さやわか×宇野維正×柴 那典が2013年の音楽シーンを切る!(後編)

「高速化するJPOP」をどう受け止めるか 音楽ジャーナリスト3人が徹底討論

柴:鍛錬じゃないですけどね(笑)。高速化の話に関してはKANA-BOONというロックバンドとの出会いが大きかったかもしれないです。彼らはほとんどの曲がBPM170オーバーで、フェスに出たら一見さんの観客も含めて全員を踊らせてるんですよ。僕も実際その光景を見ているんですけど、それがかなり気持ちよかった。話を訊いたら、彼ら自身も「このテンポが気持ちいいんです」っていう風に言っていた。そういう感覚を踏まえて、ボカロの170オーバーを聴くと、ぜんぜん気持ちいいっていう発見をしたんです。

さやわか:つまりKANA-BOONみたいなバンドが持っている構造を捉えて、同じものをアイドルとかボカロに見出す感じですよね。たしかにKANA-BOONはジャンル的にはロック的なんだけど、ボカロやアイドルと近しい部分があって、音楽シーン全体で同じ動きがあるんだと思わせてくれる存在です。

宇野:今年インタビューした中で衝撃を受けたのはKANA-BOONで、彼らって洋楽のバックグラウンドがほとんどゼロなんですよ。それこそはっぴぃえんどや筒美京平さんから綿々と続いてきた日本のポップミュージックの基本は、洋楽的なバックグラウンドがあって、そこから日本独自のアレンジを探求していくことだったと思うんですよね。だけど、ヒャダインさんもそうだしボカロの速いやつもそうだけど、共通して洋楽的バックグラウンドが希薄なんですよね。歌詞の面でも、たとえばクリープハイプの尾崎(世界観)くんにインタビューしててね、「この歌詞ってスミスみたいだね」って言うとキョトンとされる。だけど僕は、KANA-BOONもクリープハイプも好きなんですよね。ただ、ボカロやアイドルソングの高速化、高密度化は頭も身体も全然受けつけない。

柴:多分、それは慣れの問題だと思います(笑)。

宇野:でもさ、やっぱりマーケティングで速くなっていくものと、本人が速くしたくてするものでは違うじゃない。

柴:wowakaさんとかハチさんとか、マーケティング的な発想じゃなくて速くなっている人は当然います。

さやわか:ボカロはセルフ・プロデューサー的な発想はあるけれども、マーケティングというわけではないと思いますよ。ランキングを見て「速い曲のほうが人気が出る」と思った人はいるかもしれないけど、それこそ元を正せば速さに単純な快楽を感じているからこそ速くするわけで。

柴:そうなんです。誤解して欲しくないのは、速いのが正義だとは本当に思っていないんですよ。なんで僕が高速化について話すかというと、さやわかさんが言っていた「なぜ批評するか?」と同じことで、現状を説明して「今はみんな高速化している流れがあるよ」って明確に言葉にすると、それに関してのアンチテーゼが生まれるんですよね。「俺はその流れには乗らない」「俺の快楽はここにない」って思う人が必ず出てくる。むしろその人たちのために、現状を説明しているんです。

さやわか:それはつまり、現状を説明した上でどんなアーティストがいるのかという話をしないといけないということですよね。そうすれば、宇野さんみたいにボカロ全般に「ぜんぶマーケティングで速いんでしょ?」ってシーンを捉えている人にも届くと思うんだよね。

柴:でも、ボーカロイドの話で改めて言っておかなきゃいけないと思うのは、初音ミクって、やっぱり楽器なんですよ。supercellやlivetuneみたいな作曲家に「初音ミクとはなんですか」って訊くと、全員「楽器です」って答えるんですね。で、初音ミク以外にもボカロのソフトって沢山出ているんですよね。でもいまだに中心的に使われているのは初音ミクで。これは何故かというと、もちろんキャラクター人気もあるけど、実は楽器としての性能が高いんじゃないかという。テクノの世界にはローランドのTR-808という『名機』と言われるリズムマシンがあって。それに近い『名機』感があるって、渋谷慶一郎さんが言っていたんですよね。そもそもTR-808って、ドラムの音なんて全然再現できてないんです。「チッ、チッ、チーッ」って、オモチャみたいなハイハットが鳴る。で、実はこれは、佐々木渉さんという開発者の方が言っていたこととも符合していて。実は初音ミクって、あえてオモチャっぽくしようって意識を持って作っていたそうなんです。リアルな声の再現はそもそも目指してなかった。あえてトイポップっぽい方向性にしようと思って、声優の藤田咲さんを採用しているんです。だから、初音ミクもTR-808も、音の特徴として、ハイ(高域)が強いんですよね。

さやわか:ボカロはそういう語られ方があまりないんですよね。もう初音ミクが発売されて5年以上経っているのに、なんか単にチャラチャラしている感じに思われていて「中学生とかが聴いてるんだろ」って思われちゃう。いま柴さんが言ったように、初音ミクについては「楽器です」と言っているミュージシャンがかなり多いんですけど、よく知らない人はそうではなくて「萌え」とかキャラクター文化みたいなカルチャーと安易に結びつけて語ってしまう。これ、どうしたらいいんでしょうね。

宇野:柴君の話はすごく良くわかるし、その通りだと思う。でもさ、みんなちょっと知名度が出てくると、生音使い始めるじゃない。ボーカリストも呼んだりとかして。結局、今の音楽シーンの価値観を転換すると思われた人たちが、既存の音楽に取り込まれていってしまう。

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