市川哲史 × 藤谷千明 対談:『VISUAL JAPAN SUMMIT』がシーンで果たした役割とは 

 X JAPAN、LUNA SEA、GLAYを中心として、10月14・15・16日に幕張メッセで開催された『VISUAL JAPAN SUMMIT 2016』。近著に『逆襲の〈ヴィジュアル系〉-ヤンキーからオタクに受け継がれたもの-』がある音楽評論家の市川哲史氏は、往年から若手まで“ヴィジュアル系”と言われるロックバンドたちが一堂に会した同フェスをどう捉えたのか。ライターの藤谷千明氏が聞き手となり、市川氏とともに振り返った。(編集部)

「V系らしい」より「Xらしい」イベント

ーー去る10月14・15・16日に幕張メッセで開催された『VISUAL JAPAN SUMMIT 2016』、市川さんは15・16日をご覧になられたとのことですが、ご感想は?

市川:逆に私が訊きたいよ。藤谷さんは三日間ベタで観てたでしょ? 私の次々世代(失笑)であるゼロ年代世代には、どう映ったのかという。

ーー質問に質問で返さないでくださいよ。率直に申し上げますと「終わってみたら楽しかった」です。

市川:あらそ。

ーータイムテーブルから大幅に遅れて終電に間に合わず最後まで観られなかったひとが出たり、VIPエリアが当初と内容が違ったりという課題は残りましたが。

市川:イベントの充実感は十二分にあった、と。

ーーそうですね。市川さんの率直な感想は?

市川:一言で言うと、しんどかったよぉ(苦笑)。だってイベントとしての完成度は、昨年のルナフェス(『LUNATIC FEST.』)のほうが圧倒的に高かったわけじゃん? 出演者のラインナップの動機づけも構成もちゃんと練られてたから、出演する意義も意味も明確で美しかった。言うまでもなくホスピタリティーもちゃんとしていた。でも今回のV系フェスはなんていうか……雑(←あっさり)。

ーー雑多な良さはあったと思うんですよ。V系というジャンルの中での無節操なところが「らしい」というか。

市川:ち・ち・ち。「V系らしい」っていうか「Xらしい」の。YOSHIKIが企画した催し物だもの、やっぱ雑じゃないとさぁ。どうよ、あの見切り発車感。私が推測するに、YOSHIKIの中ではゴールデンボンバーとHYDEの出演が決定した時点で、もうこのイベントは終了してたと思うよ。本番三日前には達成感があったというか、すでに“想い出”。そんな気が激しくするよ。わはは。

ーーひどい! しかしながら「V系」という名前が冠されたフェスに、X JAPAN、かまいたちからゴールデンボンバーまで集まったというのは、歴史的な事件なのでは。そこに横軸というべき清春や、LM.CにAngeloといったPIERROT組、サイコ・ル・シェイム、ゼロ年代シーンの中核を担っていたであろうシドもMUCCもいて、2010年代のV系シーン最前線みたいなR指定も己龍もいるし。網羅性はあると思うんですよ。

市川:いやいや、そりゃ最低線でしょ今回の。そうじゃなきゃ駄目だよね。っていうか私の中でも実はYOSHIKI同様、ブッキング終わって最終決定したメンツを眺めた時点で「めでたしめでたし」と終わってたんだけども(←遠い目)。

ーーひどい! ただ終わってみて思うのはーールナフェスは“LUNA SEAというバンド”のフェスだけど、今回は“V系そのもの”のフェスじゃないですか。そしてそれと同時に“YOSHIKIのフェス”でありーー。

市川:だって誰がどう見たって“YOSHIKIちゃん祭り”だもーん。

ーー(無視)だから“V系=良くも悪くも属人性が高すぎるジャンル”という事実が浮かび上がってしまった。

市川:というか私、この『VISUAL JAPAN SUMMIT』というこのネーミングが嫌。

ーーなぜ。例によって「ヴィジュアル系とは差別用語」みたいな話ですか?

市川:「とうとう自分たちで名乗っちゃうか?」みたいな。ゼロ年代以降の若いV系バンドたちは本望かもしれないけど、オールドスクールのバンドには“V系視”が嫌な人もいるじゃん。実際問題として、このネーミングにしたばっかりにラルクの出演は実現しなかったわけだし。そういう意味では今回のフェスは、「出演しなかった奴こそ主役」だったんだな実は。自らの意志で出演を拒んだ奴の勇気と正義、みたいな(苦笑)。だってBUCK-TICKにせよDEAD ENDにせよISSAYにせよ、「ルナフェス出演したけど今回は拒否」組はV系バンドじゃないもんねぇ。だから他の三人がYOSHIKIちゃん祭りの壇上に上がっても、一人だけ出演しなかったTETSUYAの頑なさは、死ぬほど面倒くさいけど立派だと思うね。でも初めて感心したよ、あの男に。

ーーいないことで存在感があったと。

市川:さすがV系、歪んだポップ・カルチャーです。だから意外性には欠けた想像通りのフェスではあったけど、初期のそれっぽい楽曲群を引っ張り出して「一所懸命V系バンドであろうとした」GLAYの姿は、まるでコスプレみたいで清々しかったし。もうすっかり見飽きちゃった感がある再結成後のXやLUNA SEAだけども、恒常的に“絵に描いたような自分たち”を魅せつけられるスキルはさすがです。

――他に言い方はないんですか。

市川:ほっとけほっとけ。一方若手ちゃんたちは「出られて嬉しいーっ♡」的な大はしゃぎだった、と捉えてよかったのかしら。

ーー終わった後に中堅〜若手バンドの取材の合間に訊いてみたんですよ。「どうでしたか」って。おおむね「いい経験だった」「嬉しかった」という感触でした。ステージ上で態度に出す出さないは別として。規模の大きな「ヴィジュアル系」のフェスは09年と11年に開催された『V-ROCK Fes』以降なかったと思うので。

市川:若手も含めて本当いろんなバンドを観たんだけども、語弊を承知で言わせてもらえれば、もう皆全バンドひっくるめて“ザ・V系”って印象だったなぁ。だからこそフェスが成立したんだろうけど。なんか各バンドの記名性よりも「我々はV系です!」的な、カテゴリーの一大デモンストレーションを見せつけられた感じ。101匹ワンちゃん大行進みたいなさ。振り返ればこれまでV系という括りはあれこれ重宝されてきたけれど、当事者たちがジャンル単位でて主張したことってほとんどないわけじゃん。

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