『Fate/Grand Order』1.5部楽曲はどのように生まれた? TYPE-MOON・芳賀敬太に聞く

『FGO』1.5部楽曲制作秘話

「1.5部はよりTYPE-MOONっぽい」

1.5部「-Epic of Remnant-」キービジュアル。

ーー『Fate/Grand Order Original Soundtrack II』は『FGO』の第1.5部と期間限定イベントに関する音楽を中心に収録しています。音楽を作るうえで、1部との大きな違いは?

芳賀:1.5部は“亜種特異点”という形で、各シナリオが繋がりのない独立した話であり、強烈な個性があるという設定です。なので、それぞれの世界において、取っ掛かりとなる楽曲・コンセプトを作るのが一番大変でした。押さえるべきポイントを見つけてからは、そこまで苦痛でもなかったです。1部の「FATAL BATTLE」はRPGっぽいものを意識しているんですが、1.5部はよりTYPE-MOONっぽいというか、命のやり取りをしているイメージで作りました。

「Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅱ」視聴動画

ーー確かに、高揚感というよりは緊張感のある印象です。

芳賀:最初のバトルから命の取り合いですからね。新たにブレイクゲージを導入したタイミングだったこともあって、いきなり長い間新しい曲を聴くシチュエーションになるという。でも、初出になったバトルとこの曲はすごく合っていたし、そう考えると1部に比べて1.5部は曲の使い方にも助けられた面はあります。

ブレイクゲージ初導入の戦闘シーン。

近代風だけど「ダークな伝奇テイスト」打ち出した〈新宿編〉

ーーなるほど。ここからは実際のストーリー順に楽曲を掘り下げていければと思います。まずは「亜種特異点I 悪性隔絶魔境 新宿 新宿幻霊事件」(以下、新宿編)について。この特異点全体のテーマは、どのように切り口を見つけていきましたか。

芳賀:新宿編に関しては、CMで使用されたテーマソングの「Lose Your Way」がオシャレな感じだったので、そこから同じ路線か、変えるのかというのが最初の話でした。結果はTYPE-MOONらしく伝奇色を全開にという形になりました。

ーーサウンドトラックと劇中歌って、どういう順番で作るんですか? 今回だと、「歌舞伎町の怪人」と「Lose Your Way」に近しさを感じたりしたのですが。

芳賀:CMのテーマ曲は僕の作業する遥か前から作られているんですよ。自分の作業期間はかなりリリース間近のタイミングです。「歌舞伎町の怪人」は、作る際にどうしようかなと新宿編の中では悩んだ曲でしたね。新宿編全般はダークな伝奇テイストになりましたが、ここでは違う雰囲気を出す必要があったので、最初の選択肢でもあったムードのある方向性で行くことにしました。

「マップテーマで苦戦」した〈アガルタ編〉

ーー新宿編の雰囲気はある種の不穏さを感じさせるものだったので、お話を聞いて納得しました。続く「亜種特異点II 伝承地底世界 アガルタ アガルタの女」(以下、アガルタ編)はどうでしょう。

芳賀:アガルタ編は作るべき曲がはっきりしていました。海賊風の曲、中華風の曲、ジャングルの曲……と、どこまで捻るかという加減で悩んだくらいですね。ここで苦労したのは、最初のマップテーマですね。ここは漠然とRPGのフィールドっぽい曲をオーダーされたのですが、その系統は1部で結構作ってきたので(笑)。どうすれば差別化できるか、苦戦しました。

ーー確かに「RPGのフィールドっぽいテーマ」は過去にも色々ありますし、このゲームだけでもかなり作ってきましたもんね。ライナーノーツではキーワードとして“エスニック感”を挙げていますが、これって1部でも度々引用されていた雰囲気・ジャンルだと思うんです。

芳賀:アプローチはその時々で違うんですよ。楽器はその国っぽいものを使うけど、フレーズはとくに意識しないパターンと、フレーズ的に匂わせつつ、楽器は普段の編成でいくパターン、その2つを使い分けていく感じですね。あまりコテコテだとTYPE-MOONらしさ、FGOらしさから離れていってしまうのと、シナリオの汎用曲は肝心の汎用性が低くなってしまうので、本格的な方に行き過ぎないほうがいいかなと思っています。

「亜種特異点II 伝承地底世界 アガルタ アガルタの女」マップ。

ーーBGMとして聴けるものであるかどうかも大事ということですね。

芳賀:色んなシーンで使えるということも含めてですね。例えば、第1部の6章でハサンの村の為に作った「山間にて」という曲は、楽器的にエスニックなものを使ってはいますが、それ以降も結構使われていたりして(笑)。

