谷村新司が語る、アジアと日本のポップス論「ヨナ抜き音階が何を意味するのか、10年間探求しました」

「日本の良いところをどんどん作品にしていきたい」

――谷村さんのメロディはアジアでも人気がありますが、それはファとシが欠けている、ヨナ抜き音階に人気の秘密があると?

谷村:アジア大陸のほとんどに加えて、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、ドイツでは人気がありますね。ところが、アメリカはあまりヨナ抜き音階に反応しない。ふたつの大きな流れがあって、その片方がヨナ抜き音階に反応するのかなという印象です。とくに中国は、日本とほぼ同じ反応でしたね。僕らはアメリカンポップスで青春を過ごしたので、彼らの音楽をすごく尊敬していてそういう曲も作るのですが、一方で「昴」などは、アメリカンポップスではほとんど出てこない音階です。どちらも作るというのが、自分の表現の仕方なのだと思います。

――今回でいうと、「風の時代」がポップス色のある曲でした。ほかにも、アリスの時代にやってきたポップスと日本色の強い曲、自身のなかでふたつの距離感はどう捉えていますか。

谷村:どちらも自分の中にしっかりとあるものなので、距離は感じないです。まずこのテーマで書こうと決めて、「これは西洋音階で作ろう」「あっちはペンタトニックで作ろう」といった住み分けが出てくるのは作曲のときだけですね。今回のアルバムの場合は基本的に西洋音階なのですが、楽器の音色もふくめて、祭り囃子のようなものなど、不思議なものをたくさん入れています。それらを違和感なく織り交ぜて、今のポップスを作るというのが、ひとつのテーマでした。

――日本という大きなテーマを掘り下げていくと、難解な作品になるケースもあると思うのですが、今回の作品は親しみやすく、楽しく朗らかな感じがありました。

谷村:皆さんが忘れかけていたり、当たり前になっているような日本の良いところをどんどん作品にしていきたいと思ったんです。どの国もそうですが、歴史には必ず表と裏、ふたつの面がありますよね。ぼくは裏面をあえて音楽にする必要はないと思いました。明るいと感じられるのはそのせいではないでしょうか。曲のタイトルも、「タカラヅクシ」「鶴と亀」「寿留女~スルメ~」など、普通はあり得ないだろうと思うものをあえてつけました。それで最終的にどんな曲ができるのか、自分でも楽しみだったんです。

――「鶴と亀」は夫婦の話にもとれますね。

谷村:結婚式の披露宴の時に、若い新郎が新婦に向けて歌ってくれるといいな、というイメージです。結婚式の時ってみんなが舞い上がっているけど、最後まで夫婦で添い遂げて看取り合うということまではあまり考えていない。だから「結婚って、実はそんなところまであるんじゃない?」ということをさりげなく感じてもらえればいいなと思いました。

――日本を掘り下げて探っていく作業として、具体的にどのようなことをされたのでしょうか。

谷村:2003年から最初の5年間くらいは、ひたすら世界中の古文書を読み漁りました。まるで学者のようでした(笑)日本の文献だけを読んでいると、逆に日本が見えなくなるんです。たとえば海外で旅をしている時に日本を見ると、国内にいる時とはまったく違う見え方ができますよね。あと、日本に戻ったときにすごくほっとする、その感覚も不思議だなと。そういったことも含めて、自分のなかでは本当に楽しい10年間でした。この2年くらいで自分が見つけたものをPOPに表現したいなと思い、それから本格的な作品作りに入っていきました。

――なぜそこまで情熱を傾けることができたのでしょうか?

谷村:「自分がどこから来たのか」ということを知りたかったんだと思います。そうして見つけた答えを音楽に乗せて、やわらかく伝えるのが自分の役割だと思ったのかもしれません。55歳で一度、すべてをリセットしたときに、「自分だけの為に歌を作るのはもういいな」と思ったんです。聴く人に心地よくて、ふと心になにかが残るようなもの、そういう思いを曲に込めたくなったというか。どれだけ枚数が売れるかという音楽市場に巻き込まれそうになった時期もありましたけど、僕自身が音楽で表現したいと思うことの芯がぶれなかったから、ここまでやってこられたと思います。そのことに対して、「みんなにありがとう」という気持ちを込めて、改めて「この国って素敵だよね」と伝えたかったんです。

――いまの話を踏まえてこのアルバムを聞くと、また違った聴き方ができそうな気がします。

谷村:作品に関しては、楽しんで聴いてもらえればそれで十分です。もし、自分のなかで引っかかるところがあれば、思いっきり引っかかってほしいです。それも楽しいと思います。「この詞はどういう意味なんだろう」とか、ふと引っかかるポイントは実はたくさんあります。何かに引っかかった人は、そこが探究の扉になっているかもれません。ぜひ開けてみてほしいです。

(取材・文=編集部)

■リリース情報
『NIHON~ハレバレ~』
発売:2015年4月22日(水)
定価:¥3,000+税

<収録内容>
1. ハレバレ
2. 寿留女~スルメ~
3. タカラヅクシ
4. サクラサク
5. 梅・桃・桜
6. 北陸ロマン
7. やくそくの樹の下で
8. 鶴と亀
9. 風の時代
10. 家
11. 吟遊詩人
12. 夢路
13. MIRAI

■ツアー情報
谷村新司コンサートツアー2015『NIHON~ハレバレ~』
5月9日(土)【大阪】河内長野ラブリーホール ※FC限定公開GP
5月10日(日)【大阪】大阪フェスティバルホール
5月16日(土)【岡山】岡山市民会館
6月6日(土)【宮城】多賀城市民会館
6月21日(日)【福岡】キャナルシティ劇場
6月28日(日)【静岡】三島市民文化会館大ホール
7月4日(土)【神奈川】厚木市文化会館 NEW
7月11日(土)【栃木】栃木県総合文化センター メインホール
7月12日(日)【群馬】藤岡市みかぼみらい館
7月15日(水)【東京】渋谷公会堂 NEW
7月26日(日)【愛知】日本特殊陶業市民会館フォレストホール
(旧:名古屋市民会館 大ホール)
8月1日(土)【兵庫】神戸国際会館こくさいホール ※NEW FINAL!!

谷村新司の最新情報はこちら

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる