阪本奨悟、シンガーソングライターとして踏み出した新たな一歩 福山雅治の「恩返しとしての継承」

阪本奨悟が福山雅治から受けた「継承」

 阪本奨悟のメジャーデビュー曲「鼻声」「しょっぱい涙」は、福山雅治のプロデュースだ。作詞も共に手がけている。福山雅治は、そんな彼の行動にどこか自分を重ねていたのかもしれない。

「プロデュースしてくださると聞いた時は、もちろん嬉しいというのはありましたけど、ちょっと怖かったというのもあります。自分の能力の無さに幻滅されちゃわないかなと思っていました。まずは何曲かデモを作っていたので、その中から良いと思う曲5、6曲を福山さんに投げて、スタジオに入ってその場で聞いてもらうことから始めました。僕は詞を書くのが苦手なんで、アドバイスをしてもらえたらと思ってたんですけど、『鼻声』をピックアップされて。“好きだよ好きだよ”のリフがすごくいいから、これを広げて行こう、この曲で一緒に作ってみようということになりました」

 実を言うと、「鼻声」は「デビュー曲です」と聞かされる前に、ラジオか何かなのだろう、どこかで耳にして知っていた曲だった。歌詞の中の“153cmでも”というところが引っかかっていた。個人的な理由なのだけれど、僕の妻の身長が153cmだからだ。聴きながら主人公を思い浮かべてしまっていた。

「福山さんにインタビューされましたね。好きなタイプはとか、好きな子はどんな子だったって。ずっと鼻声でしたって言ったら、それ良いねって、それ書こうよって。喧嘩したと言ったら、何で喧嘩になったの、とか、自分が悪かったと思うかとか、色々聞かれて。話してても恥ずかしかったですけど、そんな具体的なことを書いたら恥ずかしいよって思ったんですけど、完成した時にその歌の特徴になってて。そこが聞き手に受け止めやすいものになるんだって、すごく勉強させてもらいました」

 福山雅治プロデュースと言われて思い浮かべる光景はどんなものだろうか。こうした具体的なやりとりを想像する人がどのくらいいるだろう。

「メロディに関してもアドバイスをもらえて、それでメロディが良くなったり、ギターもリズムやフレーズの弾き方もアドバイスして頂きましたし。お互いギターを持って同じ曲で同じ作業をしている。信じられなかったですね。現実味がなくて、本当に夢みたいでした。『しょっぱい涙』も、最初書いていたのは、歌詞にあまり意味は持たせてなくて。韻を踏んだり耳で聞いて楽しめる、という曲だったんです。でも、福山さんが『シンガーソングライターとしてちゃんと意味を考えないと駄目だよ』って」

 福山雅治がデビューした頃を記憶されている方もいらっしゃるだろう。デビューアルバム『伝言』は、元ARBの白浜久のプロデュース。作詞も一緒に関わっている。当時の記事資料には、二人の間で、そうした会話があったことが残されている。

 福山雅治は、今回のプロジェクトに参加した理由として、白浜氏をはじめ、今まで自分自身を育ててくれた方々に対する「恩返しとしての継承」であると自身のスタッフに語っていたそうだ。

 「しょっぱい涙」にも、そんな“具体性”が織り込まれている。“ミドリガメ”である。

「アニメの主題歌だったんで“絆”というテーマがあったんです。最初は“僕たちは絆で結ばれている”みたいなことを書いてたんですけど、福山さんに『奨悟自身に絆ってあったの?』って聞かれて『いや、人をなかなか信用できないんで、感じたことなかったっす』って言ったら、『本当のことを書かなきゃ駄目だ』『それは嘘だから、嘘は誰にも伝わらない。作家さんみたいに嘘でも面白いものを書ける人はいるけど、奨悟はそうじゃないでしょ。自分で感じてきたことをしっかり考えて書かないと』と言われて。高校生の頃も人を信じられずにフラフラしてたし。でも、信じたいと思ってた。そこを福山さんに掘り起こされました。『昔大事にしていたものってある?』『死んじゃったペットとかいなかった?』と聞かれて出てきたのがミドリガメでしたね。『昔、川で捕まえてきて、ベランダで飼っていたら干からびて死んじゃった。それがショックで覚えてます』と言ったら、『ミドリガメ、何だよ、それ歌詞になるのか』とか言いながらでしたけど(笑)」