「和楽器は使える限り入れるように」した〈剣豪編〉

ーーそういう意味で「亜種特異点III  屍山血河舞台 下総国 英霊剣豪七番勝負」(以下、剣豪編)は、楽器としてのテーマ性も、フレージングでストーリーを感じさせるものもあるという印象ですが。

芳賀:そうですね。剣豪編を含め、1.5部で使っている和風の曲に関して、和楽器は使える限り入れるようにしました。やはり異国風よりは格段にイメージがしやすかったというところと、海外に展開しているゲームでもあるので、日本のクリエイターによる日本風の楽曲を是非聴いてもらいたいという気持ちもありました。

ーーTwitterでは「これ以上“和風”の引き出しはないというくらい作った」とありました。ジャンルを思いっきり絞って大量に作るというのは、やはり困難でしょうか。

芳賀:流石に“和風”という縛りでこれだけまとめて作ることはなかったですね。玉藻の前の曲のように、少しだけ和のテイストを入れる曲はありましたが。

「英霊剣豪七番勝負」のシーン。

ーー剣豪編はバトル曲「血風~BATTLE 5~」も印象的でした。

芳賀:1.5部では全てマップ曲をバトル用にアレンジして使っているので、剣豪編以外はそこまで難しくなかったんですが、剣豪編はテンポを速めたら異様に短い曲になってしまって(笑)。全然フレーズが足りなくなったので、イントロと後半を足しに足して、かなりドラマチックな展開の曲になってしまいました。

ーーファンからも人気の高いエミヤ曲も剣豪編には「エミヤ~無元の剣製~」として登場しました。これまでエミヤ曲はジェームズ・ハリスさんの担当でしたが、今回は初めて芳賀さんが楽曲を手がけています。

芳賀:これが和風じゃなかったら、ハリスさんにお声がけしてお願いしていたと思います。ただ、和風かつ剣豪用に使った曲がたくさんあって、楽器もある程度統一していたので、今回は自分がやるしかないと。ハリスさんには事前に、やらせていただきますとお断りだけ入れさせていただきました。

ーーハリスさんもサウンドチームの一人として、長く密接に関わってきたと思うのですが、彼の作家としての特徴は?

芳賀:僕の数少ない同業の仲間のうち一番古くから親交があるのがハリスさんなんです。彼の音楽は、今で言うEDMやテクノなど、エレクトリックなサウンドと、ブレイクビーツを中心とした繊細かつパワフルなリズムが大きな魅力です。そして、聴けばそれとわかる強い個性こそが何よりの特徴だと思います。

「18世紀のイギリス・ヨーロッパ音楽を参考」にした〈セイレム編〉

ーー次は「亜種特異点IV 禁忌降臨庭園 セイレム 異端なるセイレム」(以下、セイレム編)これは「舞台はアメリカだけど文化はイギリス」と、面白い舞台設定でしたが。

芳賀:音楽的にはアメリカはあまり意識せず、イギリスをイメージして欲しいという話でした。なので、18世紀のイギリス・ヨーロッパ音楽を参考にしつつ、クラシックとはいかないものの、古い感じと素朴さが同居した雰囲気に落とし込んでいます。

ーーバロック音楽×暗いテーマ・世界観というと、芳賀さんのルーツであるメタルも混ぜやすいジャンルのように思えるのですが。

芳賀:意識はしてないですが出てきている可能性はありますね。ジャンルがどうというより、とにかく暗い曲しか要求されなかったので。なかでも汎用曲の「迷信の町」は一応「明るい」というテーマだったんですけど、そこをどうするか悩みました。オーダーの詳細はどう見ても暗い曲だったので(笑)。結果的には要素の少ない淡々とした曲になったんですけど、この曲がセイレムにおいて他楽曲の基準にはなりました。メタル感というところでは、バトル曲に唐突にギターを使ったアイデアが出てきたのが、そういう部分だったのかもしれませんね。

「亜種特異点IV 禁忌降臨庭園 セイレム 異端なるセイレム」マップ。

ーーDisc1・2のなかで印象に残った楽曲は?

芳賀:まずはタイトルの「Epic of Remnant」ができた時に「1.5部もやれそうだ」という手応えがありました。1部のタイトルBGM「Grand Order」を変化させると決めていたので、受ける以前にパターンはなんとなく考えていて。その中で自分がやりたかったのがこの形だったんです。1.5部はダークなものになると聞いていたのですが、タイトルからここまで暗くなっていいのかなと不安になりながら提出したところ、「これくらいダークなものが欲しかった」と言われ、そのまま使うことになりました。

ーーそれ以外のアレンジも候補にあったけど、そのなかでこれを選んだと。それがポイントになって、1.5部のテイストが決まっていったんですね。

芳賀:1部は後半こそ激しくなってきますが、基本的にはファンタジー路線という作りだったので。1.5部はそれよりも暗くなることを意識しました。

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