作詞家zoppが考える、近年の失恋ソングの傾向 「自分のことではなく“超他人事”を歌っている」

zoppが考える、近年の失恋ソングの傾向

「RADWIMPS『me me she』はもはや発明」

――天気を上手く使っている楽曲にはどういうものがあるんでしょう。

zopp:竹内まりやさんの「駅」ですかね。タイトル通り、まさに駅が舞台なんですけど雨をモチーフにしていて。やはり失恋の歌で少し暗い曲。<見覚えがある レインコート>から始まるんです。“雨”というワードを使っていなくとも、レインコートを着ているので雨が降っていることを間接的に伝えています。その後も“雨”は出てこなくて、最後が<雨もやみかけた この街に ありふれた夜が やって来る>。始まりと終わりに雨にまつわる歌詞があるのが非常に上手いと思います。

――駅という場所も良いですね。

zopp:たしかに、昔の友達と道端で会うことはなかなかないですが、駅で会うことは結構ある。東京は電車社会なので、電車の方が物語がありますし、説得力が増しますよね。<一つ隣の車輌に乗り>という歌詞もそうですが、場所を本当に上手く生かしているな、と。<二年の時が 変えたものは 彼のまなざしと 私のこの髪>とか、多くを語っていなくて、短くなったのか、茶髪になったのか、と想像させますよね。<うつむく横顔 見ていたら 思わず涙 あふれてきそう>とか、悲しい時に聴くと、辛いことがあってうつむいているんだろうなと思いますが、自分がハッピーな時だと、うつむいていたのは眠かっただけじゃないか、みたいに思えますし(笑)。聴く人の気持ちに寄り添ってくれて、カメレオンみたいに色が変わる歌詞ってすごく魅力的で、いつ聴いても色々な表情を見せてくれる感じがします。

――余白が良い具合にあるというか。

zopp:いしわたりさんも『関ジャム』で言っていましたが、“行間を読ませる”というのがすごく大事で。プロの作詞家たちは意図して行間を作って読ませる一方で、シンガーソングライターやバンドマンはもっと感覚的なんですよね。あとは小説の影響もあるのかなと思います。竹内まりやさんの時代の小説って純文学的な、行間を読ませる小説が多かった。今はどちらかと言うと自己啓発本などが多いので、行間を読ませるよりむしろ120%くらい表現してあげないといけない。

――たしかに今はミステリーなどでも、密度の濃いものが多い。

zopp:そういうものを読んで育っている人が歌詞を書くと、自然と密度が濃くなるんでしょうね。小説と歌詞の世界は密接な関係があるし、小説を読まない人は漫画やドラマ、映画をモチーフにした歌詞になる。純文学って失恋のイメージが強いし、アンハッピーエンドも多かった。最近はそういう結末の映画や小説が減って、ちゃんと回収して読み手に寄り添ってくれることが増えているので、そこも作詞に関係しているんだろうなと思いますね。

――米津さんは純文学と漫画を並行して読んでいたそうです。

zopp:だから歌詞にも不思議なフレーズが多いというか、新人類ですよね。そこがキュンとくるんでしょう。昔は漫画を読んでいるとすごく怒られましたけど、今は親も漫画を読んでいるので、漫画を読むことが悪ではなくなっている気がして。だから漫画の与える影響も大きくなってきたんでしょうね。僕は姉が少女漫画大好きだったので、少女漫画を読む機会は多かった。歌詞にちょっと乙女チックな要素があるのも、その影響かもしれないですね。

――『関ジャム』では、zoppさんは“タイトルを顔”と捉えているという話もありましたが、最近の失恋ソングで印象に残っているタイトルはありますか。

zopp:昔はインパクトのあるタイトルが多かったですが、最近は文章のように長いタイトルや、文章の途中で終わっているような、続きが気になるタイトルが多い。例えばゴールデンボンバーさんの「女々しくて」も、「女々しい」だったら分かるんですけど「女々しくて」。SEKAI NO OWARIとか、神様、僕は気づいてしまったとか、少し前に名前が長いバンドが出てきた時に、タイトルにも変化が生まれ始めたように思います。

