新アルバム『triology』インタビュー
クラムボン・ミトが語る、バンド活動への危機意識「楽曲の強度を上げないと戦えない」
「僕らはマイナスからのスタートだった」
ーーとなると、いまバンドを続けていくことの意義は。
ミト:僕らは既にある程度成り立ってるわけですよ。大助さん郁子さん僕っていうのは、個々でバンドとは別のアーティスト活動をやってますけど、でもそれはクラムボンというブランドがあることが前提になってる。たとえば郁子さんがドラマや舞台に出たとします、僕がアニソンやってます、大助さんが学校の先生をやってます、といってもクラムボンというブランディングは確固として変わらないんです。このブランドがあるとないとでは、僕らの存在価値は全然違うんですよ、企業的な意味で。逆に言えば僕らは唯一無二のクラムボンっていうブランドを作っている。だから続けていくことの意義じゃなくて、そのブランドを続けるために個々のことをやって、クラムボンをやってるんです。だから……(苦笑)ある種の諦念ですよ。続けないと仕方ない。僕らが生きていくために。僕と郁子と大助と、何人かのスタッフとその家族が生きていくためにね。その小さなコミュニティを守ることが自分たちひとりひとりを守ることになる。それが今回こういうアルバムを作った理由でもあるんです。クラムボンっていうブランドを終わらせても、誰も、何も得しないから。アティチュードの問題じゃない。そんなことを考えてるヒマはない。生き残れるかどうかの瀬戸際なんだから。
ーー大半のバンドはそういう危機感もなくやっているってことですか。
ミト:今の若い世代の子がバンドをやっていることと、僕らぐらいの世代の人たちがバンドを続けているのは、全然意味が違うと思う。若い子はもっと現実が厳しいわけです。バズを起こすために僕ら以上にいろんなことを考えてる。僕らはそんな若い子たちを見ながら、自分たちが置かれてる場所を確認し、自分たちが若い子たちよりこれだけ優れているということをプレゼンしなきゃならない。でも僕らと同じ世代のバンドは、だいたい自分のバンドしか見えてない。悔しいかな、僕の世代にも良いクリエイターっていっぱいいるわけですよ。そこで自分たちを引っ張り上げるためにはどうすればいいか。それを考えて実行できてる連中はほとんどいない。インターネット上にはそのためのいろんな有効なツールはある。それをどう使うかが重要なのに、彼らはわかってないんです。
ーー毎日毎日いろんなアーティストがニコ動やサウンドクラウドやバンドキャンプで日々音源をアップして、どんどん自分の表現を更新している。いろんなものに縛られてその速度に追いつけないバンドがこの先どんどん厳しくなる、というのはわかる気がします。
ミト:ただ逆に個人単位でコツコツやっても、ロクなプロモーションもない状態で曲をアップしても、なかなか話題にはならない。何をどうバズらせてどう生き抜いていくか。僕はこんな楽しいことをやってますというプレゼンをいかにやって、いかに広めていくか。
ーーなるほどねえ。
ミト:だから…最初の話に戻れば、もはやオリジナル・アルバムを作ることだけが活動ではないんです。そこではもう戦えない。仮にオリジナル・アルバムをいっぱい出そうと、それよりはるかに多くの楽曲がタダでサウンドクラウドに毎日山のようにアップされている。有名な人たちだってどんどん無料で配信してくる。それとどう戦うか、なんです。
ーーそういう危機感をこの5年間で感じるようになった。
ミト:まあね。でも厳密に言えばずっとそうですよ。16年前にワーナーからデビューして、14年前にクビ同然で出て。その時に制作費の赤字の部分の負債を背負っているわけですよ。借金としてね。それをまず返さないことには生きていけないんですよ。それがもう2001年から始まってるんです。事務所も作ってスタジオも建てて。そうするとアルバム1枚作るバジェットもない。どうしたらそのバジェットをひねり出せるか。それどころか、3ヶ月先半年先だってどうなってるかさえわからない。そんな状態が10何年続いてるわけです。だから当たり前のように先先のことを常に考えて計画を立ててやっていかないといけない。これが普通になっちゃってるんです。だから…全然違うんです、ほかの人たちとは。それは僕らが凄いとかそういうことじゃなく、出発点からして僕らはマイナスからのスタートだった。でもそれを楽しんでやるようにしていたら、徐々にみんなに受け入れられるようになった。僕らの姿勢をわかってもらえるようになった。地道にそういうものを積み上げていった結果として、今の僕たちがあるわけであって。
