浅井健一が語る、曲作りのスタンス「心に力が入ると駄目、素直が一番いいよ」

20140710-asai.jpg
ソロとして6枚目のアルバムをリリースした浅井健一。

 浅井健一が、2013年のアルバム『PIL』より1年半ぶりの新作『Nancy』をリリースした。1年をかけてじっくり作ったというこのアルバムは、椎野恭一や福士久美子、林幸治といったプレイヤーを迎えたバンドサウンドの楽曲のほか、浅井自身がプログラミングを手がけて一人で作り込んだ楽曲も収録されており、さらにスケール感を増した作品に仕上がっている。もちろん、浅井ならではのイマジネーション溢れる詩世界も健在だ。今回のアルバム制作に当たり、浅井はなにを考え、どう言葉と音を組み立ててきたのか。レコーディングの裏話や、自身の創作スタンス、そして浅井が考える理想的な心のあり方まで、じっくりと語ってもらった。

「自分が作る歌は、聴いた人がポジティブになるようにしたい」

ーー今回の作品は、いつ頃からレコーディングしましたか?

浅井健一(以下:浅井):去年の1月に「Parmesan Cheese」って曲を1人で作り始めた。『PIL』ってアルバムのツアーで中断したりしたから、その合間に作り上げていったんだけど、去年の秋、10月くらいにメンバー集めて、最終追い込みレコーディングがあって、ほとんどの曲はそこでレコーディングした。結局、1人で作りこんだのは3曲だけ。「Parmesan Cheese」と「君をさがす」と「Sky Diving Baby」なんだけど、それは全部1人でやってる。なので、それ以外の曲は秋に椎野さん(椎野恭一:ds)と林くん(林幸治:b)と福士さん(福士久美子:key,cho)でレコーディングして、それでダビングの作業をやって、音自体は今年の1月ぐらいに完成したかな。マスタリングは3月くらいだったけどね。

ーー1人で仕上げた曲とバンドで録った曲は、それぞれどういう風に位置付けてますか。

浅井:人間が全部やってる音楽と、コンピューターが正確なリズムで鳴らす音楽って、まったく違った感触になるでしょう? それぞれ大好きなんだけど、「この曲はコンピューターと向き合って1人でやろうかな」ていうのは、そのときの自分の気分というか、それだけだね。1曲目の「Sky Diving Baby」は最初にキーボードのフレーズがあったんだけど「これはコンピューターでやったらかっこ良くなるな」っていう自分の勘があった。コーラスとかも、Protoolsでやったらいろんなことにチャレンジできるから、すごく面白いんだわ。

ーー今回はコーラスが多いですね。それがアルバムの色にもなっています。

浅井:最近多いよね。一昔前まで、コーラスなんて全く興味なかったんだけど、最近は大好きになってるかな。

ーー「Sky Diving Baby」は切なくて悲しいけど、聴き終わったときに開放感があります。これはアルバム全体の印象にも近いのですが、この開放感は何でしょう?

浅井:音楽でも映画でも何でも、それを聴いたり観たりした後に清々しい気持ちというか、前向きな方が絶対にいいじゃん。落ち込むだけの映画に、俺は存在理由はないと思うんだ。だからスプラッタームービーとか大嫌い(笑)。昔、『Dancer In The Dark』っていうビョークが出てた映画あったでしょう。俺は観てないんだけど、相当暗くなるらしいじゃん? 強いて言えば、「そんな悲惨なことがあるんだから今が大事なんだな」って思える面があるのかもしれないけど、自分が作る歌は、聴いた人がポジティブになるようにしたい。昔は「かっこよけりゃいい」っていう感じで関係なかったけど、最近はそれを意識するようになったね。

ーー以前はズバッと斬るような感じでしたね?

浅井:ズバッと斬ってそれでおしまいっていうね(笑)。昔はそれでいいと思ってたし、またそれに戻るかもわからんけど、今はそうじゃない気持ちかな。

ーーただ、いわゆる応援歌みたいなものとはまた違いますよね。

浅井:応援歌は嫌いなんだわ、俺。ただ頑張れって言うのは軽薄な気がするし。曲作るときには、自分でもどういうものができるのかわかってない中で一生懸命やって、今回みたいなものができると。そういうことなんだよ。

ーーバンドが入った曲に関して、レコーディング現場の雰囲気はどうでしたか?

浅井:俺と椎野さんと福士さんは長いんで。林くんはなかなか無口なんで、「嫌なのかな?」とたまに心配しちゃったときもあったんだけど、そんな心配は無用で(笑)。彼はすごく真面目で音楽に対して一生懸命で、ただ単純に無口なだけだった。喋りだすと喋るし、飲みにも行ったし、当たり前だけど雰囲気は良かったよ。雰囲気悪かったらレコーディングできんでね。

ーー先程も話に出たコーラスワークは、実際にこのアルバムの魅力のひとつだと思います。

浅井:コーラスは…ものすごい大事だよね。作ってて楽しい。声とメロディだけで、歌詞必要なかったりするから、自分の中の好きなメロディでいけるじゃん? 福士さんのコーラスすごくかっこいいしね。やっぱり声の質。それが音楽にはすごく関わってる。声っていうのは、たぶんその人の心が関係してきてるから、不思議ですよ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる