『ホットロード』主題歌の尾崎豊はアリかナシか? 不良文化と音楽の関わりを再考

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映画『TOKYO TRIBE』公式サイトより

 音楽ライターの磯部涼氏と編集者の中矢俊一郎氏が、音楽シーンの“今”について語らう新連載「時事オト通信」第2回の中編。前編【ヒップホップとヤンキーはどう交差してきたか? 映画『TOKYO TRIBE』と不良文化史】では、今夏に公開された映画『TOKYO TRIBE』を軸に、90年代のヒップホップ文化やチーマー文化について掘り下げた。中編では、引き続き『TOKYO TRIBE』に見られる不良文化について考察を深めるとともに、同時期に公開された『ホットロード』についても議論を展開。両映画の音楽との関わりについても、話題が広がった。(編集部)

磯部「映画『TOKYO TRIBE』は、ヤンキー的なバッド・センスに満ち溢れていた」

磯部:映画『TOKYO TRIBE』で面白かったのは、下世話で過剰な、齋藤環が言うところのヤンキー的なバッド・センスに満ち溢れていたところ。原作者の井上三太は90年代のいわゆる裏原系に連なるようなグッド・センスのひとだと思うけど、園子温は映画化にあたってそれを反転させてしまったという。そして、そのことは、原作が日本のヒップホップと距離があったのに対して、映画版は最近のラップ・ミュージックのノリをちゃんと描けてるってことも意味している。前回、「『TOKYO TRIBE』は今っぽくない。モデルにしているのが80年代末から90年代頭にかけてのチーム文化全盛期だから」って言ったけど、映画版の方は“ヤンキー的なバッド・センスに満ち溢れている”って点では今っぽくもあるんだよね。何故なら、今、ラップを始めとしてまた様々な方面でヤンキーなセンスが復活している。

中矢:確かに。今のヤンキーというと、たとえばオラオラ系みたいなスタイルが挙げられると思いますけど、80年代からの流れを磯部さんの視点で整理してもらってもいいですか?

磯部:順を追って説明すると、やはり前回に紹介した書籍『YOUNG BLOOD~渋谷不良(カリスマ)少年20年史』(少年画報社、09年)でZEEBRAが語っていたように、そもそも、チーム文化は80年代半ば、都内の私立中高生がアメリカのサブ・カルチャーに倣った最新の輸入文化として始まっており、以前のヤンキー文化のバッド・センスとは断絶している。でも、80年代末になるとそのスタイルがメディアに取り上げられたことで、郊外の不良が流入し、次第に初期の洗練された雰囲気はなくなっていく。だからこそ、ZEEBRAはいち早く離脱し、初期チーム文化と同じような最新の輸入文化だったハードコア・日本語ラップのシーンの成立に力を注ぐ。

 そして、90年代半ばになるとチーム文化は、杉並区や世田谷区でヤンキー≒暴走族の伝統を受け継いでいたオーセンティックな不良である関東連合と対立を深めていく。さっきも言った通り、当時のチーム文化では、初期の洗練された雰囲気はなくなっていたものの、ZEEBRAが「チームのカルチャーとファッションは切り離せない。そこが、前の世代までの(暴走)族なんかと違うところ」(『YOUNG BLOOD』より)と語ったような特徴は健在で、関東連合の元リーダー・工藤明夫の回想録『いびつな絆~関東連合の真実』(宝島社、2013年)には、それを、まさにバッド・センスな自分達のスタイルと比較した以下のような記述もある。

 「私たちにとって、このチーマーというジャンルは非常に気に入らない存在だった。杉並区の不良少年にとって、不良少年の世界で食物連鎖の頂点にいるのは暴走族、すなわち関東連合という意識が強かったのだ。ナンパな服装をして、ファッション誌に出たり、たむろしている場所に女の子を連れているような彼らのことは、不良少年として認めることができなかったのだ。
 彼らに比べて、関東連合の服装は特攻服かスラックスに暴力団風のブルゾンやセーター。髪型はニグロパンチかスキンヘッド、あるいは“ブラックエンペラー”あたりなら、チームの看板である逆マンジを模(かたど)った“卍刈り”というニグロパンチの髪の毛を卍型に残す髪型にする者もいた」
(『いびつな絆』より)

