小西康陽と日テレ次屋Pが語る、ドラマと劇伴の“理想的な関係”「ようやく匿名的なものが作れる」

小西康陽と日テレPが語り合う“理想的な劇伴”

 小西康陽が日本テレビのドラマ7作品のために書き下ろした劇伴音楽のベスト・アルバム、その名も『なぜ小西康陽のドラマBGMはテレビのバラエティ番組でよく使われるのか。』は、たとえドラマを一本も見たことがなかったとしても充分楽しめるキャッチーな音楽がたっぷり詰まっている。なぜ小西康陽はテレビドラマの劇伴を7作も書くに至ったのか。小西が劇伴を手掛けたドラマのすべてに関わった日本テレビのプロデューサー、次屋尚と小西康陽が、ドラマと音楽のクリエイティブな関係について語ってくれた。(村尾泰郎)

「僕は素材を渡しているだけに過ぎない、という快感」(小西)

20170222-konishi5.jpg
次屋尚

ーー次屋さんは、どういった経緯で小西さんにサウンドトラックを依頼されたのでしょうか。

次屋:たんに小西さんのファンだったんです。昔から小西さんの音楽を聴いて、本も読んで、僕にとっては神だったんです。いや、今でも神ですけど(笑)。それで『喰いタン』をやることになった時、断られるのを覚悟で小西さんに当たってみようと思ったんです。

ーーそこで初めて神と会った(笑)。

次屋:もう、浮かれてましたね(笑)。事務所に行くのも嬉しくて、「こういうところに小西さんがいるんだ!」って。事務所においてあるパンフレットみたいなものは全部もらって、レディメイド(小西の事務所)のマグカップを買ったりして。

小西:あれ、3回仕事をすると無料で差し上げるんですけどね(笑)。

ーー次屋さんから『喰いタン』の話をもらった時、小西さんはどう思われたんですか。

小西:うーん。ピチカート・ファイヴがデビューして間もない時、フジテレビで『抱きしめたい!』とか『学校へ行こう!』とか(テレビドラマのサントラを)やってたんですけど、それが結構辛くて……。

ーー辛いというと?

小西:まず、やり慣れてなかったし、どういうふうに使われるのかもわからなかったし。いちばん辛かったのは曲数が多いってことですね。『喰いタン』もそのへんが気になったんですけど、クラシックをアレンジしてミックスするということだったんで、それならやりたいなと。

ーークラシックをネタにするというのは次屋さんからの提案だったんですか。

次屋:僕がいろいろ喋ったなかに、そういう話もあったということです。当時そういう作品を小西さんが出されていたこともあって。

小西:そうでしたっけ。ずばり、「『Readymade Digs Classics』みたいな方向で行きたい」って言われた気がするんですけど。

次屋:いや、しょっぱなは「どう言えば引っかかってくれるんだろう」と思っていろんな話をして、2回目にお会いした時に「この方向で」ということだったと思います。

小西:最初の打ち合わせの時、中島さん(中島悟:『喰いタン』を手掛けた演出家)も一緒でした?

次屋:しょっぱなはいなかったと思います。たぶん、2回目からじゃないかと。

小西:そっか。中島さんという演出の方がいて、次屋さんとはまた別の意味で強烈な方で(笑)、圧倒されたんです。なんか、打ち合わせに来た人はみんな強烈な人だったな。みんなオシャレな人で、でもファッションのセンスがバラバラで、すごく面白かったんですよね。

20170222-konishi4.jpg
小西康陽

ーー『喰いタン』をやってみていかがでした?

小西:僕の家にはテレビがなくて、テレビとは無縁の仕事をしてるんですよ。それで、ある日、大阪にDJをしに行ったんですけど、イベントの直前にホテルの部屋でテレビをつけたら、偶然『喰いタン』をやってたんです。それで初めて観て、ビックリしましたね。

ーーどういうところに驚かれたんですか。

小西:自分で作った曲なのに、自分よりも巧くエディットしてあるんですよ(笑)。「ええっ!?」って感じで、ほんと驚いた。石井さん(石井和之)っていう人がいて、あの人は何ていう……。

次屋:サウンド・デザイナーです。

小西:サウンド・デザイナーか。石井さんに僕が作った音素材をすべて渡すんですよ。それを石井さんが編集して(映像に)くっつけるわけです。それをテレビで見て「ええっ!?」って驚くぐらい衝撃的だった。それからこの仕事が楽しくなっちゃった。石井さんや次屋さんに任せておけば、良い感じにやってくれるってわかったから。

