アイドルラップユニットのプロデュース戦略を解剖(前編)

ライムベリーのプロデューサーが明かす「彼女たちが『YO』と言わない理由」

――結成の経緯を教えて貰えますか?

Eチケ:07年くらいの「萌えブーム」の中で、「萌え+ロック」「萌え+メタル」みたいな音楽が流行ったんですが、「萌え+ヒップホップ」というのはなかったんですよ。元々ヒップホップが好きだったし、自分なら両方の文化を理解した上で作れるんじゃないかなと思って始めたのが、ライムベリーの前身ユニットとなったMOE-K-MCZです。で、とある知り合いの方からの勧めでタレント事務所を紹介して貰い、11年にMOEKのコンセプトと楽曲の一部を引き継いでライムベリーをやることになって。ただその時には既に萌え的なもの、アキバ的なものは使い古されていたので、そこを打ち出すのではなく、"可愛い女の子の元気なラップ"っていうのをより前に出して行くことにしました。

――ライムベリーをやるにあたって、日本語ラップファンからの批判が起こらないか、不安はなかったですか?

Eチケ:めちゃめちゃありましたよ!特にMOEKから引き継いだ曲「HEY!BROTHER」は一番"萌え"的な要素が残っていて、「ねえ、お兄ちゃん!」って連呼してますし、誤解は受けやすいだろうなと。嫌いな人はすごい嫌いだろうし。でもだからこそ、全ての曲作りにおいて、日本語ラップを好きな人が聴いて怒るようなものを作らないように意識してます。リスペクトしている気持ちを細部に込めて、丁寧に作るように。分かりやすいところでは、「ヨーヨー」「チェケラ」とか安易に言わせない。それと、ラップを知らない人が作るラップにしないとか。

――というと?

Eチケ:ラップを知らない人が作ると、吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」みたいな、「ナントカナントカナントカで、ナントカナントカナントカよ」、みたいなフロウになりがちなので、そうならないように。あと、もちろん韻も一生懸命考えて踏むことと、さっきも言ったように、サビで歌わないこと。サビで歌うと最終的に全部歌う方向にいきそうだし、ラップのいいとこ取りをしている印象がするんですよ。そうじゃなくて、ラップだけにこだわってやり続けることに意味を見出すようにしています。日本語ラップの中にもいろんなジャンルが出て来てるので、アイドルのラップも受け入れやすくはなってるのかなと思います。

ライムベリー「MAGIC PARTY」Live@TIF2012

――代表曲である「MAGIC PARTY」ではボーイズ・タウン・ギャングの「君の瞳に恋してる」、「RHYMEBERRY IZ NO.1」ではBeastie Boysの「Ch-Check It Out」をサンプリングしたりと、マニアックな曲ではなく、いわゆる大ネタを使うことが多いですよね。

Eチケ:大ネタって単純に楽しいじゃないですか。男がやると狙いすぎでも、可愛い女の子がやると笑って許してくれるんじゃないかなと思って。

――「にゃんにゃん」というフレーズも多いですよね。

Eチケ:「HEY!BROTHER」の間奏の「にゃんにゃか」は、デモの段階ではいとうせいこう&TINNIE PUNXの「東京ブロンクス」のボイスサンプリングだったんです。本番では外すことになったんですが、リハーサルの時にメンバーがその部分を「にゃんにゃか」って自分なりの歌詞で歌い出して。可愛いので採用しました。「MAGIC PARTY」は元々MOEKの時に最後のサンプリングのところで「手を振りたいね」って話してて。単に手を振るだけじゃ寂しいから「にゃーにゃー」にしようと思い付きでやってたのを引き継ぎました。
次回「『可愛いラップ』を突き詰めたい ライムベリーが進む道」に続く
(取材・文=岡島紳士)

E TICKET PRODUCTION(桑島由一 yoshikazu kuwashima)。
ライムベリーの作詞作曲、世界観構築、デザイン(及びデザイン監修)などを担当し、クリエティブな面での全てをプロデュースしている。
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