長澤知之が明かす、“歌”と向き合う切実な日々「音楽はメッセージがなくても崇高なもの」

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長澤知之「IN MY ROOM」公演の模様。東京キネマ倶楽部にて。

 長澤知之が、企画盤『長澤知之』シリーズの第3弾となるアルバム『長澤知之Ⅲ』を11月14日から行われた「IN MY ROOM”TOUR 2014」で会場先行販売し、現在はAugusta Family ClubとiTunes Storeで販売している。同作は、自室を模したセットをステージに設置した「IN MY ROOM」公演とリンクした作品であり、長澤知之の“部屋”に遊びに来たような感覚で楽曲を聴くことができる一枚。デビュー前の初期作品を含む粒ぞろいの楽曲がアコースティック基調のサウンドで収められているほか、人間の頭部模型にマイクを取り付けて録音する“バイノーラル録音”という手法で制作した楽曲も収録。長澤の生々しくも艶やかな歌声を臨場感たっぷりに聴くことができる。シンガーソングライターとして新たな表現を模索する長澤は、どんな思いからこうしたライブやレコーディングの発想を得たのか。宇野維正氏による長澤本人へのインタビューに加え、編集部では今回レコーディングを担当したエンジニアの佐藤洋介氏にも話を聞いた。(編集部)

「『IN MY ROOM』は、自分にとってある種のリハビリでもあった」

――リアルサウンドには初登場ということで、改めて訊きますが、長澤くんのことはシンガーソングライターって呼んでいいのかな? それとも、ただのミュージシャン? 歌うたい? あるいは、ロックミュージシャン?

長澤知之(以下、長澤):シンガーソングライターでいいです。ロックミュージシャンと言われると、面映い感じですね(笑)。

――じゃあ、長澤くんにとってシンガーソングライターとは?

長澤:直訳の通り、曲を書いて歌う人。で、なんで曲を書いて歌うのかというと、書きたい曲があって、それを歌いたいから。うん、だから、自分にすっぽり当てはまりますね。

――ただ、一般的に「シンガーソングライター」という言葉って、聴いていて心地がよい歌を歌う人というイメージがあるじゃないですか。あるいは、音の革新性とかとは関係なく、ただグッドメロディを追求する人みたいな。そういう意味で、長澤くんがやってきたことはただ心地よい歌だけじゃないし、曲によっては革新性なサウンドを鳴らしてきましたよね。

長澤:うん。そういう曲もあるし、そうじゃない曲もあります。自分の頭の中に曲が浮かぶ時には、そのサウンドも含めて浮かぶことが多いし、そういう時は自分が信頼しているミュージシャンやエンジニアの方に相談してなるべくそのサウンドに近づくようにアレンジもしていきます。ただ、やっぱりそれも含めて、歌が中心にあることは間違いないから、やっぱりシンガーソングライターでいいんじゃないかな。

――いや、なんでそんな話からしたかというと、今回の『長澤知之Ⅲ』は、これまでの長澤くんのアルバムやミニアルバムと比べて、極めて素のシンガーソングライターとしての面が出ている作品で。どうしてこのタイミングで、こういう作品をリリースしようと思ったのかを訊いていこうと思ったからなんですけど。

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ステージ上には、長澤の部屋のようなセットが用意されていた。

長澤:今年(2014年)は、「IN MY ROOM」という、ステージの上をまるで自分の部屋のようにして、一人で演奏するという企画ライブをずっとやってきたんですよ。自分が一番歌いやすい環境、自分が一番妄想しやすい環境を現実に作って、そこで思う存分に歌うという。春から秋にかけては青山のライブハウス(月見ル君思フ)で、そして、ちょうど終わったばかりですが、11月には東京、名古屋、福岡、大阪と回って。今回の『長澤知之Ⅲ』はそれが直接的なきっかけになっていて、もう一つは、単純に、自分の新しい曲を世に出したいという思いがあって。最初は全部ライブ録音にするとか、今回、昔からあった3曲で試みているバイノーラルレコーディングで全部録音するとか、いろんなかたちも考えてみたんですけど、結果的に一番自然なかたちになったのがこの作品ですね。

――バイノーラルレコーディングの3曲は、ヘッドフォンで聴くとちょっとビックリするほどの臨場感ですよね。

長澤:すごく面白かったです。こんなにも自分の声が明け透けに聴こえるのかって、照れくさくもあったけど、それはそれで表現として美しいものになっているんじゃないかって。ただ、収録曲の全部をあの方法で録るというのは、自分がリスナーの立場になって考えてみると、ちょっと嫌だなって(笑)。ちょっと濃すぎるというか(笑)。

――そうかもしれないですね(笑)。

長澤:この作品では、自分の部屋ではあるんだけど、いきなり部屋の中で二人きりというわけじゃなくて、「部屋においでよ」ってところからやりたかったので。

――なるほど。じゃあ、一曲目の「只今散歩道」は、駅に迎えに行って、そこから部屋のあるアパートまで歩いている感じだ。

長澤:そうそう。それに、部屋に入った瞬間からいきなりテンション上げられても怖いでしょ(笑)。人の部屋に上がるのって、それだけでも緊張するし。だから、まずは「どうぞお茶でも」という感じで始めたかった。

――そもそも、どうしてステージ上に自分の部屋を作って、そこで一人でライブをやろうと思ったんですか?

長澤:まぁ、ぶっちゃけて言ってしまいますけど、ある時期から、ライブをやるのがしんどくなっていたんですよ。ライブの直前になると、「逃げたい」という気持ちになることが多くて。

――え? そうなんだ? それ、ミュージシャンにとって結構深刻な話ですよね。

長澤:そうですね。今年一連の「IN MY ROOM」をやってきたことで、その「逃げたい」という気持ちがようやくなくなってきて。だから、自分にとってある種のリハビリでもあったんですよ。ある時期からライブが怖くなって、いろいろ周りの人にも相談をして、それで自分は一番リラックスできる環境をステージ上に作ればできるんじゃないかって。それが大きな理由の一つでもあったんです。

――なるほど。そんな切実な背景があったんですね。

長澤:切実っすよ(笑)。ただ、それだけじゃなくて、これまでライブをやってきて、もっと自分の妄想が実現できるような場所を作りたかったという思いがあって。だから、一石二鳥というか、自分にとって意味のある企画になって本当に良かった。ちゃんとステージ上で心から楽しめる状況までいけたってことが、今はすごく嬉しい。

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床に胡座をかいて歌う一幕も。

――じゃあ、リハビリは終わったと思ってもいいのかな?

長澤:はい、大丈夫です。2014年は自分にとってそういう年で、せっかく声をかけて頂いても出れないイベントとかも結構あったんですけど、もう大丈夫なので、よろしくお願いしますという感じです(笑)。

――確かにね。こんな話、その渦中にあったら言えないですもんね。

長澤:はい(笑)。

――いや、でもその話を聞いていて思ったのは、僕らのような見る側の人間は、ライブの演出って「お客さんにどう見せたいか」というところだけでいろいろ考えているだけだと思いがちですけど、演る側の人間が一番やりやすい環境をどう作るかっていうのも、実は大きなテーマだったりするんだろうなってことで。その視点というのは、これまであまり考えたことがなかったですね。

長澤:どうなんでしょうね。人によってはそうかもしれないですね。

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