怒髪天・増子直純の自伝『歩きつづけるかぎり』を読む
結成30周年で絶頂期! 怒髪天の特異なキャリアを、取材者・石井恵梨子が紐解く
――そこは増子さんの人徳ですよね。99年にインディーで活動再開、04年に再度メジャーのフィールドにと紆余曲折ありましたが、そうして打算なく音楽を続けて、結成30年目にして武道館にたどり着いたのはやはりすごい。
石井: そういう意味では、ロックバンドの新しいロールモデルになるかもしれないですね。ポイントはいくつかあって、ひとつはバンドを続けていくにあたって、ライブに重きをおいてきたこと。怒髪天はライブでオーディエンスを“つかまえる”パワーがすごくて、倍々ゲーム的に動員数を増やしてきました。今の時代、客が客を連れてくる怒髪天のようなバンドは本当に強いと思います。
もうひとつは、売れることを目的にしない、ということ。怒髪天はヒットを狙うわけでもなく、タイアップを狙ってもいかない。決して否定しているわけではないけれど、それを目的にしていないんです。これは、増子さんがあえて乗らなかったバンドブームの終焉、周りのバンドが次々といなくなるのを見てきたことも大きいでしょうね。テレビでチヤホヤされたと思えば、バブルのように弾けて終わり。「だったら俺たちは楽しくやろうぜ」という姿勢が、怒髪天がリスペクトされる大きな理由なんだと思います。
――怒髪天はライブ本数も多いですし、ある意味でハードワーカーと言えそうです。
石井: ツアーが苦にならない、というのはバンドにとって大きな要素だと思います。ライブツアーって、修学旅行みたいなノリがあるじゃないですか。男だらけでご飯も一緒に食べて、翌朝は何時集合…とみたいに、常に団体行動で。それができない人って、いくら音楽的才能に恵まれていても、そもそもバンドには向いていないと思うんです。増子さんもそうですが、いいライブをするバンドマンって、アウトローなようでそのへんが意外としっかりしているんですよ。仲間内での社会性はちゃんとあるし、礼儀作法もしっかりしていて。