リアム・ギャラガーが『As You Were』で勝ち取った普遍性 全英1位獲得の理由を小熊俊哉が分析
リアム・ギャラガーが初のソロアルバム『As You Were』を10月6日に発表してから、早くも1週間が経過した。そのリアクションたるや凄まじく、本国UKチャートでも残りのトップ10アルバムのセールスを余裕で上回る独走ぶり。総売上は早くも10万枚を突破しているが(103,000枚)、これは2017年だとエド・シーラン『÷』、ラグンボーン・マン『Human』に続く快挙であり、当然のように全英1位に輝いた。Beady Eyeでの初週セールスが、2011年の『Different Gear, Still Speeding』は67,000枚(全英3位)、2013年の『BE』は35,000枚(同2位)であったことを踏まえると、今回のニューアルバムで完全復活を果たしたことがよくわかる。ここ日本でもiTunes総合アルバムランキングで初登場1位を奪取するなど、売れ行きは上々のようだ。
快進撃の理由はいくつか思い当たるが、やはり一番大きいのは、『As You Were』が会心の内容に仕上がったことだろう。同作の充実ぶりは、MOJO誌が「ここ20年のリアム(=オアシスの3作目『Be Here Now』以降)にとってベストの内容」と絶賛するほどで、新旧ファンや音楽メディアのあいだでも賞賛の声が絶えない。このように批評/セールスの両面で、同作が大成功を収めた理由を紐解いていこう。
『As You Were』で実践された勝利の方程式は、実に単純明快だ。リアムのポテンシャルを最大限に発揮させること、それをモダンに響かせること。この2つにフォーカスを絞ったことが、ヒットに繋がった最大の要因といっても過言ではない。もうひとつ付け加えるなら、リアムの全盛期であるオアシス時代の輝きを、どうやったら兄・ノエルが不在のまま取り戻すことができるのか。
そんなミッションを遂行するために集められたのが、アデルやシーアにも携わったグレッグ・カースティンを筆頭とするプロデューサー/ソングライティングチーム。彼らの客観的な意見を取り入れつつ、“世間に求められるリアム像”をビルドアップしていくことで、『As You Were』は最大公約数の期待に応えるアルバムとなった。
その最たる例が、6月に先行公開されたシングル「Wall of Glass」。リアム自身とプロデューサーのグレッグを含む5人が作曲に関わった同曲は、乾いたノイズ・ギターなどオアシス的なクリシェもまぶしつつ、ヒップホップ~EDM以降のメソッドを導入することで、サブスクリクション時代の再生環境にもフレンドリーな音像を実現させた(詳しくは6月の記事で解説済み)。8月の来日公演でも、往年のオアシスナンバーに匹敵するほど歓迎されたこの曲は、アルバムの期待値を一気に高めたはずだ。
かくして届けられた『As You Were』の収録曲は、大きく4つに区分できる。まずは、「Wall of Glass」のようにメインストリームの方法論を援用して、ブリットポップを再構築したタイプ。これは「Come Back to Me」などグレッグがプロデュースを担当した楽曲に該当するもので、バンドサウンド風の体裁を保ちながら、エディットが施されたビートの“トラック感”と、スペースを活かした高解像度のプロダクションを特徴としている。
2つめは、ギターロックのオーセンティックな快楽性を、モダンに磨き上げたタイプ。先行シングルの段階では、ダイナミズムの欠如が批判されたりもしたが、リアムがフェイバリットに挙げる「Greedy Soul」など、パワフルな楽曲もずらりと並んでいる。このあたりは、The VaccinesやCirca Wavesなど、近年の活きがいいUKロックを支えてきた名プロデューサー、ダン・グレック・マーグエラットの手腕が冴えている。
3つめは、オアシス時代から“作曲家・リアム”が持ち味としてきた、素朴で愛らしいメロディを昇華させたタイプ。かつての「Little James」に通じるメランコリックな歌心を、ドラマティックなアレンジが彩る「Bold」は、今回のアルバムでも出色のナンバー。ビートリーなコーラスが添えられた、アコースティック仕立ての「When I'm in Need」も愛らしい一品だ。
そして4つめは、リアムの十八番であるビッグバラード。本作のために、ソングライターのアンドリュー・ワイアットとマイケル・タイが共作した「Paper Clown」と「Chinatown」は、センシティブで昂揚感を伴ったメロディに胸を打たれる。ほかにも、「Don’t Look Back In Anger」的なムードを持った「For What It's Worth」、「Champagne Supernova」を彷彿させる「Universal Gleam」など、ポップで広大なナンバーがハイライトとなっている。