『ホットロード』主題歌の尾崎豊はアリかナシか? 不良文化と音楽の関わりを再考

中矢「若旦那はあえて『マイルドヤンキーみたいな層に目がけて曲をつくってきた』戦略家タイプ」

中矢:なるほど。ちなみに、先程、若旦那や前野健太の話が出ましたけど、尾崎豊は日本のラップ・ミュージックに影響を与えていないんですかね? 同じような青臭い音楽という意味では、D.Oがザ・ブルーハーツの曲をサンプリングしたりしましたけど(発売中止になった09年の『Just Ballin’ Now』収録「イラナイモノガオオスギル」で「爆弾が落っこちる時」をサンプリング)。

磯部:ブルーハーツも、彼ら自身はヤンキー的な人間ではないのに、やけにヤンキーに好かれる音楽だよね。ヤンキーマンガというジャンルにおける代表的な作品である森田まさのりの『ろくでなしBLUES』(集英社、88年~97年)にメンバーを模したキャラが登場したり……。そういえば、中矢が住んでるのが綾瀬ってことで思い出したけど、女子高生コンクリート詰め殺人事件についてのノンフィクション『少年の街』(教育史料出版会、92年)で、作者の藤井誠二が獄中の容疑者グループのひとりにインタヴュー出来たのは、藤井が『僕の話を聞いてくれ』(リトル・モア、89年)っていうブルーハーツに関するエッセイ集に寄稿した文章に、その容疑者が共感したからだったな。ゴンゾージャーナリスト・石丸元章の『スピード』(飛鳥新社、96年)にも、元祖ギャル男のピロムこと植竹拓の『渋谷(ピロム)と呼ばれた男』(鉄人社、13年)にも、クラブでブルーハーツがかかって暴動状態になるっていうシーンがあった。

 それと、不良に好かれる音楽と言えば、ラッパーの般若は長渕剛からの影響を常々語ってるよね。長渕の『しあわせになろうよ’04』って曲は00年代の「We Are The World」というか、MVはスタジオに若手のミュージシャンたちがやって来るところから始まるんだけど、みんな、パイセンに呼び出された感がハンパない(笑)。でも、般若はノリノリっていう。ちなみに、同曲にはZEEBRAも参加していて、般若が鉄砲玉みたいなラップをしているのに対して、彼は若頭というか、パイセンをばっちり立てるヴァースをキックしている。それにしても、ZEEBRAは長渕についてはどう思っているんだろう? 『ZEEBRA自伝』(ぴあ、08年)には、前の奥さんが尾崎豊の元カノだったってエピソードが出てくるけど、長渕に関しては桜島のオールナイト・ライヴにゲストとして呼ばれた際の感想として、「ハンパじゃなかった。/人口が5000人のところに、7万5000人。/まだまだそんなところでできない自分たちが悔しいよねって話になった」「単純に、オレもいつかあれを超えたいと思ったよね。/長渕さんの歳になって、同じようなことをやったら、集めたい。/代々木公園に7万5000人」と特に興行主としての側面に着目してるから、音楽的に……というよりは、さっき話に出たように、戦略的にヤンキーなセンスを取り入れていく上で参考にしたところはあったのかもしれない。

 ちなみに、若旦那は尾崎豊の後、何とさだまさしにハマるんだよね。ソロ・アルバム『あなたの笑顔は世界で一番美しい』(11年)では、「雨やどり」のカヴァーもしてるけど、彼は尾崎とさだの違いについて以下のように語っていた。

