モーニング娘。楽曲の進化史ーーメロディとリズムを自在に操る、つんく♂の作曲法を分析

現在の最終形『わがまま 気のまま 愛のジョーク』

 『One Two Three』以降の楽曲からわかるのは、つんく♂さんが『One Two Three』で実現した、ダンスを最大化するプラットフォームを維持しつつ、歌としても楽しめる楽曲を作ろうとしていることです。次のシングル『ワクテカ Take a chance』では、コード的な動きの少なさはそのままに、ベースラインとメロディをもう少し動かすこととセクション構成をはっきりさせることで「歌モノ」要素を強めています。それを踏まえた上で、続く『Help me!!』は音楽的な工夫が多く詰まった曲です。楽曲のリズムとダンスをより密にブラッシュアップする傍らで、長い音符でメロディアスに歌うセクションを2つ用意し、そこに至るまでのセクションでリズムの緩急を作ります。具体的にはベース・ラインに工夫があり、「ラインを動かさないリズム寄りのベース → ベース抜け → 得意のうねるベースライン」となっています。そうした音楽的な工夫によって、1コーラスのキメである「栄光」「現実」のフレーズに向かう物語性が生まれているといえます。

 今のところの最新シングルである『わがまま きのまま 愛のジョーク』では、「愛はきっと罪深い 愛されたい 愛されたい」で、「Fm7 → Bb → Eb → Cm」というポップスの王道コード進行を久しぶりに使っています。とても短いセクションですが「愛されたい 愛されたい」の持つ突然のアンセム的なポップ感は『LOVEマシーン』時代につんく♂さんが得意としていた手法です。そこに至るまでは、流れを止めることが多かった長い音符の「歌い上げフレーズ」を最小化し、リズム的な流れも良くスピーディな展開です。

 このように、モー娘。におけるつんく♂さんの楽曲の変遷を辿ると、コンセプト(大胆な試み)とそのための具体的な手法(細かな試行錯誤)を明確に定めて制作されていることがわかります。そして実際に曲ごとに研究を重ねて進化していくところが、彼とモーニング娘。のコンビが長く続く理由のひとつなのでしょう。『わがまま 気のまま 愛のジョーク』で片鱗を見せた新旧の手法の融合がさらに進めば、2014年には、モーニング娘。'14の圧倒的なパフォーマンス力と歌謡曲としてのポップ感が融合した曲も誕生するかもしれません。

■小林郁太
東京で活動するバンド、トレモロイドでictarzとしてシンセサイザーを担当。
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