スラッシュメタル、ブラックメタル、ジェント……“エクストリームメタルの進化”示す新譜5選

 新年あけましておめでとうございます。昨年はハードロック/ヘヴィメタル(以下、HR/HM)やラウドロックなど、エクストリームミュージックのリスナーである自分にとっては非常に豊作の1年だったように感じています(参照:西廣智一が選ぶ、2017年HR/HM/ラウドロックベスト10 暗いニュースの裏にあった傑作たち)。さて、2018年はどんな1年になっていくのでしょうか。今のところ1月中旬から下旬にかけてBlack Label SocietyやMachine Headの新作、2月下旬にはマイケル・シェンカーが歴代シンガーたちを迎えたMichael Schenker Festの1stアルバムが控えていることからも、今年もメタル/ラウドファンには喜ばしい1年になりそうですね。

 さて、新年一発めとなる今回のキュレーション連載ですが、タイミング的に1月発売の新譜は間に合わなかったため、過去1カ月(昨年11月下旬~12月末)にリリースされた新作の中から「エクストリームメタルの進化の先にあるもの」というテーマに沿って、気になる5枚を紹介していきたいと思います。

 「メタルの中でも特にエクストリームな存在は?」と問われると、もちろんリスナーの趣味によっていろいろ変わってくると思います。ここでは私の観点で話を進めさせてもらいますが、過去を振り返ってみるとやはり1980年代のスラッシュメタルやブラックメタル、そしてデスメタルの誕生はそれまでのHR/HMから大きく様変わりしたという意味でも非常に重要な存在だと感じています。

 さまざまなサブジャンルを生み出し続けているHR/HMシーンですが、MetallicaやSlayerの登場を機に新たな可能性を見せてくれたのがスラッシュメタル(Thrash Metal)というサブジャンル。BPMが非常に速いスピードメタルにハードコアパンクの要素を加えたという意味ではメタルとハードコアの亜種と言えなくもないですが、上記のようなバンドが作品を重ねるごとに進化を遂げた結果、単純に亜種と言い切れない独特のスタイルが確立されていきました。

Annihilator『For The Demented』

 今回紹介するAnnihilatorは1984年にカナダで結成された、スラッシュメタルとしては第2世代にあたるバンド。1989年にアルバム『Alice In Hell』でデビューして以降、Megadethにも通ずるテクニカル路線で高い支持を得ています。また、リーダーのジェフ・ウォーターズ(Vo/Gt)はギタリストとしてMegadeth加入の噂もあったほどの実力の持ち主。しかし、このバンドはフロントマン(ボーカリスト)が安定しないという弱点もあり、1990年代半ばからはジェフがリードボーカルを兼任することも多々あり、2015年以降も再びジェフがボーカルを担当しています。

 海外では昨年11月、ここ日本では12月末にリリースされた通算16枚目のオリジナルアルバム『For The Demented』はジェフ自身もアルバム解説で触れているとおり、「古き良きスラッシュメタルとヘヴィメタルが融合したような最初期Annihilatorの雰囲気がある」力作です。ファンから高く評価されている初期3作(1989年の『Alice In Hell』、1990年の『Never, Neverland』、1993年の『Set The World On Fire』)に通ずるテクニカル路線(Megadethでいうところの“インテレクチュアル・スラッシュメタル”)を彷彿とさせつつ、ヘヴィメタルバンドらしい王道感もしっかり備わっている。さらに、ところどころにモダンなアレンジ(ギターリフの刻み方など)が施されることで前時代的なもので終わらず、しっかり今の音として成立しているのです。もちろん、4thアルバム『King Of The Kill』(1994年)以降の彼ららしさも至るところから感じられるし、バラード調の楽曲やパンク寄りの楽曲など、全体を通してバラエティに富んだないように仕上がっている。今年でMetallicaがデビューしてからまる35年となりますが、そこを起点に考えるとAnnihilatorの最新作『For The Demented』は35年でスラッシュメタルが到達したひとつの高みと言えるかもしれません。

Annihilator – Twisted Lobotomy (Official Video)

 そのスラッシュメタル同様、1980年代前半からエクストリームな存在として一部マニアから高く評価されてきたのがブラックメタル(Black Metal)。1982年にイギリスのVenomが発表したアルバム『Black Metal』が起源と言われているこのサブジャンルは、Wikipediaによると「反キリストをテーマにした歌詞やボーカルスタイル、ステージネームを使った演出技法」が特徴のようで、ビジュアル面では北欧のバンドによく見られる白塗り(コープスペイント)が、サウンド面では単音のトレモロリフやシンプルなブラストビート、高音を強調した金切り声が特徴として挙げられます。また、ブラックメタルはその音楽性以上に90年代に北欧で多数発生した事件(教会への放火やバンド同士の対立・殺人など)など、ネガティブな面で注目を集めたジャンルでもあります。このあたりの歴史的背景は、最近出版された書籍『ブラック・メタル サタニック・カルトの30年史』(DU BOOKS)に詳しく掲載されているので、興味がある人はぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。

Shining『X - Varg Utan Flock』

 さて、そのブラックメタルですが、最初に書いたようなパブリックイメージをなぞる音楽性のバンドも多数存在するものの、そこから無数もの枝分かれをして進化を続けるバンドも少なくありません。スウェーデン出身のShiningというバンドもそのひとつで、90年代半ばにニクラス・クヴァルフォルト(Vo/Gt)を中心に結成。当時、ニクラスはまだ12歳だったとのことで、改めて北欧のブラックメタル文化の奥深さを感じさせてくれます。多くのブラックメタルバンドにとって反キリストがバンド活動のきっかけでしたが、このShiningは自殺や精神的苦痛、怒り、不安などをテーマに楽曲制作を行い、そのスタイルはデプレッシブ・ブラックメタルやスーサイダル・ブラックメタルとも呼ばれています。

 日本では昨年末に先行リリース(海外では今年1月5日にリリース)された『X - Varg Utan Flock』は、文字どおりShiningにとって通算10作目のオリジナルアルバム。本作を聴いて驚かされるのは、多くのリスナーがイメージするブラックメタルとは一線を画する、非常にバラエティ豊かな楽曲が並んでいること。全体を覆うダークさは確かにブラックメタルのそれなのです(もちろん、まんまブラックメタルな楽曲も存在します)が、曲によってはシンフォニックな要素であったり、プログレッシブロックを思わせる複雑な展開(日本盤ボーナストラックを除く全6曲中、7分前後から9分台の楽曲が5曲と大半を占める)、クラシカルなピアノインスト曲、気だるさを漂わせるブルースロックなど、ダークな中にも多彩さが感じられる作風なのです。特に圧巻なのは、9分半にもおよぶ大作「Mot Aokigahara」。そのタイトルからもわかるように日本の青木ヶ原樹海を題材としており、スローでダークなサウンドに乗せて「俺は1983年12月に生まれ、2017年12月に死んだ」という不気味なつぶやきが繰り返される。かと思えば、突如感情が爆発したかように激しくなるある種ドラマチックな展開は、人間の奥底に潜む衝動を音楽で表現したかのようで、Shiningというバンドの特異性を理解するにはうってつけの1曲かもしれません。

Shining - Gyllene Portarnas Bro (official premiere)

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