伊藤峻太×地曵豪×ウダタカキが語る、自主映画『ユートピア』の可能性 「“絶対にできないことはない”を証明した」
高校3年生の頃に撮り上げた映画『虹色★ロケット』が注目を浴びた伊藤峻太監督の最新作『ユートピア』が、現在下北沢トリウッドにて公開されている。絵本『ハーメルンの笛吹き男』をモチーフにした本作は、現代の東京に暮らすまみが、1284年にドイツのハーメルンで笛吹き男によってさらわれた130人の子供の1人であるベアと出会い、彼女をさらった笛吹き男の正体に迫る模様を描いたSFファンタジーだ。
今回リアルサウンド映画部では、先日アメリカの『The Hollywood Reporter』誌の記事において、門脇麦や村上虹郎と並んで「世界に進出する準備ができた4人の日本人俳優」にも選ばれた、本作で笛吹き男のマグスを演じた地曵豪、白石和彌監督の『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で主演を務め、本作ではオールデ役を務めたウダタカキ、そしてメガホンを取った伊藤監督による鼎談を行った。故・若松孝二監督の作品をはじめとするさまざまな作品に出演している地曵とウダの2人が本作に出演することになったきっかけや、構想から公開まで10年もの年月がかかった背景などについて、じっくりと語り合ってもらった。
地曵「力のある俳優が集まったのは、本当に幸運なことだった」
――公開から1ヶ月ほど経ちますが、観客の反応などはいかがですか?
伊藤峻太(以下、伊藤):お客さんの感想やリアクションは全て新鮮ですね。設定やストーリーが複雑なだけに、もちろん分かりにくいという人もいれば、それを深読みして自分なりに解釈してくれる人もいる。この作品を観たことによって、妄想が止まらなくなったとかイマジネーションが広がったという感想もあって、それはすごくうれしかったですね。でも正直、公開してしまったら作品が自分の手から離れていってしまうというか、勝手に作品が一人歩きしてしまう感覚もあるので、まだ実感できていない部分もあるかもしれません。それと、もう4回も観ていただいている方もいらっしゃって、リピーターがすごく多いのには驚いているのですが、そこまで悪い意見が届いてこないので、もっとたくさんの方に観ていただきたいなとは思っています。否定的な意見が出てくることも含めて作品は世に出す意味があると思うので、そのためにはもっと観てもらわないといけないなと。
――地曵さんとウダさんはこれまでさまざま作品に出演されていますが、どのような経緯でこの作品に出演することになったんですか?
地曵豪(以下、地曵):ある日突然、プロデューサーを務めているトリウッドの大槻(貴宏)さんから出演依頼の連絡があったのがきっかけでした。でも最初に企画書を読んだときは、笛吹き男のマグスはもっと年上の設定なんじゃないかと思ったんです。僕は5年前の撮影当時は37歳だったので、マグスはもっと年配の人の方が監督はよかったんじゃないかなって。
伊藤:(笑)。確かに最初イメージ画を書いている時点では、白い髭が生えているイメージだったので、もっと年配の方を想定していたのは事実ですね。ただ、だんだん余裕がなくなってきて、プロデューサーの提案を「なるほど、なるほど」って……(笑)。
地曵:絶対そうだよね(笑)。『ユートピア』の台本を読んだ後に、この話はファンタジーでありながら実はすごく政治的な話だと感じました。僕とウダくんは若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008年公開)という映画で革命家の役を演じているんです。『ユートピア』のマグスも体制を破壊しようする革命家なので……革命家の役をやっていたから革命家役のオファーがきたのかなと当時は思いました(笑)。でも実はSFやアニメが大好きなのでオファーがきてすごく嬉しかったし、ぜひやりたいと思いました。SF好きを爆発させる機会が初めて自分の人生に訪れたので、一生懸命やろうと思ったんです。
ウダタカキ(以下、ウダ):僕らが出ている若松さんの作品を大槻さんがちゃんと観てくれていたからということでもあるよね。僕も地曵くんも、若松さんに会ったのはここ(トリウッド)が最後で、若松さんが亡くなる前にトークショーをやっていたんですよね。だからすごく思い出のある劇場ではあるんですけど、大槻さんが声をかけてくれたのは、僕が相変わらず適当なことばかり言っていたからみたいです(笑)。
伊藤:いつだったかは覚えていないんですけど、『ユートピア』の打ち合わせでトリウッドに来たときに、廊下にウダさんがいて、そこで大槻さんから「ウダさんどう?」って言われたんですよね。
ウダ:大槻さん、適当だな~(笑)。
地曵:でもそういう偶然っていいよね。僕も若松さんと知り合ったのは新宿の飲み屋だったから。
ウダ:それで、若松さんに絡んだんですよね?
地曵:そうそう。あるバーで泥酔していたら、偶然そこに来た若松監督が僕の左隣に座ったんです。お店の人に「監督」って呼ばれていたので勇気を出して「芝居やってるんです」と話しかけました。僕はそのときかなり酔っていたんですが(笑)。そうしたら初対面の僕に向かって「連合赤軍の映画を撮影するんだ。絶対残さなきゃいけない話なんだ」と本当にいろいろ話をしてくれました。それがきっかけでオーディションを受けたいと思ったんです。だからそういう偶然は本当に大事だなって。
伊藤:でも、若松組のような現場でこれまで鍛えられてきた地曵さんとウダさんのおかげで、『ユートピア』の現場が底上げされた部分もありました。
地曵:ウダは現場で他の俳優部にダメ出ししてたよね(笑)。
ウダ:撮影は2~3週間だったんですけど、このスケジュールで、しかもCGのこととかを考えなきゃいけないから、絶対に撮り切れないと思ったんですよね。しかも今回は地曵くんが1番年上ぐらいの若い人たちが多い現場だったから、僕らがちゃんとしなきゃいけないとどこかで思っていて。他のキャストの子たちはすごく怖かったみたいですけど(笑)。
地曵:個人的な考えですが、物語の骨格や世界観のリアルさを支えているのは主人公やマグスではなくて、ユートピア人のオールデやコニやエアリだと思うんです。SFって言ってしまえば“ごっこ遊び”なので、それに血を通わせるのは役者のテンションや集中力でしかない。そういう意味であの映画のリアリティを支えているのはウダタカキや、森郁月、そして高木万平なんだなと試写を観て感じました。これもまた偶然かもしれないけれど、その他のキャストも含めて力のある俳優が『ユートピア』に集まったのは、本当に幸運なことだったなと思っています。