ミュージシャンは「土地名」をどのように叫べばよいのか 兵庫慎司があれこれ考える

ミュージシャンが叫ぶ「土地名」が持つ意味

 「ひたちなかー!」って、どうなんだろう?

 と、何か腑に落ちなかった。2015年8月2日日曜日、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015』の2日目、PARK STAGEでのフラワーカンパニーズのライブ時に、ボーカルの鈴木圭介が曲の間奏部分などで、何度もそう連呼していたのをきいてのことだ。

 なので、もう1年近く前のことだが、改めて考えてみたい。

 ツアーにおいて、ステージ上からボーカリストが、あるいは他のメンバーが、演奏中にその土地の名前を叫ぶ、というのはあたりまえの光景だ。なんの違和感もない、E.L.L.のステージで「名古屋ー!」と叫んでも、セカンドクラッチのステージで「広島ー!」と叫んでも。なぜ違和感がないのか。「名古屋のみなさん、あなたたちの地元に来ましたよ!」という意味合いのあいさつだからだ。

 しかし、ROCK IN JAPAN FESTIVALに集まっている参加者は、基本的に「ひたちなかのみなさん」ではない。もちろん地元民もいるが、それ以外の場所からひたちなかまで来ている人の方が多いだろう、どう考えても。

 同じように、フジロックのステージで「苗場ー!」はヘンだ。これ、「お客がその土地の人じゃない」という理由のほかに、「そのイベントであること」が「その土地であること」よりも先に思い浮かぶから、というのもある。苗場であることよりもフジロックであることの印象のほうが強い、という話だ。

 同じく「その土地であること」よりも「その会場であること」が重要な場合もある。「ブドーカン!」とは叫んでも「九段下ー!」というのはあんまりきいたことがないし、「ドームー!」とかシャウトすることはあっても「水道橋ー!」とか「後楽園ー!」はないだろう。

 つまり、そのフラカンのケースだと、呼びかけるべき相手は「ROCK IN JAPAN FESTIVALの参加者のみなさん」であるわけで、それは長いので、「ジャパーン!」とか叫ぶのが最適だったのではないか、ということになるわけです。

 と、ここまで書いて、ふと気になった。「待てよ」と。

 「苗場ー!」と「ひたちなかー!」は同じだ、とさっき書いたが、そうではないのかもしれない。

 なぜか。ひたちなかというのは、ROCK IN JAPAN FESTIVALが始まるまで、他の地域の多くの人にとっては、なじみの薄い地名だったからだ。スキー場とプリンスホテルとユーミンで既に広く認知されていた苗場とは、事情が異なるわけだ。

 茨城県ひたちなか市。1994年に、茨城県勝田市と那珂湊市が合併して生まれた市。「勝田」というJRの駅はあっても「ひたちなか」駅はないのはそのため。茨城で四番目に大きい市。人口は15万人と16万人の間くらい。遠藤賢司は勝田市、つまり今のひたちなか市の出身。市長は長いこと本間源基さん。と、スラスラ情報が出てくるのも、ROCK IN JAPAN FESTIVALがひたちなか市の国営ひたち海浜公園で始まってからのことだ。それまでは僕も知らなかった。実際に、ROCK IN JAPAN FESTIVALが始まってからひたちなか市の知名度が段違いに広がった、ありがたいことです、という地元の方の声をきいたことがある。

 つまり、「日比谷ー!」ときいて日比谷公会堂を想起する人がいないように、「日比谷ー!」といえば日比谷野外大音楽堂であるように、「ひたちなかー!」といえばROCK IN JAPAN FESTIVALだ、ということなのかもしれない。

 そういえば平井堅がROCK IN JAPAN FESTIVALに出演した時も、「ひたちなかBOYS&GIRLS!」と呼びかけていた。ライブの時、必ずその土地に「BOYS&GIRLS!」をつけて呼びかける人なので、いつもどおりそうしたのだろうが、そこで「茨城BOYS&GIRLS!」とは言わなかったわけで、そう考えるとやはり「ひたちなかー!」は「日比谷ー!」と同じような浸透のしかたをしているのかもしれない。

 ちなみに、今年5月3日・5日に幕張海浜公園で行われた(4日は強風のため中止になった)JAPAN JAM BEACH 2016、僕は公式サイトのクイックレポートのライターのひとりとして参加させていただいたのだが(こちらです)、何人かのミュージシャンは、ステージから「幕張ぃー!」と叫んでいた。違和感ありませんでした、特に。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる