『オネエスタイルダンジョン』ファイナル潜入! 二丁目で育んだ“HIPHOPとゲイカルチャーの融合”

『オネエスタイルダンジョン』がファイナル

謝謝美×チカコ・リラックス

謝謝美:ブスブスオネエのチカコ・リラックス。お前の身体はコンプレックス。股が破れたあんたのサイズ。まだ覚えてるか、エアロビクス!

チカコ:あれ、なんだか上手くなってる。自己紹介? ありがとうございます。私の名前はチカコ・リラックス。デブでオカマで女装です。最近まではニートでした。だけど仕事が見つかりました。代々木のバンコクガーデンです。タイ料理です、コップンカー! 皆さん、せーの! コップンカー! 皆さん、せーの!

観客:コップンカー!

チカコ:皆さん、せーの!

観客:コップンカー!

謝謝美:トモチカ(チカコ)との出会いは7年前。25歳のエアロビインストラクター養成学校。当時は80キロ、今は130キロのトモチカ。ずっと立ち仕事で膝が大変そう。膝大丈夫? エアロビクスあれだけ踊ってたのに踊ってないね。エアロビクスできるかな?

チカコ:できるよ!

~そして始まるエアロビタイム。キレッキレの謝謝美に対してチカコはグダグダ~

チカコ:ひっひひっひひ膝が痛い! ひっひひっひひ膝が痛い! こっここっここ腰が痛い! コンドロイチン待ってます! グルコサミンも待ってます! ぐるぐるぐるぐるグルコサミン! 世田谷生まれの!

観客:グルコサミン!

 これぞオネエスタイルダンジョン! 白熱したバトルだったが審査員のジャッジで勝利の軍配はチカコに上がった。観客は大喜びだ。MC漢も苦笑交じりの様子で見守っていたが、コメントを求められると「謝謝美さんが友人に似ていて複雑な心境です」と答えて笑いを誘った。謝謝美が「好きになっちゃった?」と聞き返すと「そのウザさも突き刺さる、新宿二丁目」とMC漢が答えてますます会場が盛り上がった。

まっく×胡蝶蘭戦

 まっく×胡蝶蘭戦もすさまじかった。

 「あたしは大人だYO! だからあんたの事守るYO! なんていうの、これ。感じたろ? これがオネエだよYO!」と言う胡蝶蘭に対して「もっと魅力感じたい、それを教えてくれないと意味がない」と乞うまっく。「だってあたしの魅力伝えたら大変なことになっちゃうけど大丈夫?」と言いながら胡蝶蘭はまっくに艶めかしい口づけをする。会場は熱気に包まれるが、唇を奪われたまっくは茫然自失。そして胡蝶蘭は言い放つ。「ほら、あたしのライム感じたYO!」

 ストレートのまっくとしてはなんとも厳しい手ほどきを受けることとなったが、これもまたオネエスタイルダンジョンの醍醐味なのである。ちなみにチャレンジャーが勝利すると賞品がもらえるが、モンスターからのキスもその一つとしてラインナップされている。まっくは敗者にしながら賞品を得ることができたラッキーボーイだったのだ。

CODY×オナン・スペルマーメイド

 続くCODY×オナン・スペルマーメイド戦。

 黒人女装というゴージャスな見た目のCODY、そして華美なメイクだけでなく、演劇を取り入れたパフォーマンスで評価を受けているドラァグクイーンのオナン。「あんたオハイオ州に彼氏いるっているっていうけど、その距離じゃ浮気されてる」とCODYがけしかけたかと思えば「あたしは毎晩浮気してる」とオナンがまさかのカミングアウト。しかも「今日もあたしは相手を見定めている。あんたあんたあんた!」と会場の観客を指名し、場内に笑いの渦を起こした。しかもオナンから指名された相手は司会のLADYの友人というオチで、CODYがすかさず「じゃああたしはその隣の子」とアプローチをすると会場はますます大盛り上がり。もはやバトルでもなんでもないと思ったのはあたしだけではないだろう。

ダテメギリ×チカコ・リラックス

 ここでダテメギリというラッパーらしいラッパーがやっと登場する。終始緊張していた様子のダテメギリだが、実は『UMB 2016』の長野予選において準優勝という経歴を持つ正真正銘のバトルMCだ。「ブックマーク」という曲をリリースするほか、ライブをこなしながらFRESH!で『ラブアンドピースコレナニ』という配信番組を持つなど精力的に活動している。そんな実力派のラッパーすらチカコに翻弄されてしまう。

 「おかまいなしか! おかましかいない!」と言葉遊びを仕掛けるダテメギリに対し、チカコ・リラックスは「あなたのしゃべりは最高ね! あなたの髪型も最高ね!」と褒め殺しかと思わせながら「でも顔はムリムリムリムリ!」と最後はDA PUMPを思わせるパンチラインでクリティカルヒット。やはりモンスターは強い。MC漢にコメントを求めると「チャレンジャーのラップが一定のレベルに達していてびっくりしました」と答えた。負けてしまったダテメギリだが、憧れのMC漢に褒めてもらえたことでとても満足していた様子だった。

