さやわかの「プロデューサー列伝」 第8回:Revo(Sound Horizon)
紅白こそRevoにふさわしい舞台 物語音楽の旗手Sound Horizonが目指すものとは?
Revoは唯一無二である彼の物語世界の創造主であり、領主だった。だからリスナーはRevoのことを親しみを込めて「国王陛下」と呼ぶし、彼もにこやかながらそれらしく振る舞っている。ファンからは彼自身が愛されているし、また彼の物語の登場人物も愛されているし、そして彼の作品にゲスト参加するさまざまなミュージシャンも、時にはその役柄の「演じ手」として、愛されている。Sound Horizonとはそういうユニットである。
だからこそ、Revoが「Linked Horizon」として2013年の紅白歌合戦に出場することになった時に、驚かなかった人は多かっただろう。彼を全く知らない人はもちろん「誰?」と思っただろうが、しかし彼のファンである人たちだって、唯一無二の物語世界が日本の国民的音楽番組でその存在を知らしめるとは思っていなかったに違いない。
だがそれでも、Revoが紅白に出ることは似つかわしい。何も知らない人は、Revoの音楽の持つファンタジックな意匠と物語、そしてあまりの独自性を見て、どこか排他的で閉鎖的なものを感じるかもしれない。だがそれは間違いだ。前述のように、彼はどこまでもポップスであろうとしていて、それこそが彼の武器なのである。彼は以前、筆者のインタビューに答えて、「ポップミュージックであることを僕自身が拒否したことは一度もないんです。世間がお前の曲はポップミュージックじゃないよって言ってるだけで、僕はずっと世間の頭が硬いんだよと生意気にも思っているんですけど(笑)」と言っていた。Revoのその精神は、彼の言動にも、作品のあらゆるところにも、顕れている。彼はしばしばファンに音楽について語り、あるいは物語について語り、彼が作ったもの以外にもこの世には膨大な地平が広がっているということを諭す。Sound Horizonのアルバム自体も同じで、一つ一つが独立した物語でありつつ、アルバムごとに「第○番目の地平線」という言葉によって、それらが数多に存在する物語のひとつであるということが強調される。Sound Horizonのツアーは「領土拡大遠征」と呼ばれて、彼らの物語世界を現実空間へと広げるイメージが使われている。
そして紅白で出場することになったLinked Horizonというユニット名は、Revoが他の物語作品とコラボレーションする時に使われるものだ。「リンク」という言葉には、彼が自分の作品をどこまでも閉ざすのではなく、まだ見ぬ外部へと接続させようという意志を感じさせる。だからきっと紅白のステージも新たなリンク先であり、遠征地であり、新しい地平である。そのチャネルが拓かれたことを、Revoはあらゆる意味で歓迎しているに違いない。唯一無二の存在のままで、世界へと繋がろうという意志を持つこと。おそらく彼は、そうでなければ意味がないと思っている。
■さやわか
ライター、物語評論家。『クイック・ジャパン』『ユリイカ』などで執筆。『朝日新聞』『ゲームラボ』などで連載中。単著に『僕たちのゲーム史』『AKB商法とは何だったのか』がある。Twitter