新アルバム『triology』インタビュー
クラムボン・ミトが語る、バンド活動への危機意識「楽曲の強度を上げないと戦えない」
ミトは、ある種のランナーズ・ハイの状態にあるのかもしれない、と思った。こちらの質問に対して、そんなこともわからないのかと言わんばかりに呆れたような表情を見せながら、畳みかけるように饒舌に語り続ける。その話はある種の衝撃だった。
クラムボンが結成20周年を迎え、5年ぶりのアルバム『triology』をリリースする。9枚目のアルバム。彼らのバンドとしての個性もスタンスもすっかり確立されているはずなのに、しかし、このアルバムは、これまでの作品とはまったく違う意識で作られているようだ。何度も取材して気心が知れているはずのミトの変貌は、いつもと同じつもりで呑気にインタビューしにいった僕を戸惑わせるには十分だった。
彼と話していて思い出したのは、約20数年前、テクノにはまったころの自分。耳が変わり、意識が変わり、聴くものもすべてが変わって、それまで聞いていた旧来のロックみたいなものがすべて聞けなくなってしまった。好みが変わるのは誰でもあるだろうが、その時は自分の変化のスピードが急激すぎて、周りの動きがすべて愚鈍な亀みたいに感じていた。そんな急激な変化は10代のころにパンクにのめり込んで以来だった。それは一種の「革命」だったと思う。
もちろん単なる聞き手ならそれはすごく楽しいことだが、当時は既に今の仕事をやっていて、来る仕事の大半が「旧来のロック」に関することだったから、仕事するのがとても苦痛だった。あのときはいろいろイライラしていたし、今後自分はどうなるんだろうという不安もあった。
おそらくミトもそういう状態なのではないか。もうすぐ40歳だという彼は、そういう「革命」のまっただ中にいるように思えた。自分の意識ががらりと変わり。時間軸がものすごく加速してるから、周りの動きがものすごくスローモーに感じられてるんじゃないか。それだけじゃない。彼の言葉は今のポップ・カルチャーの動きを理解するにあたって、極めて重要な指摘をはらんでいると思った。長いインタビューだが、ぜひ最後までおつきあいいただきたい。
「バンドっていうのはある種の時代遅れなんですよ、確実に」
ーーここ数年で、各人のソロ活動も含めてクラムボンの活動範囲が大きく広がった印象があります。ミトさんもアニメなどの楽曲提供やプロデュースの機会が増えてますね。
ミト:そうですね。僕に関していうと、もともとデビューしたときから作曲家志望ではあったので。その依頼元が、自分の周りのJ-POP/J-ROCKのシーンとは別のところーーたとえばアニメだったりゲームだったり、そういう仕事が増えてます。たまたまそういうのは自分の趣味として好きでしたけど、徐々にいろんなコネクションができてきたという感じです。
ーー10年前ならアニメの趣味もあくまでも趣味にとどまっていたけど、今では全部仕事に直結してるみたいな。
ミト:そうですねえ…結び付くと思わなかった。アニメとか特にそうですけど、こんなに市民権を得るとは思わなかったですし。あと、こっちがいくら好きだと言ってもクラムボンという枠の中では全然必要とされてないものだったので。もちろん今だって必要あるとかないとか、そういうことじゃないですけど…作曲家としてアニメのオープニングとか映画やテレビの劇伴とか、そういうことをやりたいなあとは確かに思っていたんです。それはほんと、デビューする前からずっと思い続けていて。それを実現するためにはどうすればいいかっていうのを考えながら、クラムボンっていう活動をやってたので。だから当時はすごく誤解を招いていたと思います。バンドやる気あるのか、みたいな。
ーーそんなことあったんですか。
ミト:僕らのスタンスや、やっていることがそういう風に見えていた部分はたぶんあったと思うんです。しょっちゅうやること変わるし、(メンバーそれぞれ)属するジャンルも聴いているものもバラバラだし、インタビューも言ってること全然違うし。ライヴも……基本的にゆるふわバンドなので(笑)。MCもダラダラだし……ただ演奏はちゃんとやってるという。だから掴みどころがなかったじゃないかなとは思います。
ーーでもそういう自由なバンドのあり方というのが、ここ最近で理解されてきた。
ミト:変わり続けていることが変わらないこと、っていうのがそもそもこのバンドの特徴っちゃー特徴だったんで。毎回変わってるけど変わらないんだって、そういうバンドなんだって理解してもらうためには、熟成期間が必要だったんでしょうね。結成20年…デビューしてから16年なんですけど、漬け物じゃないけど、それだけ漬け込んでおく時間が必要だったんじゃないですかねえ。僕たちは基本的には何も変わってるつもりはない。確かに活動範囲は広がって忙しくはなってるけど、それはずっと(そうありたいと)思い続けていたものが繋がってきただけで。
ーー多忙になってきたこともあって、クラムボンとしては前作から5年という間があいたわけですが…
ミト:でも毎年出してましたよ。
ーー確かにベスト・アルバム、ライヴ・アルバム、カヴァー・アルバム、トリビュート・アルバム、その間にシングルも出して、ツアーも何度かやっている。
ミト:うん。毎年なにかアイテムは出していたし、フジロックでグリーン・ステージにも出たし、「ドコガイイデスカ」ツアーも始まって、百カ所近く回ったし…だからクラムボンとして止まっていたイメージはないですよ。
ーーその間オリジナル・アルバムを作るつもりはなかったんですか。
ミト:それもやる順番なんで。あれもやりたいこれもやりたいというのがちゃんとあったので。なので…なにもオリジナル・アルバムを作ることだけが、バンドのやり方ではないと思うんです。ライヴスペースでない会場をファン同士で作り上げ、その度に自分たちのPAシステムを再構築して音をグレードアップしていくのも必要だし。今の日本の音楽シーンって、プロモーション、制作、宣伝、ライヴ活動全般があまりにも同じことを繰り返してるだけのように見える。自分のブランディングを極端に改新することをみなさん恐れるし…同じことしかやってないように見える人たちが多い。ほかにもやり方があるんじゃないか。
ーーそれは……
ミト:逆に聞きたいんですけど、なんでアルバムがバンドのひとつの指標なんですかね?
