントロールする能力が足りていないと言われても仕方がないのが現状なのだ。齋藤弁護士もロビーイングを進める中で、ダンス議連に「クラブと地域との関係を修復してくれ」と求められ、向かった六本木の商店街の集会で、クラブ業界の未熟さを思い知ったという。

「集会に参加した際、“クラブ関係者が紛れ込んでるぞ”といった目を向けられ、地元商店街の方たちからは非常に警戒されました。警察とクラブ業界の関係がよくないため、警察が地元の人たちと話すときにクラブのことを悪く吹聴するのも影響していたようです。僕がクラブ側の代理人ではなく中立的な立場であること、懐柔するためではなく仲介するために参加したことをわかってもらえてはじめて、まともに話を聞いてもらえましたが、そこで皆さんがおっしゃったのは、“自分たちとしても、クラブ事業者と話す機会を設けたいんだ”ということでした。また、意外だったのは、“朝まで営業するのは構わない”という声が多かったことです。でも、“やるからには、どういう人たちが経営しているのか顔を知りたいし、一緒に地域に根差したルールを考え、商店街の集まりにも出てほしい”と。そういう当たり前のことをやってくれば、こんなにこじれることはなかったんだろうと痛感しましたね。

 ただ、クラブ事業者が地域に根差して活動できなかった原因のひとつがまさに風営法だとも感じました。違法営業者は商店街に加盟させてもらえません。クラブ事業者は風営法によって網をかけられ違法営業とされているがゆえに、正々堂々と表立って地域との協力関係を築きにくい環境におかれてしまっている。同様に違法営業者であるがゆえに普段から警察との連携もとりにくい。このような負の構造を生んでしまっているのが現行の風営法です」

 また、ダンス議連が齋藤弁護士にもうひとつ強く求めたのが、「議員や警察、地域との窓口となる業界団体をつくってくれ」ということだった。本稿では、これまで便宜上、“クラブ業界”という言葉を使ってきたものの、実は、地下化していた同業種には、風俗業界には必須の“業界団体”すら存在しなかったのだ。しかし、2014年3月5日に、ようやく、ライセンスを取得した大箱による風営法第44条に基づいた業界団体「日本ナイトクラブ協会」(*5)が設立。また、ライセンスを取得できない小箱同士も連絡網をつくり始めている。

 そして、それらの動きの潤滑油となったのが、DJやラッパーといったクラブに出演するアーティストたちが2013年春に立ち上げた団体「Club and Club Culture Conference~クラブとクラブカルチャーを守る会」(以下、C4)(*6)だった。

「C4の存在は大きいです。参加されているのが、会長のZeebraさんをはじめ、錚々たるアーティストですし、名のあるアーティストの方たちが声を上げたことで、今まで組織的に動こうとしなかったクラブ事業者たちが集まり、地域や警察との対話を始め、自分たちの業界のビジョンや問題点を検討するようになりました。ようやく、問題解決に向かって事態は動き出しているのです」(後編につづく)

(取材・文=磯部 涼)

*1 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140322-00000049-mai-pol
*2 https://twitter.com/tsunkuboy/status/447494568112431105
*3 https://www.letsdance.jp
*4 https://matome.naver.jp/odai/2138555643656817701
*5 http://nce.or.jp/
*6 https://clubccc.org/

■磯部 涼
音楽ライター。78年生まれ。編著に風営法とクラブの問題を扱った『踊ってはいけない国、日本』『踊ってはいけない国で、踊り続けるために』(共に河出書房新社)がある。4月25日に九龍ジョーとの共著『遊びつかれた朝に――10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』(Pヴァイン)を刊行予定。

■齋藤貴弘
「栄枝総合法律事務所」において6年間の勤務後、2013年にあらゆる分野の法律を取り扱う総合型法律事務所「斉藤法律事務所」を開設。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる