「日本の常識ではないやり方を追求した」 AK-69が語る『DAWN in BUDOKAN』でのこだわり

AK-69が語る、ステージへのこだわり

 AK-69が昨年10月18日に行った日本武道館ライブの模様を収めた映像作品『DAWN in BUDOKAN』をリリースした。彼が武道館のステージに立つのは2014年3月以来2度目。当夜は、最新アルバム『DAWN』からのナンバーを中心に、名古屋のゴロツキから這い上がってきた険しい道のりを確かめるよう、不撓不屈の精神を綴った曲が渾身のパフォーマンスと共に次々に繰り出された。ヒップホップの枠を超えた豪華ゲスト陣をまとめあげ、視覚効果を含む演出に徹頭徹尾こだわって作り上げた武道館のステージに、彼はどんな思いで立ったのか。取材を進めていくうちに、今回の作品は単なるライブ映像作品ではないことも明らかに。成功裏に終わった武道館ライブの裏側から、今後の動向まで、たっぷり語ってもらった。(猪又孝)

失敗すると思われていた2度目の武道館

ーーおよそ3年半ぶりとなった今回の日本武道館ライブは、いつ頃から構想していたんですか?

AK-69:Flying B Entertainment Inc.(以下、Flying B)を立ち上げた2年前から思ってました。その頃はやれることを全部やっちゃって停滞感を感じていたというか、足踏みしてる感じがすごくあったんです。とはいえ、次の闘いは相当大きなモノになるのもわかっていて。そこに挑めるのかはわからなかったけど、守りに入るのか、玉砕覚悟で攻めていくのかの選択をした結果、Flying Bを立ち上げたわけで。そこからさらなる上を目指して一歩一歩やってきて、ようやく2年かけて武道館まで戻ってこれたっていうのが正直なところです。

ーーようやくっていう感覚なんですね。少し意外でした。

AK-69:正直言うと、武道館公演をやりたいと話したときは、制作会社に止められましたから。本気で武道館を押さえるんだったら保証人を立ててくれって言われて。簡単に言うと、失敗すると思われてたんです。

ーーお客さんが入らないんじゃないかと。

AK-69:そうです。その前にやってたツアーが全国5箇所のクラブツアーと、その前が東名阪のZeppツアーだったんで。俺が分析するに、俺のお客さんって、「AKはすごいことやって当たり前でしょ」みたいになってきてると思うんです。ライブをやるにしても「絶対行かなきゃ感」があんまりないというか、「まあ、またどこかでやるっしょ?」みたいな感覚があるんじゃないかと思ってて。要は、俺に対するイメージとか俺に求められてるものが実像より上回っちゃってる。でももう、俺の道は変えられねぇと思ったし、みんなのイメージが上回ってるんだったらそこに追いつくしかねぇと思って、武道館にもう一度挑戦しようと覚悟を決めたんです。

ーー意外にもシビアなスタートだったんですね。

AK-69:でも、幸運なことにUVERworldや清木場俊介と出会えて、彼らのファンにAK-69をアピールすることもできた。今までのお客さんを「また武道館やるんだ!」って再び奮い立たせることもできた。そうやっていろんなことが重なって武道館が成功できたんだと思ってます。もちろん裏側では、マネージャーとかに「武道館がスベったら俺たちの事務所マジで潰れるからな」ってハッパかけまくって、やれることは全部やってきたんですけど。

ーーいざ武道館ライブが決まって、どんなビジョンを描いたんですか?

AK-69:1回目が終わった時点で今回のビジョンはあったんです。1回目はあえて客演を一切迎えずやったので、次は自分が関わったアーティスト全員に出てもらうくらいの、日本のヒップホップの縮図的なライブがしたいと漠然と思ってました。実際フタを開けてみたら、UVERworldや清木場俊介とも一緒にできたんで、ヒップホップ以外にも日本の音楽をアピールできるライブにできたんじゃないかと思ってます。

ーーNORIKIYOや2WIN(T-Pablow、YZERR)、KOWICHI、DJ TY-KOHなど武道館に立ったことのないアーティストを多く客演に招いたところに信念や矜持を感じました。

AK-69:ヒップホップ的に見ても今回のライブは面白かったと思うんです。NORIKIYOが始まって早々に出てくるとか、TY-KOHがクラブ乗りで出てくるとか。とはいえ、ゲストがいっぱい出てきてフェス的な感じにはならないように。あくまで俺のライブだというところはすごく意識しましたね。

ーー彼らとの会話で印象に残っていることはありますか?

AK-69:2WINの2人は、「自分が憧れてた人のステージに立ててマジで嬉しいっす」みたいな。だから、「次はお前らの番だからな」って返したんです。

ーーステージ上でT-Pablowと互いの耳元で話していた会話が、それだったんですか?

