新作『manners』と創作作法を明かすインタビュー(前編)
藤原ヒロシが語る、キュレーション的な“歌”の作り方「歌う内容は自分のことじゃなくていい」
――最近のJ-POPだと、いわゆるハッピーエンドに終わる歌詞が多いと思うんですが、このアルバムだとすれ違いというか、謎かけをして終わるような曲が印象的です。
HF:それ、古井戸っぽいですね(笑)。人になりきって歌うことによって、謎めいた感じだったりとか、暗号遊びというか、そういうものは出そうと思っていました。実は……一曲目はある14歳の殺人犯の歌なんですよ。彼の犯行声明文に“透明な存在”っていうフレーズがあって、それがすごく気になっていて、いつか書こうと思っていたんですよね。曲名も当初は「14歳」にしていました。
――なるほど。歌声もどこか少年性を感じさせますが、歌詞には藤原さんの少年性とか、ピュアでセンチメンタルな部分っていうのが重なっている部分もあるのかと。
HF:そうですね、あんまり前面に出すのも恥ずかしいから、人の言葉を借りているフリをして、ちょっと自分の言葉を入れたりとかはしているかもしれませんね。ただ、今回歌ってみてわかったのは、自分には明るいものは作れないってこと。頑張って明るく作ったものも何曲かあるんですが、それがもう、我ながら無理しているな、と(笑)。
――確かにアルバム全体にどこかヒンヤリとした空気がありますね。デヴィッド・ボウイの最新作のようなメランコリックなムードというか。さて、今作の中では明るいタイプの曲「1978」では、「帝国主義」「修正主義」といったフレーズが出てきます。
HF:これはアルバニアの本を読んで作ったんです。アルバニアって1978年くらいから無神論国家になったんですよ。国が神を信じちゃいけませんって。アルバニアはもともとは共産主義国で、ロシアや毛沢東なんかをお手本にして国を作っていたんですけど、1978年頃から「あいつらは言うことがコロコロ変わって修正主義だ」って言い始めて。そんな言葉もあるんだなって思って歌にしました。今の日本にも当てはまるし、78年のパンクの感じにも当てはまるんじゃないかと思います。
――サウンド面では、アコースティック楽器と打ち込みのリズムを柔らかく融合させています。
HF:もともとはプロデューサーとしてやってきて、バックトラックを作って、人に歌ってもらうってことをやってきたんですけど、今回は逆で、僕が曲を全部作ってアレンジは全部任せています。渡辺シュンスケくんとか大沢伸一くんとかにお願いしているんですけど、すごく面白かったですね。僕が作ると、コードを作ってメロを作って、という順番でやっていくから、なかなかコードから離れられないんですよね。でも、他の人にお願いすることによって、ポップなところからより離れることができたな、と。そこは良かったですね。
――なるほど、かなりシンガーソングライター的なスタンスで作られた作品なのですね。藤原ヒロシさんといえばDJ的なセンス、今の言い方でいえばキュレーション的な視点で作品を組んできた、という印象もありましたが――。
HF:これもある意味、キュレーションですよ。プロデューサーを選んで、その人たちが持ってきた音源の中から、じゃあこれとこれを使おうという選定がありますから。歌詞についても、人の言葉をピックアップしたり、この本が面白かったから、この本について書こうとか、そういう感じです。
どれくらいの人が本当に表現者というか、自分の中から出てくるものを表しているのかはわからないですけど、僕はやっぱり自分の中から出してくるっていうより、自分の日常にあるものをピックアップしてきて、それをまとめて出しているっていう気がします。この映画が面白かったって、ネットのサイトで紹介するんじゃなくて、面白かったところを、うまく言葉に置きかえて歌にするっていう風に変わっただけで。もしかしたら、昔のアナログ的方法にたどり着いただけなのかもしれないですね。
後編:藤原ヒロシが考察する、音楽とファッションの関係史「パンクに匹敵する出来事は起こっていない」
(写真=竹内洋平/取材=神谷弘一)