映画『聲の形』はなぜ青春ラブストーリーとして画期的か? 京都アニメーションの新たな挑戦
『たまこラブストーリー』で恋に悩む主人公たちを支えた友人がいたように、高校生の恋愛事情において、友人たちの存在は欠かせないものである。だからこそ、現在の友人たちとの関係に重点が置かれたことも頷ける。過去の友人たちとの関係については、将也が変化したことでいずれ変化が訪れることを示唆するまでに留められているのだ。
「伝えること」「答えること」というシンプルなコミュニケーションの難しさと、「関係が変わること」への恐れを描き出すという点も、本作と共通している部分だろう。しかし、それだけではない。『たまこラブストーリー』で、ふたりを結びつける重要なツールとして“糸電話”が使われたように、本作では再会のきっかけとなるノートと、お互いが意思を伝えるための“手”がその役割を果たす。
劇中では原作同様、手を繋ぐことを躊躇いながら袖を掴んだりする描写がさりげなく描かれ、着実に将也と硝子の距離が縮まっていくのがわかる。それでも、明確にふたりが手を繋ぐ描写が描かれなかったのは、あえてひとつも答えを提示しないためだったのではないだろうか。純粋に、ふたりの恋の始まりとしての手を繋ぐ行為を作るためには、観客にそれを予感させなければならない。きっと、ふたりはこのあと手を繋ぐ。手話で会話をするふたりにとって、手を繋ぐということは想いが通じ合っている何よりの証になるのだ。将也自身に大きな変化が訪れたあのラストを観てしまえば、それを期待せずにはいられないだろう。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■公開情報
『聲の形』
9月17日(土)より、新宿ビカデリーほか全国ロードショー
出演:入野自由(石田将也役)、早見沙織(西宮硝子役)、悠木碧(西宮結絃役)、小野賢章(永束友宏役)、金子有希(植野直花役)、石川由依(佐原みよこ役)、潘めぐみ(川井みき役)、豊永利行(真柴智役)、松岡茉優(石田将也役)
原作:「聲の形」大今良時(講談社コミックス刊)
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン:西屋太志
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:石田奈央美
設定:秋竹斉一
撮影監督:髙尾一也
音響監督:鶴岡陽太
音楽:牛尾憲輔
主題歌:aiko「恋をしたのは」
音楽制作:ポニーキャニオン
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:映画聲の形製作委員会(京都アニメーション/ポニーキャニオン/朝日放送/クオラス/松竹/講談社)
配給:松竹
(c)大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会
公式サイト:http://koenokatachi-movie.com