ジョナス・ブルー「Rise」はなぜ日本でヒット? その背景を考察してみた

J・ブルー「Rise」はなぜ日本でヒット?

 2015年に活動を開始し、一躍トロピカルハウスシーンの人気アーティストとなったイギリス出身のDJ/プロデューサー、ジョナス・ブルー。彼の最新曲「Rise ft. Jack & Jack」が、日本でストリーミングサービスを発火点としたヒット曲となっているのをご存知だろうか。この楽曲は今年5月のリリース以降、LINE MUSICソングチャート、iTunesソングチャート洋楽、USEN洋楽チャートでトップを獲得し、Apple Musicでもトップ3にランクインするなど本国以上のチャート結果を記録。ストリーミングサービスの普及以降、各国のローカルなトレンドが可視化されて久しい音楽シーンにあって、日本ならではのチャートアクションがうかがえる曲になっている。この曲が日本でヒットをしている背景を考察してみたい。

Jonas Blue - Perfect Strangers ft. JP Cooper

 ジョナス・ブルーは2015年にトレイシー・チャップマンの1988年のヒット曲をトロピカルハウス風にリメイクした「Fast Car」をリリースすると、本国UKのチャートで2位を獲得。同チャートで11週連続トップ10入りを果たし、同年にはEDM界の人気フェス『Tomorrowland』にも出演して本国で人気アクトの仲間入りを果たした。続く2016年6月の2ndシングル「Perfect Strangers (feat. JP Cooper)」も、UKシングルチャートでの最高2位を筆頭に、ヨーロッパの主要国で大ヒット。この頃から日本でもShazam東京エリア・チャート(デイリー)で最高5位、主要ラジオチャートでトップ10入りするなど人気を広げ、J-WAVEを中心にラジオでオンエアされることで、次第に夏男=ジョナス・ブルーというイメージが浸透していった。とはいえ、この時点ではまだまだ「Rise」のヒットが想像できるような状況ではなかった。

Jonas Blue - Rise ft. Jack & Jack

 では、このヒットはどのように生まれたのか。まず考えられるのは、日本でのトロピカルハウスの定着だ。ジョナスが活動をはじめた2015~2016年はジャスティン・ビーバーが『Purpose』で同ジャンルを取り入れたことが話題となり、カイゴが1stアルバム『Cloud Nine』を発表したシーンの最盛期。日本でもこの時期にカイゴやトロピカルハウスには大きな注目が集まり、同ジャンルに特化したイベント「Tropical Disco」も始動。2017年にはその要素を取り入れたカルヴィン・ハリスの『Funk Wav Bounces Vol. 1』も一般層に広がった。と同時に、K-POPやJ-POPシーンの楽曲にトロピカルハウスが取り入れられたことも、このジャンルの定着を促した要因と言えるはず。BTSの2016年の楽曲「Save Me」を筆頭にBLACKPINK、SEVENTEENといった日本でも人気のK-POPグループが続々とトロピカルハウスを取り入れた他、2017年にはw-inds.の「We Don't Need To Talk Anymore」やPerfumeの「Everyday」などもトロピカルハウスを取り入れてヒット。EDMのいちサブジャンルを越えて、むしろポップシーン全体の大きな影響源になったことが、息の長いシーンへの注目に繋がった。

 そうした日本でのトロピカルハウスの広がりを考えても、ジョナス・ブルーの楽曲は日本のリスナーとの親和性の高さが感じられるものになっている。EDMシーン全体を見渡しても、もともとAfrojackやTiëstoを筆頭にしたビッグルームハウス的なアーティストの楽曲が一般層にまで浸透するヨーロッパ諸国などに対して、日本の場合はむしろゼッドやアヴィーチー、The Chainsmokers、Galantisといった歌モノ要素も強いポップ・ミュージックとしてのEDMがより支持される傾向にある。ジョナス・ブルーの楽曲はまさにその系譜にある、歌の魅力を生かしたトロピカルハウスだ。また、彼の曲は初期のトロピカルハウスとは微妙に異なり、2016年の「By Your Side(feat. RAYE)」のように、2010年代初頭のフューチャーベースなどを起点に広がった奇抜なボーカルエディットなど、最新のクラブ・ミュージックの要素を取り入れたものにもなっている。フューチャーベース的な感覚はポップ・シーンに限って言えば欧米よりも韓国や日本などアジア圏で取り入れられることが多く、そうした意味でもジョナス・ブルーの音楽と日本のリスナーとの距離は近かったのかもしれない。ちなみに、ボーカルエディットはカイゴも2017年の2nd『Kids in Love』で大々的に取り入れて話題になった。

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