小林武史が語る、My Little Loverの音楽が普遍性を持つ理由「akkoは稀有な魅力とバランスの上にいるシンガー」

小林武史が語る、マイラバが色褪せない理由
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「My Little Loverとして共鳴、共振を起こしたい」

ーーなるほど、そのお話は小林さんの音楽に通じるものがありそうですね。たとえばYEN TOWN BANDが顕著ですが、楽器同士、プレイヤー同士が生み出す相互作用、生々しい音のやり取りというものが浮き上がっている部分があると思います。バンドサウンド、楽器が生み出す音というものに対して、今は小林さん自身の関心が深まっている時期と捉えていいでしょうか。

小林:そうですね。96年にリリースしたYEN TOWN BANDの『MONTAGE』というアルバムは、制作に際して初期衝動というものをものすごく取り入れようとしてやっていて、60年代、70年代のレコーディングのやり方を真似たというか、そのときに一番良かったものに入り込んで作ったアルバムでした。その延長線上でやろう、という感覚はありますね。もちろん、いろいろと不便ではあるので、あまりマニアックにはならないんですけど、そういうことの大切さを感じていて。単純に、エレキギターだったら鉄の弦が6本張られているのをかき鳴らす、というのが僕にとっての初期衝動的な醍醐味だし、ベースも一気に低域から共鳴させる響きが醍醐味なんですよね。そういうものを取り入れて音楽をつくる、というのがものすごく楽しい。

 今回、参加してくれた山口(寛雄)くんというベーシストが、古今東西なかなかいないんじゃないかと思うくらい、音数が多いというか、歌うベースなんです。ファンクやロックだったらそれなりに歌うんですけど、すごく極端なベーシストで、それをポップ・ミュージック、日常のなかに入れるのは難しくもあり、面白かったですね。結局はバランスを考えてエディットした部分もありますが、このアルバムには、そういうちょっといびつな要素が入っているかもしれない。

ーー編集段階でも、小林さんがあえて残した尖った部分もあると。

小林:そうですね。でも、やっぱり日常の中にも、そういうちょっと変なモノはあるんだよね。変なオッサンが町にいる……というのは、少し違うけれども(笑)。

ーー確かに、世の中にはいろんな人がいるし、それを完全にならしてキレイにしてしまうと、現実とは違うものになりそうです。

小林:そう、日常ってそんなにキレイなものではないですから。変な人、やっぱりいてほしいよね、という(笑)。

ーーakkoさんの声が持っている、良い意味での揺らぎも、確実に今作の魅力になっていますね。

小林:そういう意味でも、akkoは肉体的なパワーがあって、そこのけそこのけでやっていくような万能型のアーティストではないけれど、稀有な魅力とバランスの上にいるシンガーだと思います。My Little Loverには、リアルタイムの世代じゃなく、若い世代の中にもすごくハマってくれる人がいて、僕が日常の延長のポップミュージックをつくるときに、やっぱりakkoというシンガーが相応しいと思う。そして、今作は自分のなかで、そのことを確認するためのアルバムでもありました。ある時期は曲数もそれなりにつくったけれど、途中からは量産できるような感じではなくて。20年の月日が経って、今回は自分でもどうしてもつくりたいものだったんだな、と途中で気付きました。

ーーなるほど。

小林:とても個人的なことで、ある種の“節”みたいなものを確認したい、という小さな作業もあったけれど、それが目的ではなくて、単純にMy Little Loverとして共鳴、共振を起こしたかったんだろうと思います。僕の中では新しい発見もあったし、akkoもどこかでそういうことを少しでも感じてくれてるとうれしい。すぐにではないかもしれないけれど、どこかでまた、こうやって一つひとつつくっていくことが僕の役目でもあると思いますね。もちろん、akkoが考えていくことが中心でいいんですけど。

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ーーさて、このところ小林さんの音楽活動が活発化していて、創作のペースという点でもかなり熱い時期に入っていると思います。大量に作曲もされているし、プロデュースもされていますが、今ご自身の音楽に対するモチベーションはどんなところにあるのでしょうか。

小林:自分のアイデアで動き出すのも、誰かのリクエストに応えるのも、基本的に自分を“触媒”のようなものとして、何かを映し出したり、繋いだり、響かせたり、ということをとにかくやっていこうというだけですね。それは音楽のために……というと大きく捉えられてしまうかもしれないけれど、それくらいの思いはあります。音楽をつくることを通じて、小さな出会いとか、つながりを確かなものとして感じたり、愛おしいものとして感じたりすることの連鎖でこの世界を捉えたい、というか。世界を貫くイデオロギーとか、大きなパワーとか、そういうものにあまり頼らないほうがいいと思うところもあるんです。もちろん、科学や宗教を始め、世の中を貫こうとするようなこと、そもそものベースにあるようなことを学んだりするのは好きなんですけど、僕は音楽人ですから。そこは全然迷いがないですね。ただ、すごく忙しい(笑)。

ーーソロのアーティストだったら……と仮定したら、年に何枚ものアルバムを出しているくらいのお仕事の量です(笑)。

小林:ただ、これがソロだったら、自分の生き方もいちいち問われなくちゃいけないから、なかなかこうはできないんだと思うんですけどね。僕の作品だと捉えてくださるなら、そこはご自由に、という感じです(笑)。

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(取材=神谷弘一/構成=橋川良寛/撮影=神藤 剛)

■リリース情報
『re:evergreen』
発売:2015年11月25日
価格:¥3200+税 2枚組CD
<収録曲>
[re:evergreen] Disc.1
1.winter song が聴こえる
2.pastel
3.星空の軌道
4.今日が雨降りでも
5.バランス
6.夏からの手紙
7.舞台芝居
8.送る想い
9.ターミナル
10.re:evergreen

[evergreen⁺] Disc.2
1.Magic Time
2.Free
3.白いカイト
4.めぐり逢う世界
5.Hello, Again ~昔からある場所~
6.My Painting
7.暮れゆく街で
8.Delicacy
9.Man & Woman
10.evergreen

■関連リンク
20th Anniversary album「re:evergreen」special site
http://www.mylittlelover.jp/20th_anniversary/

My Little Loverホームページ
https://mylittlelover.net/

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