 そして、工藤によると、関東連合のチーマー狩りによって、「間もなくチーマーは下火になっていく」(同上)。かと言って、不良少年たちの間でチーム文化の代わりに、また単純にヤンキー文化が主流になったわけではない。「もっとも(引用者注:自分たちの)服装については、渋谷に出てくるようになって少しづつ変わっていった」「あるストリートファッション・ブランドの展示会には、いまでも関東連合のメンバーが大勢で顔を出し、大量の服を注文していく。関東連合が好んで着るブランドは、いつの間にか少しづつワイルドなテイストに変化していった気がする。そのブランドはそのまま街の不良少年たちが好んで着るブランドになった」(同上)と書いているように、関東連合もまたチーム文化を取り入れ、そうやって現代化したバッド・センスが不良少年の間で流行っていく。ここで、工藤が言う“ワイルドなテイスト”はいわゆるオラオラ系のことかなって思うんだけど。

 一方、チーム文化から離脱したZEEBRAも、戦略的にヤンキーなセンスを取り入れていく。USのラップ・ミュージックを直訳しているだけでは地方の不良少年たちには届かないと思ったんだろうね。例えば、第1回でも言ったように、「Greatful Days」(DRAGON ASH feat.ACO, ZEEBRA、99年)の「俺は東京生まれHIP HOP育ち 悪そうな奴は大体友達」というラインでは、“ニガ”なノリが“ヤンキー”なノリに、見事に意訳されている。つまり、チーム文化とヤンキー文化が合流して新しいバッド・センスになり、それが今の不良少年の主流になっていると。

中矢:やはり、「Grateful Days」でヒップホップの認知度が飛躍的に上がったように思います。個人的な皮膚感覚に頼った話になりますが、当時、名古屋の高校に通っていた私のまわりでは、Hi-STANDARDのようなメロコアを聴いていたルーディな高校生が急にBボーイになったりしたので(笑)。それまで、愛知県常滑市をレペゼンするTOKONA-Xが〈さんピンCAMP〉に出たりしたこともあったけど、その存在を知るクラスメイトはほぼおらず、日本語ラップは“東京の文化”という印象だった。

磯部:「Grateful Days」のせいで、ZEEBRAは「悪そうな奴はだいたい友達って誰のことだ? 俺はお前なんかと友達じゃないぞ!」(『いびつな絆』より)なんて絡まれることになるわけだけど、彼はあの曲で“「悪そうな奴はだいたい友達」だ”と自慢しているだけではなくて、“「悪そうな奴はだいたい友達」になれる”って、日本中の不良少年に語りかけたんだと思うんだよね。そして、ANARCHYや、BAD HOPのYZERRはそのメッセージを少年院の中のテレビでキャッチして、退院後、本格的にラップに打ち込んだ。それは素晴らしいことだよ。

中矢:『TOKYO TRIBE』に出演しているラッパーは、あの曲以降に頭角を現した人たちばかりですよね。漢、D.O、ANARCHY、SIMON、Y's、YOUNG HASTLE、KOHH……。そして、彼らはスワッグを体現しているラッパーたちでもある。ただ、映画のストーリーとしては、鈴木亮平が演じるメラとか、竹内力が演じるブッバとか、ぶっ飛んでいる本当にスワッグなキャラクターは観ていて楽しいんだけど、そのなかで比較的常識があるようなYOUNG DAISが演じる主人公・出口海が最終的にプロップスを集めて異なるトライブを束ねます。それは、第1回の対談で磯部さんが言っていた「全体を支えた上での杭」という日本的なスワッグのありかたとも通じるんじゃないかと。

 あと、今は『TOKYO TRIBE』の“TRIBE”という単語からどうしてもEXILEを連想しちゃうんですけど、映画の公式サイトに「HIP HOPの魂がたくさんのフィルターを通して表現されていてワクワクしました。そして僕もHIP HOPな映画を創りたくなりました…」とHIROがコメントを寄せているんですよね。LDH制作のヒップホップ・ムービーがどんなもになるのかちょっと気になりますが……とにかく今回の『TOKYO TRIBE』は地方のヤンキーにも受け入れられる余地があるのかもしれませんね。一方、『ホットロード』には三代目J Soul Brothersの登坂広臣が出演しているわけですが。

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