小林武史が語る、My Little Loverの音楽が普遍性を持つ理由「akkoは稀有な魅力とバランスの上にいるシンガー」

小林武史が語る、マイラバが色褪せない理由

 My Little Loverが11月25日、小林武史トータルプロデュースによる新録アルバム『re:evergreen』と、デビューアルバム『evergreen』をリプロデュースした『evergreen⁺』を共に収めた2枚組アルバム『re:evergreen』をリリースする。今回リアルサウンドでは、本作のプロデュースを手掛けた小林武史氏にロングインタビューを行った。多数のプロデュースワークを手掛けてきた小林氏にとって、今なお『evergreen』は特別なアルバムであり、その20周年にあたって“究極のポップアルバム”を新たに作りたいと考えたという。My Little Loverの音楽的特性とそこで表現されてきた“日常感”、さらには小林氏自身のポップミュージック観について、じっくりと話を聞いた。

「“日常感”をつくる上で、akkoとの出会いはすごく大きかった」

ーーMy Little Loverの20周年記念作品となる『re:evergreen』がリリースされます。とてもポップで軽やかな作品ですが、楽曲を生み出すにあたって、20年前の『evergreen』をどう意識しましたか。

小林武史(以下、小林):僕らの世代、あるいはマイラバを聴いてきた世代にとってのポップミュージックとは何だろう、ということに対しての自分なりの答え探しという感覚がありましたね。久々に生の楽器でセッションをして作った、という部分も大きかったかな。

ーー本作が、そうした問いに対する回答になっているという位置づけですね。My Little Loverは、小林さんが多くの音楽的アプローチを展開するなかで、もっとも“ポップソングをつくる”ということに特化したプロジェクトであったと思います。1stアルバム『evergreen』のリリースから20年が経ちましたが、あの作品はご自身のキャリアにとってどんな存在だと捉えていますか。

小林:音楽プロデューサーには、中長期的な計画を立てて、かなり綿密に計算した上で作品をつくっている人もいると思うんだけど、僕はわりと感覚的、衝動的に音楽をつくっている人間で。それまで、桑田(佳祐)さんやミスチルに出会ったり、よりプログレッシブな作品にも取り組んできたなかで、当時、akkoと藤井謙二君に出会って、ポップミュージックに一気に向かったんですよね。僕にとってのポップミュージックというのは、自分が生きている日常というものの延長線上にあるもので。

ーー『evergreen』は、日常と地続きで音楽に向き合うなかで生まれた作品であると。

小林:当時は、例えば“Jポップ”という言葉も普及していなかったですよね。ロックとかポップとか、邦楽、洋楽という仕切りに関しても、自分の中ではカテゴライズは曖昧だったと思う。そのなかで、“日常感”というのかな、それをつくる上でakkoとの出会いはすごく大きかったんです。

ーー日常性を表現する上で、例えば60年代、70年代のポップスがひとつの要素になっているのでしょうか。『evergreen』はリリース当時においても、どこか懐かしい響きがあり、今作も同様ですが生楽器の響きがマイラバの持ち味でもあったのかな、という気がします。

小林:そうですね。僕が子どもの頃、シングル盤みたいなものをレコードで何度も何度も聴いて、ひとつの曲が習慣、あるいは中毒のようになる、という感覚があった。今みたいにどこでも便利に音楽が聴けるという時代ではなかったけれど、一つの曲が心に染みつき、ポケットに入ったままになるような。そういうものを作りたい、という思いがありましたね。

ーーそれ以前のプロジェクトとは、また意味合いが異なる部分があったんですね。

小林:My Little Loverは、いわゆるライブ、肉体感があって、そういうところからプロジェクトとして着々と進めていける……というものとはちょっと違っていて。その分、アルバムや作品に込めたものがどうしても強いプロジェクトでしたね。そして、その時に込めたものというのは、20年後のいま聴いても、タイムカプセルのように閉じ込められたものがあるような気がするんです。多分、10年ではこういう感慨はなかったでしょうし、20年経って初めて、そこと対峙するような構想になっています。

ーー今回は『evergreen⁺』として『evergreen』のリプロデュース盤がパッケージされています。20年ぶりに本作と対峙してみてどうでしたか?

小林:もう一度“生の息吹”のようなものを入れようと考えるに至ったのは、当時はかなり生っぽいグルーヴをつくっていたと思っていたものの――それはそれでいい部分もあるんだけれど、相当なスピード感で制作していたこともあって、今ならもっとできることがあると感じたからです。それによって、20年前の作品と現在やっていることのセッションみたいなことが起こって。『re:evergreen』という新しいアルバムとの循環のようなものを感じながらつくっていました。

ーー『evergreen⁺』が、ある意味『re:evergreen』へと向かう、つなぎ目のようなものになるのでしょうか。オリジナルと聴き比べて、特にリズムパートは生の奥行きのあるものになっているという印象でした。

小林:そうですね。あとは鍵盤の音も加えています。akkoはいくつか歌い直したいという話もしていたのですが、それをやるとセルフカバーになってしまうし、新しいアルバムとしての『re:evergreen』と向き合うためにも、そこは変えないでやろうと。

ーー20年前の作品ですが、小林さん自身の今の感覚にフィットする部分も、もちろんあったということですよね。

小林:少なくとも、どの曲も“古くなってしまった”という感覚はないですね。レコーディングのアレンジにはその時のちょっとした“旬”みたいなものがあって、そういうところだけ、僕が今考える普遍的なやり方でプロデュースし直した、という感じです。

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