ーーバンドの現在形を作品という形で残すことは大事じゃないですかね。作品として形にすることで、次の段階にも進みやすくなる。
ミト:なるほど。でも今までの曲であってもリアレンジしたり、その時代にあわせて演奏することで現在形は表現できるんじゃないかと思うんです。ジャズやブルースはそういう音楽じゃないですか。アルバムを出すという形じゃなくても、アップデートしていくのはほかにたくさんやり方があると思うんです。でね、作りすぎてもそれはどうなの?というのもすごくある。大してスタンスは変わらないのに、思いつくままに量産するのもある種のエゴに近いと思うんですよね。今までのファンの人たちはいいかもしれないですけど、そのほかの人たちを巻き込む媒介にはならないんじゃないか。僕は音楽をやっていく限りは広げていかなきゃダメだと思うんで。自分たちの主張だったりオリジナリティだったりパーソナルだったり。これだけスペシャルなんだよって見せるべきだと思うんです、アーティストというものは。同じプロモーションで、同じ質の同じ内容のものを作り続けるのは、正直な話それも害悪なんじゃないかと。だから…(アルバムを作るのは)あくまでも方法論のひとつですよ。ほかの方々がそれをやって、みなさんが納得するのはわかるんです。でもそれが多すぎるのが納得がいかない。
ーー以前ミトさんと話していて印象に残っているのは、バンドのあり方としてある種理想的なのは、ライヴ入場料を少し高めに設定して、観客のテーピングを自由にすることだっていうお話です。自由に録った音源を各自で好きに聞いてもらえればいいと。
ミト:テープツリーですね、はい。
ーーライヴごとに進化していく姿をリアルタイムで見せていくことができる。
ミト:うん、それもあるなと思って。ただし、それは10年も前の話しですけどね。2010年からこのアルバムを作るまでの間にいろいろ考えたんですよ。その間にメジャー・レーベルの資本力の陰りがあったり…若い子たちがバンドという単位ではなく、DTMを使って一人で音楽を作り始めた。初音ミクという疑似ヴォーカリストも使って、自分ひとりで作って自分の中ですべて完結できてしまう、そういうフレッシュな世代の人たちが出てきた。バンドという形では、そういう人たちと同じようには戦っていけないと思うんです。新しいものをどんどん更新しようとするのであれば。バンドっていうのはある種の時代遅れなんですよ、確実に。ARCAとか、海外ではもう18才の子がEDMのトップ・クリエイターなわけですよ。この時点で確実にわかっているのは、バンドのスペックだったりレスポンスだったりは、今の現代にはもう、まったく向いていないと思っていて。
ーーうーむ。
ミト:そこで自分たちがバンドとして細々とやっていくために、なおかつ、ニコ動だったりミクだったりARCAだったりEDMが好きな子たちにも少しでも楽しんでもらえるために考えなきゃならないのは、ライヴの見せ方であり、ライヴの制作の内容であり、そういうところでバズを起こさないとダメなわけですよ。たとえば発売方法にしても、今回シングルをアナログ先行にして、なおかつ当日告知で発売したんですね。これは海外ではトム・ヨークを始めみんなやってることなんですけど、日本では誰もやっていなかった。でもバズを起こせたから、絶対そっちの方が良かったんです。それ以上のことをやりたいなら資本を持ったほうがいいし、レーベルにかけあってその分の宣伝費を使ったほうがいいわけですが、さすがにそこまでの資本は動かせない。ではどうやってバズを起こすか。そういうアイディアも重要だと思うんです。逆に若いボカロ出身のアーティストだったりEDMやってる子たちは、バズの起こし方をちゃんと自分たちで理解してる。
ーーなるほど。
ミト:もちろん、音楽がちゃんと作れているのは当たり前の前提なんですよ。だから今、問われるのはそこじゃなく、それをどうフレッシュに今の時代に見せていくか。つまり総体的なビジネス力が必要。もちろんこの先変わる可能性はあるけど、ここ1〜2年は確実にそういう状況が続くと思います。だって、現実に今、そうなってるんだから。