 阪本奨悟には、インディーズから出たミニアルバム『Fly』もある。上京してから、地元に帰っていた時代のことを思いながら書いたという5曲には、飛べない鳥が精一杯の翼を広げて飛び立とうとする心境が歌い込まれている。例えば「オセロ」には<僕はただの弱者だ><僕はただの敗者だ>という歌詞もあった。ミニアルバム『Fly』とデビューシングル『鼻声/しょっぱい涙』の両方が、シンガーソングライター・阪本奨悟の昨日・今日・明日なのだと思う。

 福山雅治との共同作業が、これからの彼の中でどんな風に残っていくのだろう。

「『Fly』の中では『ながれ』が、人生で一番難航した曲でした。一人で家で書いてたんですけど、どうしても限界を感じてしまって、ピアノに八つ当たりしながら書いてました(笑)。福山さんには到底及ばないでしょうけど、歌詞の書くスタンスというか書き方はすごい自分にとっては刺激になって、今は一つ自分の方法が増えた感じはしてはいます。ともかく、日本であれほど成功されている例はないですし、素晴らしい方だなって思いますね。やっぱり成るべくして成った方なんだなっていうのは、一緒に作業していて思いました。僕はまだまだ足りないものだらけだと思うんですが、たくさんの壁にぶち当たりながら自分の引き出し、力に変えて行きたいなと思っています」

 夢を捨てたことも、捨てた夢に気づかされたこともある。人の言葉も自分の未来も信じられなくなった時もある。そして、自分が傷つけてしまった人がくれた言葉に流した涙もある。

 そんな23才が踏み出した新しい一歩。

 ステージでの彼の笑顔は、以前とは違うはずだ。

(取材・文=田家秀樹)



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阪本奨悟『鼻声/しょっぱい涙』初回限定盤

 

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阪本奨悟『鼻声/しょっぱい涙』通常盤

■リリース情報
デビューシングル (両A面シングル)
『鼻声 / しょっぱい涙』
発売:5月31日(水)
価格:初回限定盤(CD+DVD)¥1,800+税
通常盤(CD only)¥1,200+税
※通常盤の初回プレス盤にはTVアニメ『王室教師ハイネ』描き下ろしイラストワイドキャップステッカー付

<収録曲>
1. 鼻声
2. しょっぱい涙 <テレビ東京系アニメ『王室教師ハイネ』オープニングテーマ>
3. 鼻声 (instrumental)
4. しょっぱい涙 (instrumental)

<DVD収録内容>※初回限定盤のみ付属
鼻声 (Music Video)
しょっぱい涙 (Music Video)
阪本奨悟 ワンマンLIVE 2017『Predawn ~君の鼻声と僕のしょっぱい涙~』@原宿ASTRO HALL より3曲を収録
・Fly ・Treasure ・ながれ

<予約特典>
・A!SMART特典:B3ポスター(A!SMARTオリジナル) + 「全国阪本化計画」ステッカー
・店舗特典:B3オリジナルポスター
・ライブ会場特典:『鼻声/しょっぱい涙』アザージャケット ※数量限定

■ライブ情報
『~全国阪本化計画~@ここからがPredawn編』
5月30日(火)タワーレコード渋谷店19:30~
会場:タワーレコード渋谷店 B1F 「CUTUP STUDIO」
6月3日(土)新星堂イオンモール名古屋みなと店13:00~
会場:イオンモール名古屋みなと1F ワールドコート

『Amuse Fes in MAKUHARI 2017 – rediscover –』
6月4日(日)
開場 11:00 / 開演 13:00 / 終演 19:00 (予定)
会場:千葉県・幕張メッセ国際展示場9・10・11ホール
出演:高橋優、Perfume、flumpool、ポルノグラフィティ、WEAVER、阪本奨悟、さくら学院、Skoop On Somebody、藤原さくら、FLOW(発表順、五十音順)

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