ーーわかります。
ミト:何をやってどうしたら事務所が継続できるか。どういうことを考えて、作品をより良い形で届けられるか。常に考えてるんです。作品ができたから出すんじゃないんです。作品を出すためにどう活動していくか。それをどうプロモーションしたらどう広がるか、ってことを徹底的に考えていかないと先がなくなって終わっていくわけです。
ーー昔だったらそういうことはミュージシャンじゃなく周りのスタッフなどが考えることだったのかもしれませんね。今は音楽家自身がそういうことを考えて実践していかなきゃいけない時代。
ミト:はい、はい、はい。それはありますね。おそらくあと5~6年、いやあと10年は変わらないんじゃないかな今の状況は。ここから先音楽ビジネスが爆発的に復興するなんて…10年はかかると思いますよ。
ーーアルバムを作ることだけがミュージシャンのやることじゃない。それをどうやって届けるか。
ミト:そうですね。ディレクション力とプロモーション力。それはもうクリエイティヴ力と同じぐらいの力量をもってやらないと、続けていけないでしょうね、昨今は。
ーー危機感はありますか。
ミト:危機感はありますよ、いろんな意味で。全部。僕らと同時期にデビューした人たちの現状を見ていると、大変だろうなって思っちゃう。だから、自分が知ってる限りのことは仲間には届けたいなと思いますよ。同業者として。僕は若干若いところに入れていけてるから、ラッキーなことに。アニメだったりね。作曲業として、10何歳の子の歌入れとかするわけですよ。12歳とか14歳とか。全然発想違いますもんね。
ーー(笑)まあそりゃそうだろうけど。
ミト:そろそろ40歳になるんで…若い子よりは楽しんでやってるぞってとこはしっかり見せてあげたい。そのためにできる限りのことはしたいと思いますね。…あと(自分に)子供が3人もいるから、だからこそ、そういうとこもしっかり見てもらいたいって気持ちもあるんですよ。そういう気の持ち様が、郁子や大助とは違うのか…ちょっと追い詰めすぎてるのかもしれないですね。でもそれが、僕らが幸せになれる一番近いプロセスだってことをわかってるから。
(取材・文=小野島 大)
■リリース情報
『triology』
発売:2015年3月25日(水)
価格:初回限定盤(CD+DVD)¥3,800+税
Blu-ray audio ¥3,800+税
通常盤(CDのみ) ¥3,000+税
LP盤 ¥3,800+税
<収録内容>
01 Lightly!
02アジテーター
03 the 大丈夫
04 Rough & Laugh
05 agua 06 noir
07 Scene 3
08はなさくいろは —bon bori ver.—
09バタフライ
10 yet —triology ver.—
11 Re-ある鼓動
12 Lightly…
<DVD収録内容>
『クラムボン 祝!結成20周年スペシャルフリーライブat 代々木公園』
01. Re-ある鼓動
02. シカゴ
03. パンと蜜をめしあがれ
04. 茜色の夕日
05. 波よせて
06. アジテーター
07. yet
EN. サラウンド
『yet』
発売中
価格:CD ¥1000+税
限定 7inchアナログ ¥1,500+税
<CD収録内容>
1. yet
2. サラウンド-出戻Re-mix-
3. yet-instrumental
<限定 7inch収録内容>
Side A:yet
Side B:茜色の夕日(フジファブリック カヴァー)
■イベント情報
clammbon 20th Anniversary 『tour triology』
2015年6月11日(木) 宮城・仙台Rensa
2015年6月12日(金) 新潟・新潟LOTS
2015年6月19日(金) 愛知・名古屋市公会堂
2015年6月21日(日) 石川・金沢EIGHT HALL
2015年6月26日(金) 大阪・オリックス劇場
2015年7月2日(木) 福岡・福岡市民会館
2015年7月4日(土) 香川・高松オリーブホール
2015年7月11日(土) 北海道・札幌PENNY LANE 24
2015年8月1日(土) 広島・広島CLUB QUATTRO
2015年11月6日(金) 東京・日本武道館