アイドルとファンが抱える“心の闇”の正体とはーー地下アイドル・姫乃たまが考える

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 先日、とあるアイドルグループのメンバーが、公演中にリストカットして事務所から即日解雇されました。普通っぽい女の子への人気が高まるアイドルブームの中で、本物の普通の女の子が持つ闇の部分に注目が集まっています。

「地下アイドルなのに、腕に傷がないんだね」と、笑われたことがあります。その場にいたカメラマンやミュージシャン達も共感するように笑い、しかし何人かは本当に驚いたような感心したような表情で、ロリータ服から伸びる私の腕を覗き込んでいました。

 それからしばらくは、地下アイドルの腕が目にとまるようになり、故意に引かれたらしい切り傷を見つけるたび、少しだけ息を呑みました。中でもロリータ服のように、布が多用された衣装で傷跡を隠す子は多く、あの日、自分が驚かれたり、感心されたりした理由を知ったのです。

 その頃の私は高校生で、同級生たちの口癖は「病む」でした。試験や、進路や、部活のことで「病み」、恋人と喧嘩になれば「あー、まじ病む」なのでした。

 彼氏の愚痴をこぼす同級生の首元には、「平気で女友達と映画を観に行く」男の子が付けたであろうキスマークが点々としていました。その赤黒い痣を、見るべきか見ないべきか考えていると、ふと、ある地下アイドルの子を思い出しました。その子は太ももに、スポットライトでも隠れないような、太くて長い傷を何本も持っていて、衣装のミニスカートがふわふわと揺れるたびに、見え隠れするのでした。同級生のキスマークも、地下アイドルの切り傷も、傷は傷なのだと思うと、妙な心持ちになったものです。

 それから数年が経ち、高校を卒業すると、例にもれず私も「病み」ました。精神科医に言い渡されたのは、聞いたことのない病名でした。常に稼動していないと不安になるため、必然と過労になり、それが原因で鬱状態になるのが私の場合です。休息をとることが不安で、睡眠が浅くなり、痛覚の伴う夢を見続けるため疲労が抜けず、外傷こそないものの、ひたすらに怠いのです。

 何事もそうであるように、地下アイドルとしての活動も、突き詰めようとすればキリがありません。身を削って打ち込むほど、他者からの評価がダイレクトに届き、その代わり、競合の多さと、忘れ去られてしまうスピードの速さには、そこはかとない恐怖感がありました。全日制の高校と比べると、進学先の大学は通学する時間もまばらで短く、昼夜問わず働くようになったのです。

 こうして徐々に状況を悪化させてしまったため、長いこと過労である自覚がなく、症状を理解するまでに、随分と時間がかかりました。そして原因を理解してもなお、強烈な虚脱感はふいに襲ってくるのでした。

 症状と自身を理解し、ある程度コントロールできるようになった頃には、大学生活も半分が過ぎていました。肩の力が抜け、やがて意識が外界にも向くようになると、故意な傷を持つ地下アイドルは減っているように感じました。あるいは、私の活動範囲や関心の対象が変化したせいかもしれません。

 それからも、傷こそないけれど、精神を病んでいると話す地下アイドルの子とは、出会う機会が多かったです。彼女たちが、精神を病む原因や、それによって生じる支障の程度は、人それぞれでした。しかし、ほとんどの原因には「認められたい」という欲求が、共通していたのです。

 どんな理由や経緯であれ、地下アイドルを自称/他称されている人が、歓声や賞賛を浴びることで「認められたい」と思うのは、当たり前のように思えます。現に、イベントの集客に悩むのも、運営が他のメンバーを優遇するのも、根本には「認められていない」という不安が見えます。本来なら、これらの不安を解消することで前進していくものですが、深化すると活動の障害にもなり得るのです。

 たとえば、端正な容姿の女の子。中でも、自分に自信があり、「認められる」ことへの期待値が高い人ほど、不安になりやすいようです。アイドルグループの運営も「可愛い子ほど、脱退しやすいから合格させるか迷う」と、オーディションの悩みを話します。現在のアイドルブームが、容姿や歌唱力よりも、キャラクターや人間性など、判断しづらい要素を評価する傾向にあることも影響しているでしょう。地下アイドルに関心のない人々が、「美人な子もいるのに、どうしてこの子の方が人気なの?」と疑問を口にするのも、このためです。しかし、これらの特徴が、誰がどのようにブレイクするかわからない面白さにもつながっており、同時に地下アイドルになったことで、「認められた」と話す女の子も生み出しています。

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