ジャック・ホワイトが語るソロ新作とアナログ再評価「針で溝を引っかく以上に美しいものがあるかい?」

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 2011年に惜しまれつつ解散したザ・ホワイト・ストライプスのメンバーであり、ザ・ラカンターズ、ザ・デッド・ウェザーの中心人物としても活躍してきたミュージシャン、ジャック・ホワイト。彼はレーベル 「サード・マン・レコーズ」を運営しており、今年4月19日のレコード・ストア・デイには、自身の最新シングル「ラザレット」をライヴ音源録音してその場で商品として販売。録音から販売まで3時間55分21秒という世界最速時間を記録するなど、現在もシーンの最前線で注目を集めている。そんなジャックが6月11日にリリースしたソロのセカンドアルバム『Lazaretto』は、ジャックがこれまで数週間で完成させていた作品と違い、約1年という制作期間を掛けた渾身の一枚に仕上がっている。今回リアルサウンドでは、新谷洋子氏が行ったオフィシャルインタビューより、彼が新作で試みたアプローチに関するやり取りを中心に、アナログ盤への再評価が高まっていること、また自身の曲がCMやドラマで使われることに対するユーモラスな返答などを抜粋してご紹介する。(編集部)

「『なんだかまたホワイト・ストライプスの曲を作っちゃったな』と感じることもあるけど、そういう曲は絶対にリリースしない」

――今回は、あなたのキャリアで最も長い時間をかけてアルバムを作ったわけですが、当初からそういう計画だったんですか?

ジャック:ああ。『Blunderbuss』に伴うツアーを終えた時、1年たっぷり休んで、子供たちと一緒に過ごそうと決めていた。その前に息子が生まれた時も、出来るだけ彼の傍にいたいと思って、10~11カ月くらい休んだことがあって、この5~6年ほどは、以前みたいに長期間のツアーはやっていないんだ。2週間やって、2週間休んで、また2週間やるっていう繰り返しだよ。それじゃ全然儲からないんだけどね(笑)。でも出来る限り子供たちと一緒にいたいし、だからこそ今回もたっぷり時間をかけたんだ。それで、どうせ最初から休むつもりなんだから、「人生で初めて、思い切り時間をかけてアルバムを作るっていうのはどうだろう?」って思いついた。それってどんな感じなんだろう?ってね(笑)何しろ、これまで一度もやったことがないから。いつも2~3週間でレコーディングして「終わり!」ってノリだった。でもこのアルバムには1年たっぷり費やした。1年かけて、どうなるか様子を見た。そういうゆっくりしたやり方を、楽しいと感じる時もあったし、こんなのやってられないって思うこともあったよ。だから多くの新しいことを学んだし、そういう意味ではすごく満足していて、やって良かったと思う。いいことをたくさん勉強できたよ。

――じゃあこれも、あなたがいつも自分に課している新しいチャレンジのひとつだったんですね。

ジャック:そうさ。自分がやるとは思ってもみなかったことに挑戦したんだ(笑)。絶対にそれはやらないって自分に言い聞かせてきたわけだからね。そういう意味では、おかしな話だよ。

――で、そのたっぷりの時間をどんな風に使ったんですか? たくさんのアプローチを試したとか、オーバーダブや編集に使ったとか。

ジャック:色んなことに時間を使ったよ。編集作業とかね。例えば最初に公開した「High Ball Stepper」は、確か異なるテイクをまず3つ録音した。どのテイクにも上出来な部分があって、まあまあな部分もあって、でもどれもやたら長くて6分くらいあった。何しろ毎回ライヴでレコーディングしたからね。そんなわけで、3つのテイクを編集して1曲に仕上げたのさ。ちゃんと違和感なくマッチするベストな部分を、それぞれから選んだ。もちろん、拍子やテンポなんかもぴったり合う部分をね。そういう作業にはすごく時間がかかるんだけど、やりながら、時間をかけることで何ができるのか、どれだけ音楽を向上させられるのか、見つけ出していったんだ。

――しかもアナログ録音しているわけですから、それだけ手間もかかるんですよね。

ジャック:もちろんさ。だから今回は例えば、アナログ録音した音源をPro Toolsに移して、2小節だけ編集して、さらに修正後の2小節を再びアナログ・テープに移すというやり方も試してみた。最終的には、テープの音に全てを合わせるんだけどね。1曲レコーディングして、素晴らしいテイクだったのに、ドラマーがドラムスティックを落としちゃったことがあった(笑)。ボツにするのは残念だから、ドラムのトラックを取り出してPro Toolsに移し、そのドラムスティックの音だけを修正してまたテープに移しかえたってわけだよ。そうすれば音源のソウルをキープできる。そういう風変わりな編集作業を、たくさん取り入れているんだ。これまでにやったことがない手法ばかりだった。Pro Toolsはこんな複雑な編集作業にこそ最適なんだよ。アナログじゃ不可能な編集作業に。ただ、Pro Toolsでレコーディングやミックスをすることは絶対にない。それって僕にはしっくり来ない。どこか違和感があるんだ。編集作業なら構わないけど。

――ギタリストとしてはどうアプローチしたんでしょう。このアルバムでは、ギター・ソロが聴こえてきそうな箇所で、フィドルやスティール・ギターが聴こえてくることが多いですよね。

ジャック:だって、アコースティック楽器をこんな風に例証するのは、素敵なことだと思うんだ。特にフィドルみたいな楽器をね。っていうか、フィドルはある意味でギターの原型だ。ふたつの楽器はすごく似ていて、それでいて鳴らす音は全然違う。初期のロックンロールでは、フィドルについて歌うことも珍しくなかった。チャック・ベリーの『Roll Over Beethoven』にも“Hey little little/ I’m playing my fiddle/ Ain’t got nothing to lose”って歌詞がある。それってすごくクールだよね。ギターについて語る時にフィドルって言葉を使っているんだ。フィドルもギターも仲間だからね。そういったことが、ずっと頭にあったんだよ。その上、どっちのバンドにも素晴らしいフィドル奏者がいるから、ついフィドルを取り入れたくなるし、フィドルはジャンルを超越する楽器でもある。オーケストラや室内楽にも使われるし、ブルーグラスやカントリーにも使われていて、ロックンロールからはさほど聴こえないかもしれないけど、僕は大好きなんだよ。

――究極的にこのアルバムは、今あなたがいる場所について何を物語っているんでしょう?

ジャック:パーソナルな意味で僕という人間について語っていることは、さほどないと思うよ。でも、ソングライターとして、かつプロデューサーとしての僕に関しては、多くを物語っている。というのも、これまでにやったことがない新しい試みをたくさん取り入れているから、このアルバムを聴いていると、「これはザ・ラカンターズのジャック・ホワイトでもないし、ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトでもなく、間違いなく2014年のジャック・ホワイトだ」と実感出来て、僕は深い充足感を覚えるんだ。たまに曲を作っていて、「なんだかまたホワイト・ストライプスの曲を作っちゃったな」と感じることもあるけど、そういう曲は絶対リリースしないからね。

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