海の家のクラブ化、危険ドラッグ、EDMブーム……磯部涼と中矢俊一郎が語る、音楽と社会の接点

脱法ドラッグにカルチャーはあるか?

中矢:社会問題といえば、去年あたりアメリカではMDMAの粉末をカプセルに入れた“モーリー”がEDMのブームとリンクしながら大流行しましたけど、日本では脱法ドラッグが“危険ドラッグ”と呼び変えられて再び話題になっていますよね。2012年頃にも同ドラッグをめぐる事件が相次いで社会問題化しましたが、1年ほど前に私と磯部さんが10代のドラッグ事情に関する記事を作った際は、「脱法ドラッグはダサい」という認識が若い子たちの間で広まっていたように感じました。なぜ、ぶり返しているように見えるのか……。

磯部:最近、危険ドラッグによるトラブルがまた増えているのには恐らくふたつの理由があって、ひとつは報道を見て、ほとんどの人間は恐怖や嫌悪を感じるだろうけど、中にはそれをきっかけに興味を持って試してみる人間もいるということ。つまり、危険性のアピールが逆効果をもたらすと。2012年の脱法ドラッグ・パンデミックでも同じような事態が起きたよね。それと、もうひとつの理由としては、前回のパンデミックを収拾させるため、2013年に厚生労働省が包括規制を導入したわけだけど、それを受けて業者がまだ規制されていない新手の薬物を使うようになったり、検出されにくくなるのを狙って様々な薬物を混ぜ合わせたりするようになったため、ドラッグの酩酊効果がより強烈かつ予想しづらくなったということが挙げられると思う。もともと、合法ハーブと呼ばれていたものってもっと緩い効果だったのに、規制がモンスター化させてしまったという。

中矢:しかし、危険ドラッグと音楽に接点はあるんですかね? アメリカのヒップホップだと、パープル・ドリンク(コデイン配合の咳止めシロップをソーダで割ったもの)について歌ったエイサップ・ロッキーの「Purple Swag」とかがありましたけど。

磯部:最近、「危険ドラッグ、4人に1人経験=クラブ利用の16歳以上男女」というニュースが出回っていて、「風営法の規制緩和路線に対するネガキャンか」「サンプル数=355名で“クラブ利用者”と一般化するな」みたいな批判がされているものの、それでも、この調査結果が本当だとして、僕の予想より遥かに多くて普通にびっくりしたけどね。しかも、元になった報告書によると調査対象となったイベントは「すべてreggae/dancehall」だそうで、レゲエ/ダンスホールのひとたちはケミカル・ドラッグを嫌う印象があったんだけど、ひょっとしてこれは新たな文化の萌芽なのだろうか……っていうのは冗談として、大麻系にせよ、覚醒剤系にせよ、睡眠薬系にせよ、危険ドラッグは結局が何か別のドラッグの模造品だから、大麻やLSDやMDMAのように「危険ドラッグ特有の効果が新しい音楽を生む」みたいなことはないだろうし、最近、問題になっている新手のやつは効果が強過ぎて音楽をつくる前にぶっ倒れちゃうんじゃないかな。

中矢:なるほど。そういえば、大麻解放論者は「大麻を解放すれば、危険ドラッグに手を出す人はいなくなる」と主張したりしますけど……。

磯部:開沼博氏も『漂白される社会』(ダイヤモンド社、2013年)で「日本では“違法”ドラッグのハードルが高いから、“脱法”ドラッグに流れるひとが多い」みたいなことを書いていたけど、大麻に寛容なアメリカでも、マイアミで起きた人食い事件の原因になったと言われるバスソルトが流行ったりしていたからね。あと、モーリーもほとんどはピュアなMDMAが入っているわけではなく、様々な薬物が混ぜ合わせられた“危険ドラッグ”だし。要するに、どうしたって人間のドラッグに対する興味は尽きることはないんだから、この問題でも的確な規制と、あと依存者に対しては取り締まるだけでなく、治療を施していくことが重要なんじゃないかな。

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