――尾崎豊からさだまさしという流れは、ちょっと意外な感じもしますが。
若旦那 さださんとの出会いは一九歳ですね。「関白失脚」(九四年)という歌があって。
――「関白宣言」(七九年)の続編ですよね。
若旦那 これはさださん本人にも言ったんだけど、俺が一〇代の頃、自分の親を「ああいうふうになりたくねぇ」ってすごく反面教師にしながら生きていた中で、「関白失脚」を聴いたら親のことがちょっと好きになれたというか、「大人っていろいろあるんだな」って思えたんですよ。その前に聴いてたブルーハーツと尾崎豊とかって、「満員電車に揺られながら夕刊フジを読んでるようなオヤジなんかには絶対なりたくねぇぜ」みたいな歌でしょう。それって、まさにウチの親父のことだったから、オレも「あんなふうにはなりなくねぇ」って言ってたわけだけど……。
――たとえば、尾崎豊は「卒業」(八五年)で「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった」と歌いましたが、そのガラスを片づける人もいるわけですからね。
若旦那 そうそう。さだまさしの歌は、片付けてる人側の歌なんですよね。
――庶民の視点ですよね。
若旦那 うん、そこに対してオレは泣いちゃったんですよね。ドバッと感情が溢れ出てきて。で、一時期ひたすらさだまさしを聴いてました。
(『新しい音楽とことば』より)

 つまり、尾崎豊は子供のまま死んでしまったけど、若旦那はさだまさしを聴くことで大人になったんだと。ちなみに、「不良でさだまさしを聴くって、他にも例があるんですかね?」って訊いたら、「運転免許を更新するときの違反者講習で(さだまさしの)“償い”(八二年)を聴かされるじゃないですか。あの歌って結構エグいんですよね。人を轢き殺しちゃったのを懺悔する歌だから。あれにヤラれてる人はいると思うなぁ」「しかも、初心者講習じゃなくて、免停になった人が受ける二日間講習とかで聴かされるんですよね。だから、よりコアな人たちが……」(『新しい音楽とことば』より)って言ってたのも興味深かったな。盗んだバイクで走り出して事故を起こして、違反者講習でさだまさしと出会うという(笑)。

中矢:若旦那は湘南乃風のメンバーでは唯一、東京出身で、私立の中学・高校に通っていたような人なんですよね。美大に行って、最近は七尾旅人やジュークに興味を示すようなセンスもある。一方で、青春時代はいろいろ悪さをしていたとも本人は公言していて、同年代の不良仲間には、例えばかつてMSCが在籍していた〈Libra Records〉の社長もいる。彼から、『TOKYO TRIBE』にも出ていた漢を紹介してもらって、「ジャパニーズ独自のラップをやったのは川上(引用者注:漢のこと)」(『新しい音楽とことば』より)というぐらい評価しているけど、今、〈Libra〉の社長と漢が揉めていることに関しては悲しんでいましたよね。あと、湘南乃風は「まさにマイルドヤンキーみたいな層に目がけて曲をつくってきたようなところはあります」(『新しい音楽とことば』より)とはっきり言ったり、戦略家タイプという印象でした。

磯部:そうそう。彼らの大ヒット曲である「純恋歌」(06年)も、よくネットで歌詞をネタにしているひとがいるけど、あれも、“DQN”とか“マイルドヤンキー”とかラベリングされている層にとってリアルなラブ・ソングとは何か? っていうことを考え抜いてつくった曲なんだよね。あと、彼はいまエイベックス内で自分のレーベル〈Tank Top Records〉を運営していたりもする。まぁ、若旦那の話は、詳しくは11月に出る『新しい音楽とことば』を読んでもらうとして、EXILEやZEEBRAがいるような音楽業界にしても、あるいは、ネット業界にしても、アダルト業界にしても、80年代から90年代にかけて不良だったひとが起業して活躍するというケースは凄く多いから、不良とビジネスというテーマについてもこれからもっと考えていきたいよね。

(構成=編集部)

■磯部 涼(いそべ・りょう)
音楽ライター。78年生まれ。編著に風営法とクラブの問題を扱った『踊ってはいけない国、日本』『踊ってはいけない国で、踊り続けるために』(共に河出書房新社)がある。4月25日に九龍ジョーとの共著『遊びつかれた朝に――10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』(Pヴァイン)を刊行。

■中矢俊一郎(なかや・しゅんいちろう)
1982年、名古屋生まれ。「スタジオ・ボイス」編集部を経て、現在はフリーの編集者/ライターとして「TRANSIT」「サイゾー」などの媒体で暗躍。音楽のみならず、ポップ・カルチャー、ユース・カルチャー全般を取材対象としています。編著『HOSONO百景』(細野晴臣著/河出書房新社)が発売中。余談ですが、ミツメというバンドに実弟がいます。

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