AK-69:そうです。(T-Pablowが所属する)BAD HOPは、俺以降に出てきたアーティストの中で、初めて同じ毛色のヤツでスターになれるグループなんじゃないかと思っていて。その気持ちがあったから「次はお前らの番だからな」って伝えたんです。

ーー他にも出演したラッパーの舞台裏エピソードがあったら教えてください。

AK-69:あとは、NORIKIYOが珍しく打ち上げにいてくれました。当日はライブ後に挨拶とかいろいろあって、俺が打ち上げに参加できたのは夜中の2時くらいだったんです。でも、その時間まで待っていてくれて「本当に今日はありがとうございました」って言いに来てくれて。あとでマネージャーに話を聞いたら、NORIKIYOはリハのときから俺のことを見てたらしいんです。そこでテクニカルな部分にまで指示を出してる俺の様子を見て、「改めてAKさんのヤバさが武道館でわかった、だからこそ感謝を伝えたくて残ってた」って言ってたらしくて。俺はNORIKIYOをすげえリスペクトしてるし、あれだけのラッパーに、そこまで思わせられたっていうのはすごく嬉しかったですね。

海外のレベルまで持っていきたい

ーーゲストの話を続けると、UVERworldとパフォーマンスしてるときは本当に楽しそうでした。

AK-69:UVER史上初ですからね、自分たちの楽器を全部持って人のライブに客演するっていうこと自体が。あのときはみんなのパワーがすごかった。

ーーバンドメンバーと横並びになって演奏する躍動感は、ラッパー同士が横並びになってMCリレーしているときとも違うでしょうし。

AK-69:全然違いますね。興奮しました。TAKUYA∞が走り回ってるもんで楽しくて。それまでは「ちゃんと進めていかなきゃ」みたいな気持ちも強かったんですけど、UVERが出てきて緊張がほぐれましたね。あと、演出に使ったデカいポップアップ装置はUVERのために作ったんですけど、ポップアップが上がりきるのを待ちきれず、まずTAKUYA∞がよじ登ってきて。それを見て他のメンバーもよじ登ってくるっていう(笑)。

ーーせっかく装置をつくったのに(笑)。

AK-69:今回は照明にこだわっていてスポットライトをあまり当ててないんです。だもんで、俺がポップアップで出てくるときもそうだったんですけど、スポットが当たってなさ過ぎて、誰が出てきたのがわからないっていう(笑)。さらにスモークも俺が分量とか指示を出してたんですけど、煙もスゴ過ぎて顔が見えなくて。そこが反省点ですかね。

ーー今、話に出ましたが、今回は照明がすごかったですね。1曲目の朝焼けの色からすごく綺麗でした。

AK-69:今回も日本のトップレベルのチームに参加してもらったんですけど、生意気にもその人たちにダメ出しして。シミュレーターで組んでもらった照明を一から十までチェックして、俺たちが全部修正して。頭からケツまで通した照明のミーティングを3、4回はしたかな。それくらいやって照明をつくったんです。現時点で、日本であの照明を打てる人たちはいないと思う。

ーー照明にこだわるようになったのは、なにかきっかけがあるんですか?

AK-69:海外のレベルに持っていきたいんですよね。海外アーティストが日本で行うライブを見てもそこまで参考にならないんです、機材までは持ち込めてないんで。だけど、向こうで見る本気汁出まくりのライブを見ると違うんですよ。

ーー去年は向こうでケンドリック・ラマーのライブを見たと言ってましたよね。

AK-69:ケンドリックのライブも参考になったし、カニエ(・ウェスト)とかドレイクとか、トップレベルのアーティストのライブを見ると「そういうことか」っていう発見がすごくたくさんあるんです。日本と常識が違うというか。そもそもスポットライトを多用する日本の照明がメッチャ嫌いなんですよ、俺。

ーー日本でも特効を駆使するというより、照明や映像といった視覚効果でライブを盛り上げるアーティストが増えてきたように思います。

AK-69:そうですね。今回のように後ろに巨大なLEDスクリーンを背負うのも今のトレンドというか。今回はDef Jamのアーティストとして海外からどう見られるか、アジアのアーティストとしてどうライブを作るかっていうことが裏テーマにあったんです。それでネオトーキョーというかアジア感にこだわって、映像では漢字を結構使ったんです。そういう演出とか、あと「IRON HORSE -No Mark-」のときに赤色の線がだんだん太くなっていく映像も、小さいスクリーンだったら何にも特徴がないと思うんです。あの大画面でそれをやるからものすごい迫力が出て、お洒落に見える。そういうことも計算して、あのスクリーンを背負ってたんです。あと、ステージの床を全面白にしたのもこだわり。一般的には黒なんですけど、白にすることによって反射を活かした世界観が出せる。そういうふうに日本の常識ではないやり方を今回追求したんです。

ーー今回はバンド編成のライブでしたが、バンドメンバーの姿が見えないステージ作りになっていましたよね。それも脱・常識だと思います。

AK-69:最初から最後までずっとバンドはいるんですけど、途中、俺の衣装替えのときに初めてバンドがスクリーンから透けて見えただけっていう。

ーーある意味、めちゃくちゃ贅沢なバンドの使い方ですよね。

AK-69:そうなんです。普通に考えたら、予算をかけてバンドを使うんだからメンバーを後ろに置こうとか、DJもいるんだから出そうってなるんです。今回、DJ RYOWもゲストとして出てきただけですから。だけど、そうやってどんどん盛り込んでいくと、自分の本当にやりたいことからちょっとずつズレていっちゃう。今回、俺は、ステージに何もないっていうのをやりたかったんです。真っ白の四角い空間を照明でステージセットにするっていう。そうするとDJが鎮座してるだけでイメージにそぐわなくなる。そこにはこだわり抜きたかったんで、バンドメンバーやRYOWにちゃんと話して理解してもらって、ああいうカタチで出てもらいました。結果、バンド編成でやってることはお客さんに伝わったと思うし、俺が目指していた見た目の条件もクリアできて良かったです。ただ、今回のライブ作りは日本の常識で考えたら驚きのやり方ですけどね。

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