ショータイムも見逃せない

 こんな調子でバトルは続いていくが、ショータイムも見逃せない。

 トップバッターは審査員のアロム奈美江だ。アロム奈美江が敬愛して止まない安室奈美恵になりきってsuite chic名義でリリースした「GOOD LIFE」を華麗に舞う。決して歌わない口パクだが、リップシンキングと呼ばれるショーだ。男性だと言わない限りわからない美しさを振りまいていく。そして客演で参加したZeebraのパートが始まるとその事件は起きた。椅子の上に置いていたパネルを起こすとなんとZeebraの写真がプリントされており、アロム奈美江がその写真にマイクを突き付けてZeebraに歌ってもらってる風を装ったのだ。シンプルながらも前衛的なパフォーマンスに会場が湧いた。さらにアロム奈美江は観客の中から男性をステージに連れ出して、服に「ジブラ」と書かれた名札を貼り、彼の周りで踊り続ける。しかも彼はZeebraのパートで積極的にマイクを持ってリップシンキングをして盛り上げた。二丁目特有の安っぽさとアロムのもつ可憐さが融合された「ある意味」完成度の高いそのショーはまるでZeebraとDOUBLEの「プラチナム・デート」を見ているかのような錯覚にすら陥ってしまった。

 続くはアクセル・ジルガーマン。その見た目のインパクトと頭の良さと器用さから最近はTV出演までこなす彼女だが、ショーも身体を張っていた。中島みゆきの代表曲をmixした楽曲に合わせて踊る。しかしかの迷曲「テキーラを飲みほして」が流れるとクエルボを一気飲みして会場を盛り上げる。それも一度や二度ではない。何回も流れるのでその度にクエルボを飲み続ける。最終的には「テキーラを飲みほして」しか流れない中、悶えながらもクエルボを飲み続ける彼女の雄姿に会場からは拍手と歓声と悲鳴が沸き起こった。

 そして待ちに待った西新宿パンティーズの登場だ。

 ゲイが3人も在籍する世にも珍しいHIPHOPユニットだが、「パンティーズ」を名乗るだけあって女性下着をアクセサリーとして身に着けたパフォーマンスで評判を呼ぶ。しかもトラック制作にkuma the sureshotや8ronixなどを迎えるだけあって、楽曲の評価も高い。業界内での評判も良く、先ごろ渋谷オルガンバーで開催された西パンのリリースパーティーではBUDDHA BRANDのNIPPSの姿もあった。

 そんな西パンのライブはMOUSOU PAGERからshowgunnを客演に迎えて制作された「君に壁ドン」からスタートする。女性下着が配られ、観客も頭にかぶったり、ヘアバンドのように身に着けていた。女の子は特に大はしゃぎだ。もうオネエスタイルダンジョンでもお馴染みのナンバーだが、下ネタ満載のリリックに観客も盛り上った。スヌープバタ子、adipoy、MCくんに君らMC陣のラップにも力が入る。そして尺八がその場でサックスを生演奏。showgunnの舌が回ったフロウも良いアクセントになっていた。

西新宿パンティーズ feat.豆尖 / 君に壁ドン part 2

 そして新曲の「君に壁ドン part 2」。バウンシーなトラックはフロア受けもバッチリだが、西パンにしてはいつになくポリティカルなリリックが綴られている。<国境の壁 人種の壁 男女の壁 おかまとおなべ 言葉の壁 世代の壁 思想の壁 君に壁ドン> 目に見えない壁をドンと壊して行こうという内容である。そんな曲が二丁目で歌われるのは感慨深いものがあった。観客の胸にはどんな風に響いていたのだろうか。

 3曲目「僕らがパンティーを被る理由」ではなんと嫁入りランドがゲストで参加。マムダンス&ノヴェリスト「Take Time」を日本語でカバーした「NOW LOADING…」がイギリスのfactmagなどに取り上げられて注目を浴びた緩いガールズラップユニットだ。しかも楽曲の中で「赤いスイートピー」を引用しながら下ネタ満載の替え歌をする。そんな品の無さも西パンとの相性もばっちりだ。会場も盛り上がっていた。

 再びバトルに戻る。MC漢は残念ながらスケジュールの都合で会場を後にしたため、showgunnが2部の審査員に就いた。そして現役の駅員や2on2に挑むノンケなどチャレンジャーが続くもモンスターがことごとく返り討ちに合わせる。ただ、試合の度にクエルボを飲んでいるのでモンスターもそろそろ泥酔。特に胡蝶蘭が酔って予想外のコメントを繰り出すので見ているこっちがハラハラさせられた。なぜか審査員であるはずのshowgunnも巻き込まれてクエルボを飲ませられていたのが二丁目らしい展開だった。

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