ーーちゃんと素材を活かしてくれると。

小西:そう。正直に話をすると、僕はあんまり他の人に手助けしてもらってやるのが好きじゃなくて。でも、この仕事は、石井さんとか次屋さんとか中島さんがいるから成立しているんだなってことを理解したんです。僕は素材を渡しているだけに過ぎない。それがすごく快感だったんです。

ーーチームワークで成り立っているわけですね。

小西:石井さんっていうのはほんとに面白い人で。アイデアを出しているのが石井さんなのか、中島さんなのかはわからないですけど。

次屋:あれはですね、石井さんが仮で映像に音を貼り付けてきたものを、僕と中島さんで一回観るんですよ。で、3人でああだこうだ言うんです。「あそこはあのセリフ終わりで切った方がいい」とか、「あそこはもうちょっとレベル上げたほうがいい」とか。石井さんがすごいのは、僕と中島さんが好きなことを言ってるのを、その場でピャピャッて(音を編集して)「こうですか?」ってやってみせてくれるんですよね。「バスドラだけ抜いてみますね」とかって。そうやって作り上げていくんです。

小西:だから、僕が作った曲のはずなのに、全然知らないバージョンがたくさん鳴ってるんですよ。それが面白くて。

次屋:石井があまりにも(小西さんの音源を)バラバラにするんで、こっちは「怒られるんじゃないの」ってヒヤヒヤしてるんですけど、石井は肝が据わってるから「大丈夫です! 僕が小西さんに言いますから」って。それで1曲から50曲くらいのヴァージョンを作ってしまうんです。

ーーなるほど、映像にあわせて音をリミックスしていくわけですね。面白い。サウンドの方向性については、次屋さんのほうから小西さんに提案されるんですか。

小西:仲良くなってからは、次屋さんチームは大体ノーアイデアで来ますね(笑)。

次屋:まず、音楽のアイデアについて話す以前に、「今度こういうのをやるんですけど、話を聞いてもらえませんか」って連絡するんです。

20170222-konishi6.jpg

 

ーーそこでドラマの内容を説明するんですか。

次屋:番組の企画意図とかテーマを話すというよりは、この番組で僕がどういうことをやりたいのか。どんな場面があって、どんな女の子が出てきて……みたいなことを、一方的にバーッと話すんですよ、一時間くらい。小西さんは何も質問せずに、その話をずっと聞いていて、最後の最後に「考えてみます」って(笑)。で、後日、電話を頂いてお会いした時に、小西さんが「僕にはこんな音楽が聴こえてきます」みたいなことを話してくださるんです。

小西:いま思い出したけど、『東京全力少女』の時は大変だった。

ーーどういうところが大変だったんですか。

小西:結構、早い時期に打ち合わせをしたんですよ。その時は『東京は涙を許さない』っていう仮タイトルだったんですけど、(ヒロインの)武井(咲)さんの話ばっかりしてるんですよ(笑)。「こういうシーンが見えるんです!」とかね。「シリアスな話なんですけど、内容はこれからなんです」って言ってたんですけど、次に会った時に「タイトルが『東京全力少女』になって、ジャンルもコメディになりました」って言われて(笑)。

ーーシリアスからコメディに! 曲の方向性も大きく変わりますね。

次屋:田舎から出て来た女の子が東京で一所懸命いろんなことにがんばる、という設定は同じなんですけどね(笑)。

小西:(番組の)タイトルがインパクトのあるものだったんで、これはタイトルを頼りに作っていった感じです。

ーー確かにヌケが良いポップな曲が並んでますね。

次屋:オールナイトニッポンのテーマみたいな曲がありましたよね。

小西:ありましたね、「Bitter Sweet Samba」みたいな曲。

次屋:武井が深夜バスに乗って田舎から東京へ出て来る時、窓の外を見ながらヘッドフォンをして聴いている音楽とか、そういうイメージを小西さんに言った覚えがあります。

小西:とにかく、主役の武井さんのことばっかり言ってたよね。挙げ句の果てに「一緒にエレベーターに乗っちゃって」という個人的な話を(笑)。

ーーあはは。『東京全力少女』の劇伴は、女優・武井咲のイメージ・アルバムみたいなものですね。

小西:いや、ほんとそうですよ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる