サザンオールスターズが見せた“無敵のエンタメ性”とは? 東京ドーム公演レポート

20150527-sazan.jpg

 

 サザンオールスターズの10年ぶりの全国ツアー『おいしい葡萄の旅』の東京ドーム公演が行われた。

 5月23、24、26日の3日間にわたって開催されたこの公演。観客動員数は各日5万人の計15万人である。筆者が訪れたのは中日の24日。そこで最も強く印象に残ったのは、デビューから37年のキャリアを重ねてきたバンドの、驚くべき「現役感」だった。

 17時に開演し、終演は20時半。まるまる3時間半、全36曲を披露するボリューム満点のライブである。しかも単に曲数が多いだけじゃない。まだツアーも途中なので演出の詳細な記述は避けるが、観る人を飽きさせない仕掛けがところどころに盛り込まれた、サービス精神たっぷりのステージが展開される。長くバンドを追ってきたファンはもちろん、最近彼らのことを知ったようなリスナーも充分楽しめるようなショーになっている。桑田佳祐自身もMCで「いろんな世代の方がいらっしゃってますが――」と言っていたが、実際、客席を見回しても20代から60代以上まで幅広い層が目に入る。60を間近にした年齢で約210分ほぼ休みなくパフォーマンスを繰り広げ最後まで伸びやかな歌声を響かせるというだけでも驚愕だが、それだけでなく、きちんと5万人のオーディエンス全員を満足させるショーマンシップを発揮する。改めて、桑田佳祐という人はホントに怪物だと実感する。

 そして、今回の公演のキーポイントは、3月にリリースされたニューアルバム『葡萄』からの楽曲がセットリストの中心を占めている、ということ。やはり詳細な曲順の記述は控えるが、『葡萄』の収録曲をたっぷり披露し、特に「アロエ」や「東京VICTORY」はライブのハイライトと言えるほどの一体感を会場に生み出していた。

 ニューアルバムのツアー「おいしい葡萄の旅」なんだから『葡萄』からの曲をたっぷりやるのは当たり前、と思う人もいるかもしれない。しかし、キャリアを重ねたアーティストであればあるほど、新作からのナンバーをセットリストの中心に据えるのは容易いことではない。ここ最近ドーム公演を行ったローリング・ストーンズやポール・マッカートニーのようなレジェンドであってもそうだ。ライブのハイライトになるのは「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」や「ヘイ・ジュード」のような往年の名曲。そこに新曲“も”披露するという形でセットリストが組まれることがほとんど。しかし、サザンオールスターズの今回のライブでは、すでに50万枚を超えるセールスを記録している『葡萄』からのナンバーがセットリストの中心に据えられている。客席のリアクションや盛り上がり方を見ても、新曲が求められているムードが実感としてビリビリと伝わってくる。桑田佳祐もMCで「デビュー37年」という数字を何度も出していたが、それだけのキャリアを持ったアーティストがこういう状況を生み出すことは本当に奇跡的と言っていい。繰り返しになるが、おそるべき現役感だ。

 ライブは、17時きっかりにスタート。「皆様本日はようこそお越しくださいました / 季節は巡り、希望の苗から『葡萄』へ、たわわに実ったその一粒一粒を共に味わう旅 / さあ出かけましょう」というメッセージがステージ後ろのビジョンに映し出され、大歓声と共にサザンオールスターズの5人とサポートの面々がステージに登場する。

 楽曲においての見せ場はたっぷりで、ムーディーな「ワイングラスに消えた恋」では、メインボーカルをとる原由子が『踊る昭和歌謡』の世界さながらに、ステージ中央でダンサーたちと歌い踊る。「アロエ」ではステージに多数のダンサーが登場し、手拍子や歓声で5万人が一つになる。派手な演出で盛り上がるだけじゃない。「はっぴいえんど」のセンチメンタルなメロディや「平和の鐘が鳴る」の切々とした歌に、観衆が温かい拍手で応えるような場面もある。

「私はガラケー使ってるんですけども、ライブ終わって楽屋でスマホ見せてもらったら“サザン セトリ”とかみんな書いててね。ビックリしちゃいましたね」

 とMCでファンの感想をつぶさにチェックしてることを明かしつつ「ドローン? すごいね、あれ!」と「自撮り棒って何? 釣りかって思った」などと最近の風潮を冗談めかして語り笑いを誘う場面も。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる