DARTHREIDERが日本語ラップに抱くアンビバレンツな感情 「マイノリティだと自覚している」

DARTHREIDERが日本語ラップに抱く感情

 ラッパーやHIPHOP MCとして活躍するDARTHREIDERが、書著『MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門』を上梓した。さらに同時期、自身が属するファンクロックバンド・THE BASSONSの新しいアルバム『5YEARS』をリリースするなど精力的な活動が続いている。今回リアルサウンドではDARTHREIDERにインタビューを行い、主戦場である“日本語ラップ”ではないフィールドでのバンド活動や書籍の刊行といった最近の動向について話を聞いた。そこで語られたのは、「いつなんどき旅立っても大丈夫なようにしていこう」という、ヒップホップシーンに“何か”を残そうとする彼の意思だったーー。聞き手は荏開津広氏。(編集部)

僕のなかで大きかったのは、D.L.さんが亡くなったこと

『MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門』(KADOKAWA)

ーー僕は今も大学の講師などと同時に物書きもやっていますが、その昔、90年代にはDJで生計をたてていて、わりと現場からシーンを見ていたと思います。2000年以前の日本語ラップ・シーンとそれ以後のラップ・シーンを分けるとするなら、その違いのひとつは、それまで日本語になってなかった光景をラップした、例えばMSCのような存在の登場です。僕はそういう意味で、マイカデリックが出て来たのを見ていました。マイカデリックのやっていた、ラップやヒップホップのファンクへの繋がりを、日本の、ジャンクな日常感覚みたいなものを通して表現するっていうのは、ありそうでなかった。世界的にも新しい、日本だからこその方法論だったと思います。だから、2014年ですか、ダースさんと漢さんが一緒に何かやる! というニュースを聞いたときは、興奮しました。そして、今、2017年7月ですが、ダースさんは、まずご自身のバンドTHE BASSONSの新しいアルバム『5YEARS』をリリース、『MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門』というダースさん以外には書けないだろう本を出し、そのうえ9SARIグループを円満退社、というニュースも飛び込んできました。

ダースレイダー(以下D):僕のなかで大きかったのは、(ブッダ・ブランドの)D.L.さんが2015年に亡くなったことです。個人的にお茶とかするようになったのはここ10年ですけど、高円寺や渋谷に「美味しいところあるんだよ」って呼びだされて行くと、電動自転車でD.L.さんが来る風景は今でも目に浮かびます。D.L.さんはいろいろなマンガやレコード、「こんなのあるんだよ、面白いんだよ」って見せたり聞かせてくれたりして、もう知識の宝庫でした。ホントに、いろいろ教えてくれるんです。あの人は“教えたがり”で、ブッダ・ブランドっていうグループの成り立ちもあの人なりに「NIPPSとCQっていうすごいMCがいるんだよ」っていうことを人に教えたい、というのが動機だと思います。ほんとうに、会う度に新しいこと教えてくれてたんです。でも、亡くなっちゃうと全然あの人が持ってた知識ーーレコードでも、“B面のこの曲のここにこういうブレイクがあるんだよ”っていう知識は全然パスされない。まったく継承されてないとは言わない。でも、D.L.さんの集めた膨大なモノはモノで、もう何も言わないんです。

ーーご自身の体調のこともあり、そういう風に考えるのは理解できます。それに、日本語ラップが英語のラップと特に異なるのは、これだけの大きいフリースタイル・バトル・シーンが存在していることですよね。アメリカでは、もちろん、賞金がかかったコンテストもありますが、まぁ、フリースタイル・バトルはいい意味で余興、といいますか、ラッパーが自身のスキルを見せながら、遊び感覚でやるものだというのが基本的な感覚だと思います。ダースさんは、当初のマイカデリックでは、いわゆる“音源派”で、そこから日本の、真剣勝負のバトル・シーンへ果敢にも移っていった印象があります。

D:『MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門』は、192頁なんで、よき思い出っていうのは、しようもないエピソードだったりもするんで(笑)、けっこう削ることが多かった。内容的には、世間的にいうと名も無きMCたちの話だったりもする。“入門”と書いてありますが、『フリースタイルダンジョン』で入ってきた人たちにも判る、でも、そういう人たちにも知っておいてほしい、幾つかの大事なこと、というような本です。例えば、以前もリアルサウンドで話したクレさん(KREVA)のことを、ヒップホップじゃないと言ってる若い人がいる、と。一周も二周もして、クレさんのファン層も変わったし、見方も変わったんだな、と思いました。だったら、この本で僕はKREVAのヒップホップ要素、もしくはバトルMCとしてどこが優れているか、を書いてみようと思ったんです。

ーーこの本は、これからもずっと残る素晴らしいものだと思います。アメリカのシーンと日本のシーンの違い、ということは、バトルのシーンは日本語ラップ独自の特徴ということですから、日本語ラップについて知りたい人は読むべき、マストな1冊です。それに、勉強だけじゃなくて、面白いです。出てくるMCの名前を検索しながらいろいろな音源を聞いたりするとほんとうに楽しい。意外な人がバトルに参加していたり……。

D:僕はヘッズというか、出会った瞬間から恋に落ちたじゃないけど、面白いシーンだと思って取り込まれて、ずっとそこにいて、気がついたら長いこといて、未だにいて、それは自分で選んだ距離感ですが……。

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