『武藤彩未X'mas Special LIVE「A.Y.M.X.」』ライブレポート
武藤彩未を「忘れない」ーー宗像明将が活動休止前ライブを渾身レポート
武藤彩未の活動休止が突然発表されたのは、2015年12月16日のことだった。その1週間後である12月23日に赤坂BLITZで開催された『武藤彩未X'mas Special LIVE「A.Y.M.X.」』は、クリスマス・ライブだったはずが、活動休止前のラスト・ライブへと大きく意味合いが変わってしまった。あまりにも急な展開だ。
当日会場に入ると、開演の20分ほど前から、ラジオ形式によるトークと音楽が流された。「武藤彩未のプレイリスト」というテーマで流されたのは、Meghan Trainorの「All About That Bass」、本田美奈子の「Oneway Generation」、Michael Jacksonの「Beat It」、スピカの夜の「SPICA」、The 1975の「Chocolate」、wacciの「大丈夫」、松田聖子の「ハートのイアリング」といった楽曲たち。
そして、最後に流されたのが可憐Girl'sの「Over The Future」だった。2008年のこの楽曲が、武藤彩未にとっての初めての音楽活動として紹介されたのだ。可憐Girl'sのメンバーだったのは、武藤彩未、現在BABYMETALの「SU-METAL」として活動する中元すず香、島ゆいか。先に流されたスピカの夜は、その島ゆいかと飯田來麗によるユニットだった。武藤彩未、中元すず香、飯田來麗は、2010年以降アミューズの「『成長期限定!!』ユニット」であるさくら学院に在籍していた仲間だ。このラジオパートで、その日が誕生日であった元さくら学院の佐藤日向の誕生日も祝われていたことも特筆したい。
開演までの20分ほどの時間は、武藤彩未の愛聴する音楽を流すだけではなく、クロニクル色の強い時間でもあった。そして、今夜は武藤彩未の音楽活動の集大成にしたいという主旨の発言とともに開演を迎えた。ライブへの並々ならぬ意気込みを感じさせながら。
この日のライブは、映像収録がなかったという。まさに一期一会である。バンドメンバーは、キーボードにnishi-ken、ベースに野田耕平、ギターに山本陽介、ドラムに髭白健。クリスマスということで、ステージ上には大量の星型のオブジェが吊るされており、多数のライトに照らされてきらめいていた。
サンタ帽と赤白のコントラストが華やかな衣装で武藤彩未が登場すると、「ミラクリエイション」「Doki Doki」「Daydreamin'」「SEVENTEEN」がロック色の強いハードな演奏とともに歌われた。
ただ、私はこの冒頭のパートで早くも不思議な光景を見ている感覚に陥っていた。少し過剰なほど激しいと感じる演奏、熱狂的なフロアの反応に対して、武藤彩未は覚悟を決めたかのように、ヴォーカルが落ち着き安定していたのだ。ほころびがなく、どの瞬間でも彼女はヴォーカリストとしての正解を出し続けているかのように見えた。極めて冷静に。
その調子で「宙」「未来へのSign」「時間というWonderland」「女神のサジェスチョン」へと続いたライブが少し色合いを変えたのは、松田聖子の1987年のシングル「Pearl-White Eve」のカヴァーからだ。アコースティック・ギターに導かれ、メロディーを歌いあげる武藤彩未のヴォーカルのしなやかさが光り、見事なカヴァーだった。続く「桜ロマンス」は、楽曲の持つ憂いに対して演奏が激しすぎると感じたが、その音圧に負けることなく、細部にまで情感のコントロールを効かせたヴォーカルを武藤彩未は聴かせた。
nishi-kenのキーボードのみを伴奏に歌いはじめた「とうめいしょうじょ」や、ギターがアコーステックに持ち替えられた「風のしっぽ」こそが、この日のライブでもっとも武藤彩未がヴォーカリストとしての真価を発揮したパートだった。彼女はすでにアイドルのフォーマットだけには入りきらないアーティストだとも感じたし、それゆえにアイドルとしての立ち位置に苦しむこともあったのかもしれない。ときどき見せる負けん気が完璧主義を感じさせる武藤彩未だからこそ、活動休止を経てシンプルに「歌手」になってほしい。そんなことを考えていると、また激しい演奏に戻った「RUN RUN RUN」「A.Y.M」「交信曲第1番変ロ長調」「パラレルワールド」「HAPPY CHANCE」の後に、武藤彩未自身の言葉による回答が待っていた。
「私は前向きです、これからもっといい歌を届けるための時間です」と断言した後、Twitterでうまく自分の意図が伝えられなかったと語りつつ、「私アイドルやめるわけじゃないんですよ! アイドルだから『うまい』みたいに言われるけど、アーティストとしても通用するアイドルになりたいんです。これ拡散してください」とまで語った。そして「歌手になりたい」とも明確に述べたのだ。「やるからには本物を目指したいと思います、本物じゃなきゃ辞めるぐらいの覚悟です」と。
武藤彩未が「ライブハウスはいいよね、声が聞こえるから」と言っていた通り、ファンからの「ロックのアーティストになるの?」という主旨の質問にも彼女は回答した。「別にロックを極めるためではなく、アイドルを極めるために、ロックをやったりアコースティックをやったりしたんです」と。それは、わかりやすい「ロック」に武藤彩未が収斂されてしまうことを懸念する私に、いくばくかの安堵をもたらす言葉だった。
本編ラストの楽曲となった「永遠と瞬間」の歌謡曲的な曲調こそ武藤彩未に歌いこなしてほしいものだし、この楽曲での彼女のヴォーカルには強い自我の目覚めすら感じさせるものがあった。