結成30周年で絶頂期! 怒髪天の特異なキャリアを、取材者・石井恵梨子が紐解く

――『歩きつづけるかぎり』では、bloodthirsty butchersの吉村秀樹さんやeastern youthの吉野寿さんなど、同世代のバンドマンとの濃密な交流が描かれています。北海道の当時の音楽シーンの記録としても興味深い内容でした。

石井: 「売れることを目的としない」というのが、まさに当時の北海道シーンという土壌から生まれた考え方ですね。飛行機代も高いし、東京に行くのと、LAに行くのが変わらない感覚。東京で売れるのは、アメリカで成功するのと同じようなことだと考えられていたんです。怒髪天もその例に漏れず、「メジャーに行くなら、東京に行ってテレビに出なきゃいけないけど、東京は人の住むところじゃない。俺たちは北海道が好きなんだ」と言っていたそうですよ。

――そんな増子さんが東京に出てきたきっかけは?

石井: 先に上京していたless than TV主催の谷口順さんが、増子さんに対して「東京は楽しいぞ」って何度も言っていたのが大きかったみたいです。それに、怒髪天自体が札幌では名実ともに人気バンドになって、対バンする相手も毎回同じになってきていたので、いよいよ新しい刺激がほしかった、という状況もあったと思います。増子さんは“道を歩けば人が避けて道を作る”という逸話があるくらい、名物男になっていたそうですから(笑)。

――札幌ではやることをやりつくした、と。それにしても、彼らの結びつきの強さには驚かされます。

石井: ここまで濃いコミュニティは見たことないです。それも、先輩・後輩という関係に厳しい九州のバンドとも空気感が違って。怒髪天が活動休止から復帰したときも、「新曲を北海道時代の仲間に真っ先に聴かせてやりたいという気持ちが出てきた」と言っていたし、今もそうなんでしょうけど、ただただ「あいつらに“やられた!”と言わせたい」というのが、すごいモチベーションになっていると思いますね。

――あと、増子さんは喧嘩っ早いところもありますね。当著にもある“めんたいロック”の代表格、柴山俊之さん(Zi:LiE-YA)との大乱闘の逸話が面白かったです。

石井: 増子さんの武勇伝は数知れませんが、柴山さんとの話も断片的には聞いていて、「この機会に全部話してくださいよ」と(笑)。上京したばかりの頃、新宿ロフトのライブのあと、打ち上げでからかわれたらしいんですよね。尊敬する先輩バンドだし、「まあ仕方ねえか」といったんは我慢したけれど、やっぱり「このまんま頭下げて東京でバンドやってもしょうがねえ」って、大乱闘に。増子さんは元ルースターズのドラマー・池畑潤二さんにブレーンバスターされて、服もビリビリ。「ルースターズ大好きだし、池畑さんに怒っているワケじゃないから、殴り返せるワケないじゃん」と(笑)。そんなこんなで、最後には割った酒瓶で柴山さんの手を刺して、救急病院に行くようなオオゴトになったらしいんです。でも、それがきっかけで「いい根性してるな。この俺に歯向かってきた奴なんて、東京では初めてだ」と気に入られて、すぐに仲良くなったそうです。怒髪天の武道館ライブでも柴山さんの姿を見かけましたよ。

――そういう濃いエピソード付きの関係性も、この世代のバンドが持つ魅力かもしれないですね。

石井: 関係性という話だと、増子さんはbloodthirsty butchersの吉村さんと同じ歳で、吉村さんは赤色の髪の毛、増子さんは青色の髪の毛だったから、“信号機”なんて呼ばれていて。それぞれに求心力があり、そこに惹かれた後輩がthe pillowsやeastern youthですね。

 eastern youthには、『極東最前線』(編注:2000年リリース。eastern youth主催の対バン企画で共演したバンドの楽曲をまとめたオムニバス・アルバムで、怒髪天の「サムライブルー」も収録されている)のリリース時に取材をさせてもらったんですが、「怒髪天ってこんなにスゴいバンドだったとは知りませんでした」と吉野寿さんに話すと、誇らしげに「俺はずっと前からこのバンドの良さを知ってたよ」とおっしゃっていたのが記憶に残っています。3月26日に第三弾がリリースされるbloodthirsty butchersのトリビュートアルバムを聴いていても感じることですが、増子さんと吉村さんのカリスマ性はスゴい。特別な何かを持った人が、たまたま北海道で同じ歳だったというのはドラマチックです。

――最後にあらためて、石井さんにとっての怒髪天の魅力とは。

石井: 一般的な意味でのスター性はないし、メンバーが美男子だったりするわけでもない。そういうことではなく、生活に根づいた熱い音楽をやっているところですね。90年代、ミッシェル・ガン・エレファントが起こしたブームを経て、日本語のロックというものが一切、恥ずかしいものではなくなったなかで、「いかに強いメッセージを発信できるか」ということがロックバンドを語る上で大きな要素になっていると思うのですが、その点、増子さんが発する言葉には強い説得力がある。これまでの経験、30年間積み重ねたものが言葉に宿っている。こんなバンドは、ほかになかなかないと思います。

 正直いうと、怒髪天のこと、最初は特に好きではなかったんですよね。でも、インタビューが本当に面白いし、増子さんの人間性を含めて、どんどん好きになっていきました。瞬間的に惹かれるような魅力ではなく、じっくり、グッと来る感じですね。エネルギーの密度、言葉の力に圧倒されて、曲を聴いていると本当に泣けてきたりします。「今日ぐらいは大声出してもいいだろう!」っていう気分にさせてくれるバンドですね。
(取材=神谷弘一)

■リリース情報
増子直純自伝『歩きつづけるかぎり』(音楽と人)
発売:2014年1月13日(月・祝)
価格:2,500円(税込)
サイズ:四六判/272ページ
※この書籍は、タワーレコードとHMVのみで販売いたします。一般書店、CD店ではお買い求めいただけません。お近くにタワーレコード・HMVがない場合は下記のホーム・ページより予約、お買い求め下さい。【送料無料】

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