――昔の楽曲でインパクトがあったタイトルにはどんなものがありますか。

zopp:先ほども話した「M」とか。大人になって「M」が好きな人の頭文字だと知りましたけど、ちゃんと歌を聴いていないと「Mって何?」ってなりますよね。「駅」もそうですが、昔は絵画的な短いタイトルが多かった。その後、「青春アミーゴ」のような外国語と日本語を組み合わせたりするいびつさがキャッチーになっていきました。最近はHYさんの「366日」のように名詞1個に回帰したり、先ほど言ったフレーズの途中で切るというのが増えてきた。最近の曲だと、RADWIMPSさんの「me me she」も、純文学的で、“僕、僕、彼女”と“女々しい”という2つの意味を持たせられるのがすごい。しかも“僕”の要素が強すぎるから「me」は2つで「she」は1個と聞いて、鳥肌が立ちました。もはや発明に近いというか。

――米津さんや、川谷絵音さんなど、言葉選びが得意なアーティストは他のアーティストにも楽曲提供したり、タイアップを手がけることも多いように思います。

zopp:星野源さんも上手いですよね。「ドラえもん」なんかは本当にバランス感覚が絶妙。「恋」もそうですが、星野さんはシンプルなタイトルが多くて、きっとそういう作品に多くふれてきたんだろうなと思います。彼は楽曲の芸術的な要素と、親しみやすいキャラクターという大衆的な要素、二つのギャップが魅力的なんでしょう。実は歌詞も明るさと暗さのギャップが大事で。例えば「打上花火」(DAOKO × 米津玄師)もそうですが、「花火」なんかは暗かったところが急にバッと明るくなる。

――『関ジャム』では「もう恋なんてしない」(槇原敬之)の、主人公から半径0m、5m、100m以上という距離、つまり視点を行き来した歌詞が秀逸だという話もありました。これは失恋ソングによく使われる技法なのでしょうか。

zopp:失恋ソングだけではなく、全ての歌詞、そして小説に共通することだと思います。まずパーソナルな話をして、それを俯瞰で見て、最終的に多くの人が見たらどう思うのかがサビにある、というのは王道の歌詞のパターン。だから、サビをキャッチーにするにはパーソナルな要素を入れないで誰もが抱くような感情を書かないといけないんです。「青春アミーゴ」はずっと主観なので、むしろそこが新鮮に感じられたんでしょうね。米津さんも主観が多いと思いますが、いきものがかりの水野良樹さんの場合、主観はあまり書かないですよね。でもずっと俯瞰で見ると共感しづらくなってしまうので、そのバランスが難しいところです。そこに個性や価値観が表れるんだと思います。

 そのバランスに絶対的な方程式はなくて、その時代のリスナーがどの距離感を求めているのかが大事。すごくいい歌詞を書いても時代に受け入れられない人を僕はゴッホって呼ぶんですけど(笑)、ヒット曲を生むにはピカソになる必要があって。ゴッホは自分の好きなものさえ描いていれば良いというスタンスで死後に評価されましたが、ピカソはマーケティングが上手かった。ヒット曲を生むならピカソみたいに色々な絵を描いたり、恋愛や人間関係、生活模様を見ないと。時代を意識した距離感と、実験的に色々試すことが大切ですね。

ーーこれからの失恋、恋愛ソングの歌詞はどう変化していくと思われますか。

zopp:沢田研二さんの「勝手にしやがれ」みたいに、昔は失恋の歌って大抵女の子がフラれて、男の子が後悔するみたいなものが多くて。それでもかっこつけ続けることが男の美学、という風潮だったんですけど、それが今変わってきていて。男性が女性にフラれる歌詞も増えたように思いますね。僕はこれまで男性アイドルを多く手がけていましたが、最近女性アイドルとの仕事も始めて。女性アイドルの最近の歌詞も恋愛を歌ったものが減っている印象があります。今はアイドルも、女性ファンをいかに増やせるかが焦点になりつつある。今後は“女性が女性に愛される”時代になっていく気がします。

 SNSや二次元との関わりも見逃せないところで、バーチャルユーチューバーなどもさらに市民権を得ていくのではないでしょうか。今後、BUMP OF CHICKENの藤原基央さんが綾波レイのことを思って書いた「アルエ」のような楽曲がもっと増えてもいいはず。多くのアーティストが未だに“昔ながらの恋愛像”を書こうとしているので、もっと多様性のある歌詞もアリなんじゃないかな、と思っています。

(取材=中村拓海、村上夏菜/構成=村上夏菜)

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