Base Ball Bear小出祐介×agehasprings玉井健二対談“師弟”が再びタッグを組んだ理由は?

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「バンドっぽいことはできるけれど、これをポップな方に引き延ばしてくれる人が今は必要なんだって思った」(小出)

――新作の「それって、for 誰?」 part.1は久しぶりに玉井さんのプロデュースになっています。これはどういう理由だったんでしょうか。

小出:去年の秋に『二十九歳』というアルバムを出して、その後に「次は何やろうか?」というのを探るために、スタジオに集まったんですね。僕はその時点で、なるべく早く出したいって思ってたんですよ。前作が3年も間隔をあけたアルバムだったんで、次の年には出そうと思った。『二十九歳』で自分達が持ってるものはわかったし、プレイヤーとしての幅も圧倒的に広がったと思ったんですね。で、これをさらに引き延ばしてくれる人がいた方がいいと思って、最初からプロデューサーを入れようと思っていたんです。でも最初は別の人をイメージしていたんですよ。

――それは何故?

小出:最初、自分たちはポップなことはできるから、その代わり、バンド感やオルタナティブな部分をより引き延ばしてくれるプロデューサーの方と一緒にやろうと思ったんですよ。でも、スタジオに入って、2、3回セッションをやったら「ちょっと待て、逆だった!」と。むしろバンドっぽいことはできるけれど、これをポップな方に引き延ばしてくれる人が今は必要なんだって思った。真逆だったんですよね。そういうことをちゃんと理解してくれて、やってくれるのは、やっぱり玉井さんだった。「もう一回やりましょうよ」ってお声がけさせてもらった感じです。

――最初の時点で、次のBase Ball Bearはどういう方向に進むべきかという話し合いもありました?

小出:しましたよね。

玉井:広尾でお茶をしたね。

小出:その時点で考えていたのが、自分たちにとってポップな面が必要だというのがまず一つ。それと両立したかったのが、僕らがロックバンドであるということなんです。生々しさを持ったバンドである、ということ。つまり僕らは同期も打ち込みも入れないことを唯一のルールとしてやってきている。ギターとベースとドラムでどこまでポップなものをやれるかという発想なんです。で、現時点で「バンドらしさ」みたいなことは十分持ってる。あとはこれをどれだけポップにできるかというところで、玉井さんにアドバイスをもらいたいという。

――玉井さんとしては、Base Ball Bearの現状と小出さんの目指す方向性を受けて、どういうポイントがよりポップになるためのキーになると思いましたか?

玉井:今の時代のいろんなバンドがいる中でBase Ball Bearを改めて見ると、本人はどう思ってるか分からないけれど、十二分にキャラが立ったバンドだと思うんです。かつ、能力を備えている。決定的に大きかったのは、10年を経てパフォーマンス力が非常に高いバンドになっていたということ。だから「芸をひけらかそう」という言い方をしましたね。いろんな設定を考えて、人がやっていない台本を眉間にしわよせて書くことも大事なんだけど、そんなことよりも一流の芸人としてまず芸をひけらかそう、と。小出祐介という人が持っているもの、今まで培ってきたもの、それ自体にものすごく価値があると客観的に思ったので、まずそれをちゃんと見せようという。

小出:で、最初5、6曲をバンドで作って、玉井さんにそれを聴いてもらって。その時の曲の中に、もうこの「それって、for 誰?」 part.1はありましたね。

――この曲はどんな風にできていったんですか?

玉井:最初、キャッチコピーみたいな言葉をいっぱいもらったんですよ。

小出:これは岡村靖幸さんと「愛はおしゃれじゃない」を作った時の手法と同じで。あの時もたくさんのキャッチコピーを作って岡村さんに「どれがいいですか?」って選んでもらったんですけれど、それと同じようにたくさんの言葉を書いて玉井さんに聞いたら「それって、for 誰?」ってやばいね!って。

玉井:この言葉はこの数年聞いた中で一番のコピーだ、と。「間違いない、この時点で勝った」という話をして。僕からすると、小出祐介、Base Ball Bearが言う「それって、for 誰?」がいいと思ったんですよね。その時点で素晴らしかった。とはいえ、えぐるからにはちゃんと練られたものがあったほうがいい。

――この曲は、相当、批評性の高い歌詞ですよね。

小出:最初のデモ段階の「それって、for 誰?」 part.1は、本当にただの悪口だったんですよ。最初は単なるSNSに対しての愚痴みたいなもんだったんですよ。なんで炎上するようなことを言うのか、なんで炎上させるのか、とか。でも、「それって、for 誰?」っていうワードを玉井さんが面白いって言ってくれたのがきっかけで、そのことに対しての自分のムカつきをちゃんと分析していったんです。そこから「じゃあなんで俺はこれを言いたいんだろう」ということを考えていった。SNSもそうだし、自分が音楽をやってることもそうだし、そもそも表現って「for 誰?」なんだろうって思ったんです。「そもそもなんで僕らは表現するのだろう?」っていう。

――<体操着みたいなEvery one><ドッチータッチーな状況>とか、なかなかポップスの歌詞には使われない言葉を使っていますよね。

小出:そこが最初のAメロで、そこからBメロ、サビ、1番、2番とトスを上げていって、最後にちゃんとスパイクを決めるような歌詞にしようと思ったんですよ。そのためのフレーズが必要で、そこに悩んでいて。でも最後のサビ前の<垢がうんとついてる僕たちのうっせぇ!しかない日々こそ>という一行が書けたことが決め手になった。ここはダブルミーニングになってるんですけれど。

――どういうダブルミーニングなんですか?

小出:その前で、手の平の上のSNS上の世界と、今目の前にある現実と、どっちが本当の世界なんだと思います?っていうことを歌ってるわけなんですよ。この過渡期の中で感じている違和感を歌にしたいという曲なんで。で<垢がうんとついてる>っていうのは、手垢にまみれた僕らの泥臭い毎日というのと、アカウントがついてるSNS上の世界という、その両方があるという。そういうダブルミーニングになっているんですね。

――なるほど。相当に構造フェチだ(笑)。

小出:サビの最後では<こういうこと言っちゃってるこの曲こそfor誰?>って言ってますしね。完全にメタ視線なんですけれど。

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